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139. 子どもはコーチを選べない

先日、子どもたちとアイスホッケーをする機会があった。

ホッケースクールのゲストコーチとして招かれ、20人近くの若きホッケー選手たちと2時間ほど一緒に過ごさせていただいた。今日はそんな中でふと感じたことを書きたいと思う。

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子どもと触れ合う中での気づき

参加者の年齢は、上は中三から下は幼児までと幅広く、スケートを始めたての子もいれば、すでに基本的な動きは何一つ問題なくできる選手もいた。

このように様々な子どもたちと接することのできるホッケースクールという時間が僕は大好きで、氷の上で無邪気にはしゃぐ子どもたちを見ると、つくづく、この子たちがどうかこれからもアイスホッケーという競技を心から楽しみ続けてほしいと、いつも思う。

彼ら彼女らと過ごせる時間は、僕にとって本当に特別で、幸せな瞬間だ。

ただ、皆と過ごすことで生まれる幸せな気持ちの裏に、僕の中で湧き出てくる思いがもう一つある。それは、子どもたちはコーチを選べない、ということだ。

どんなコーチに出会うかは博打?

子どもはコーチを選べない。

ユーススポーツにおいて、基本的に子どもたちは親が決めたチームに入り、そのチームにいるコーチたちから競技を教わることになる。

そして、どういったコーチに教えてもらうかは、子どもたちがその先もスポーツを好きでい続けられるかどうか、そしてスポーツを楽しみ続けられるかどうかに大きく影響すると僕は思っている。

ある程度自分で所属先が選択できるようになる高校・大学・プロ年代とは違って、園児や小中学生時代に関しては、基本的には地元のクラブチームに入る(いれられる)ことになり、そこでどのようなコーチに出会うかは、もはや運次第という状況は、いろんなところで起こっているのではないだろうか。

僕は基本的に、「子どもがスポーツを嫌いになる」という事象に対して、そこに子どもたちの非は一切ないと思っている。子どもたちがスポーツを嫌いになる理由は、常に、必ず、その周りの人々や環境にあるはずだ。

少し前に、スポーツをする子どもたちを持つ親の役割について書いたことがあったけど、今回フォーカスするのは、指導者だ。

ユーススポーツにおける、コーチの役割は本当に大きい。(ユースに限った話ではないけど)

子どもたちは、偶然出会うコーチによって、教えてもらえる技術も、スポーツに対する向き合い方も、全てが変わってくる。

明確な定義はともかく、ここではわかりやすく「良いコーチ」と「悪いコーチ」という事にする。ユーススポーツにおいては、運よく「良いコーチ」に出会える子どもたちと、逆に運悪く「悪いコーチ」に見てもらうことになる子どもたちが必ず出てくる。

もちろん、こういった各コーチにおける指導の差をなくすために取られている制度が「コーチライセンス」というものなのだと思うけど、アイスホッケー界でいうと、ユーススポーツにおいてこのライセンスはほぼ無いに等しい状態だと思う。他のスポーツでも、こういった現状はあるのではないかと思う。

地域のクラブチームにおいては、ほとんどの場合、「もともとプロでやっていた人」だったり、「競技経験のある父兄」がコーチになることが多いと思う。学校の部活でもそうだ。

子どもたちがそのスポーツをやる理由、そのチームに所属する理由はそれぞれ違うと思う。本気で上手くなりたいと願っている選手もいれば、ただ楽しみたいと思っている選手もいるだろうし、そもそも本人にはその意思がなくても、親が無理やりやらせているなんてケースもあると思う。

個人によってその場にいる理由は違うかもしれないけど、コーチとしてその選手たちを見ることになる者は、どんな理由であれ子どもたちを成長させること、そして楽しませるという責任があると僕は思っている。

時々、目を疑いたくなるような映像を目にすることがある。それは、コーチから選手への体罰だ。ボールを選手に向けて叩きつけたり、「指導」という建前で子どもたちに対して暴力をふるう人がいる。これは、到底許されるものではないと僕は思う。そもそも、スポーツを抜きにしたとしても、普通に考えたら、暴力で子どもたちをまとめようとすることは恐怖による支配体制にほかならず、そのようなことをしても子どもたちからの信頼を得ることなど出来るわけがないことは火を見るより明らかなことだと思うのだが、今日においてもそのような悲しい出来事は起こり続けている。

練習に行くたびに痛みを伴う経験をする羽目になる子どもたちが、どうしてスポーツを好きになることができるだろうか。

僕が「子どもはコーチを選べない」というと、こう返す人も出てくるのではないかと思う。

「だったらチーム移籍すればいいだけのことじゃん」と。

確かにそうかもしれない。ただ、これも決して簡単な話ではない。

チームを変えるとなると、チーム探しから始まり、日程や送り迎えの距離も変わり、なにより今までとは全く違う新たな組織に子どもは入ることとなる。そして、どれだけ前評判を聞いていたとしても、そこで出会うチームメイトや指導者が実際にはどういった人かは入ってみないと分からない。

