会わない後悔より、会う後悔なんてすごく綺麗事だった。
私は、9歳の時に両親が離婚し、父と二人暮らしをしていた。多感な時期には父とも色々あり時々、友人宅に居候もさせてもらっていた。
両親の離婚は、妹は3歳の時だから、覚えてるかどうかも微妙な頃である。彼女は母と一緒に暮らす事になり、私達姉妹は離ればなれになった。
妹と再会したのは、今から6年前の事。
実に、30年ぶりという運命的な節目だった。
きっかけはそれより3年程前に、突然ある県の市役所から、手紙が来たのである。
『貴方のお母様が、訳あって生活保護を受けているが、貴方は家族として彼女を面倒見れませんか?』
というものだった。
私は、突然の事で何が何だかわからなかったし、母がその居住地に居る事もはじめて知った。
第一母親は私の事が嫌いで、私は物心ついた時から両親が離婚するまでの間に何かにつけて暴力を振るわれていた。
それも、一発二発の話ではない。馬乗りになって半時間から小一時間なんて、日常茶飯事だった。私は要らない子どもだったんだろうな、と毎日思っていた。妹の事は可愛がっていたから。
自分の存在価値を見出せず、希死念慮にかられる日々。
私が父に顔も話し方も似ていて、見ているだけで腹が立つ、憎い子だとよく言われた。
私は母に対する憎しみで、何とか希死念慮を頭の中から取り払う事ができていた。
自分が母になった今でも、彼女がした事を理解できないし、許せない。ただ、子どもの頃のような尖った感情ではなくなっていた。自分の頭の中から、なるべく無かった事にしたい気持ちが大きいのだろう。
両親の離婚から27年後に、突然生活を面倒を見れませんか?と言われても、正直無理だなと思い、返答すべきだったかも知れないが、私はスルーしていた。
3年後の30年ぶりの再会のきっかけとなったのは、言うまでもなく妹だった。
突然会える事になった。
市役所の人間が、私に連絡をよこしてきた。
妹さんがお母様の件で会いたいと言われていますが、どうですか?
恐らく、ついでに生活保護もやめてもらいたいのだろう。この時、傍に妹が居るのに私に連絡が来たのは何故なのかを、もっと真剣に考えるべきであったと後悔している。
私は、生活保護の件はともかくとして、会って話し合いたいと返事をした。
私は、離れて暮らすようになってから、ずっとずーっと妹が気がかりだった。
しかし、彼女が何処でどうしているか、母と生活しているか等、私も父もわからず、もしかすると生きている間は2度と会えないかも知れない、と思っていた。
だからこそ、会えるものなら会っておきたいと感じたのだ。
母は、病院に入院していたが、もう長くないとの事であった。脳に腫瘍ができ、重い障害があり、既に誰が誰かわからなくなっている、と妹から聞かされた。
その上で、今後の話し合いをしたいから会いたいと言われた。
私の母に対する、無理矢理忘れようとしていた複雑な感情は、更に心の奥に押し込めるしか無くなっていた。
会って妹と話せば、今までの人生お互い大変だったねと言えるかも知れない。そう思った。
…しかし、再会してそんな考えは甘かった事を思い知らされる。
会うなり、妹、妹のダンナにそれぞれ呼ばれ
不仲なのだがどうしたらいいか?離婚した方がいいのか?からはじまり
妹のダンナからは、
金がないが、生命保険は解約したくないだの
アルファードは売りたくないだの、でも明日を生きるお金もないだの
妹からは、ダンナと離婚しようか悩んでるだの
私は施設に預けられて大変だった、姉さんはいい人生を送ってるだのと一方的に言われ
それも、私が早々に切り上げて何とか1時間。
時間の無駄です。
あのー、妹のダンナに至っては初対面ですよね?
何故突然人生相談されるのか?
恥ずかしくないんですか?
妹も、依存的で全く自分の考えがなく子どもが3人居るが、殆どほったらかし。
人の気持ちがわからず、ずけずけと言い自分が一番大変だったアピール。
ついに、妹は切り出してきた。
『あのさ、絶対返すから。お金貸してくんない?』
『姉さんの家に皆で住めばいいよね?家賃かかんないし。私もう仕事辞めようと思ってさ。』
はぁ?何を寝言言ってんの??
私は勿論、こちらはこちらの生活があると断った。
子ども達がお腹空いたと言ってると言い、細かいお金を持ってないと言ってその日の外出代も、うちのダンナに払わせるわ
母が亡くなった時の御導師様代も、折半の約束が守られる事は無かった。
…私は、とてもとても後悔した。会ってする後悔もあるのだと思い知らされた。
彼女は、とんでもない寄生虫のような人間になっていた。ダンナもそうだ。
毅然とした態度で自分の生活や、自分の家族を守らねばならないと思った。
彼女に、縁を切るので2度と連絡してくるなと伝えた。携帯も着信拒否、家に来るような事があれば不法侵入で訴えると告げた。
また、私の人間不信が一つ進化してしまった。
別に同じ価値観でなくていい。
普通に話ができて、普通の関係性でいいのに。
それも許されないらしい。何とも奇特な運命である。
でも、それなりに幸せな人生を過ごせていると感じよう。
毎日を、ただ懸命に過ごせる事が幸せだ。
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