僕は、スポーツ組織は全体的に透明性が低いと思う。いくらネットやチラシ、ソーシャルメディアで練習の様子を見ても、全てがわかるわけじゃない。実際に組織の中に入らないと分からないことだらけだ。(スポーツに限った話ではないだろうけど)

だからこそ、そこでたまたま入ったチーム、入ったリーグ、入った年代、そして、受け持つ指導者によって、子どもたちの未来が損なわれてしまう可能性がある現状は、僕はとても悲しいものだと思っている。

子どもが出会うのが「良いコーチ」なのか「悪いコーチ」なのかは、もはや一種の博打のようなものだと思う。

「たまたまそのチームに入ったから」

「たまたまそのコーチに教わったから」

という理由で、そのスポーツを嫌いになってしまうような子どもたちは出てきてほしくないし、出てくるべきではない。

今、指導者が出来ること

これを実現していくには、まず第一にコーチ側の質を上げることは絶対的に必要だと思う。さっきちらっと「コーチライセンス」の話をしたけど、必要不必要はさておき、どんな場所、どんな年代、どんな人であれ、ある程度一定のレベルの指導をすることが出来るようになることが好ましいと思う。

ただ、これも言うは易し行うは難し、というやつだ。

アイスホッケー界で言うと、正直な話、子どもたちがチームに関係なくどんな指導者からも一定のプログラムを受講できるようになる日は、少なく見積もっても何年も先のことだろうと思う。僕が現役の間に、そのような環境が整うとはなかなか想像しにくい。これを実現するには、日本アイスホッケー界におけるユース年代の共通育成プログラムの普及が必要になる。ただ、これを待っているとどんどん月日が経ってしまうだろう。

だからこそ、今すぐにでもできることがある。

それは、指導者側の意識改革だ。

スポーツを通して子どもと接する人は全員、自らの一挙手一投足が子どもの未来に影響を与えかねない、ということを強く理解すべきだと思う。

これは、僕ももちろん含まれる。

ありがたいことに、僕はよく日本帰国中に「ぜひうちのジュニアチームの練習に乗りにきてください!」と言ってもらうことが多い。子どもたちと実際に触れあうこの時間こそ、僕は最も慎重になるべき時だと思う。単純に、アイスホッケー選手として「上手なお手本」をみんなに魅せることもそうだし、スケートの乗り方を教えるときもそう。パックで楽しく遊ぶ時も、真剣に話をするときもそう。僕は常に、子どもたちの目線に立ち、「この子たちには今何が必要なのか」を想像し続ける必要がある。

正直なことを言うと、今回のホッケースクールでは、「子どもたちの目線に立つ」ということがしっかりとできていなかったと深く深く、反省している。いや、自分ではできているつもりでいても、スクールを受ける側からしたら、物足りなさや子どもたちとの接し方について疑問を感じる時間にしてしまっていたと思う。自分自身、メニュー作成や目的、準備の段階でまだまだ至らぬ点が多くあり、今回のスクールに時間を割いて参加してくれたこどもたち、それを実現してくださった親御さん、スクール実現のために尽力してくださった方々に対して、満足のいく内容を提供させていただくことが出来なかった。本当に申し訳ないことをしたと深く反省している。自分の未熟さや甘さを、人から言われて初めて気づいたことが多くあった。「子どもたちに寄り添う」ことの重要さを痛感させていただいた経験となった。

今回、「教える」ことについて自身の理解を改めるべきだと強く思った。自分は「子どもたちにホッケーを教えに行く」のではない。こんな傲慢な態度は許されない。僕は今回、多くの方々の配慮によって、早朝にもかかわらずみんな集まってくれて、2時間近く子どもたちに直接触れ合う機会を頂いた。つまり僕は「教えるチャンスを多くの人からいただいている」ということだ。自分が与えているつもりで、実は多くのものを僕は与えられていた。

だからこそ、この多くの人が作り上げてくれた貴重な時間に対して、僕は全力でこたえなければならない。自分の行動一つで、誰がどんな思いをするのかを、もっと考えなければならない。それが、子どもたちとアイスホッケーをするときの、いや、人と関わるときの、自分に与えられた何よりも大きな責任だと考える。

子どもはコーチを選べない。

もちろん、子どもが自由にコーチを選べるような日々がいつかは来るかもしれない。でも、今までそれはできていない。

だからこそ、「たまたま」子どもに選ばれたコーチは、責任を持って彼ら彼女らと接するべきだ。

自らの行動で、子どもの未来を途切れさせないために。

少なくとも僕は、今後必ずそうしていく。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

三浦優希

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(今回のスクールを一緒に行ったメンバーと。写真はThe Social さん提供)








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