離さないって決めたから。【伊波杏樹 KILLER MIRROR GIG カバー楽曲編】
※本稿は、きらみらGIGの「カバー楽曲」のみを取り上げたものになります。本編とはテンションや文体が異なりますこと、ご了承くださいませ。
※本編をお読みでない方は、こちらを先に読んでいただけますと幸いです。⬇
私は、伊波杏樹さんがくれた言葉をどう受け取ればいいのか。
それを考えるために、私は今Inamin Townという場所に身を置いていると言っても過言では無い。
伊波さんのオリジナル楽曲に並々ならぬ想いが詰まっていることは言うまでもないが、カバー楽曲に込められている想いも相当強い。
伊波さんの歌うカバー楽曲は、聴いている人にとっての「思い出」も抱きしめつつ、その上で「伊波さん自身の思い出や届けたいメッセージ」を届けるのが一番のテーマである。
実際、伊波さんがきらみらGIGで選曲したカバー楽曲は、最近の楽曲から随分と昔の曲まで多岐に渡る。その中でも「伊波さんが小学生~中学生の頃」に見たテレビドラマのテーマ曲を選ぶのも、役者を志すきっかけとなった一因でもあるだけに、実に伊波さんらしい。
カバー楽曲を歌う際、3枚目のようにジャケットを脱ぎ白い衣装でステージに立っていた。
その理由を、伊波さんは思いを噛み締めるように語ってくれた。
言わば、『何にでもなれるアーティスト』という伊波さんの矜恃はこの上ない武器。
強烈に光る伊波さんのアイデンティティ。自らが作詞した楽曲でそれが光り輝くのは最早説明不要だが、カバー楽曲では「これまた違った個性が光る」。
伊波杏樹さんのバックボーンに大きく関わってくるカバー楽曲の数々。このように丁寧に紡がれた想いは、今回も会場に訪れた人の心を打つのであった。
福岡 M07. さくら(独唱) - 森山直太朗
春。誰もが新たな門出を迎えるこの季節に、まるで伊波さんが祝ってくれているかのように。
それと同時に、伊波さんは「たった一度きりの門出の瞬間」を噛み締めるかのように。
揺れるピンクの光は桜の花びらのように舞い上がって、ドラムロゴスを照らしていく。
―――――― さあ、Inamin Townに春が来た。
桜の花はとうに散った後。
それでも会場内に桜吹雪が舞う。
仕切り扉もないドラムロゴスでは、祝い花の胡蝶蘭が花吹雪のピンクの光に照らされていたのだろう。
胡蝶蘭の花言葉:「幸福が飛んでくる」
桜の花言葉:「精神の美」「優美な女性」「純潔」
胡蝶蘭がなぜ開店祝いで飾られるようになったのか、花言葉を考えてみるとスッと合点が行く。
『門出の瞬間=良い滑り出しでなくてはならない』とは限らないが、順風満帆の船出とするためにはある程度の『幸運』も必要である。
それを見越して胡蝶蘭とは、一本取られた気がした反面、ジワジワと心に沁みる。
伊波さんが贈った『前途の幸福を願うための胡蝶蘭』に、『清らで優美な伊波さんの姿』を桜の花にトレースするかのようにピンクの光が差し込む。
その2つの花言葉がクロスするかのように、伊波さんの門出を皆で喜び合う。
本当におめでとう、伊波さん。そして、祝ってくれてありがとう、伊波さん。
福岡 M08. リバーサイドホテル - 井上陽水
ステージは一転、まるで暗い夜道に橙色のハロゲンライトがポツリと照らしているかのように変わる。
歌い出しも、何処か退廃的な雰囲気を醸し出す。
生きていくのに疲れ果てたのか。惰性的に夜の街に運ばれ、オシャレな雰囲気の「リバーサイドホテル」に吸い込まれていくカップルの様子を、伊波さんはアンニュイな表情で歌い上げていく。
―――――― この曲、所謂「福岡に縁のある曲」として選ばれた曲である。
井上陽水さんは言わずと知れた「福岡が生んだレジェンド歌手」であり、筆者の親父(58)も彼の曲に非常に親しみを持っていた。
この「リバーサイドホテル」、実はモデルが実在している。クチコミによれば熊本県杖立温泉の「くきた別館」って所らしいが、真偽は定かでは無い。無論、沼津にある某ホテルのことではない。
こういう艶話っぽい歌でも躊躇することなく表現に徹する。こんなの舞台とかでゴマンとやってきてるはずやし。むしろ、こういう比喩的表現 ―――――― 井上陽水イズムが色濃い歌詞を好むのも、伊波さんなら想像に難くない。
閑話休題。井上陽水さんといえば、同じ福岡出身のタモリさんと親友である。
テレフォンショッキングにも度々出演していたのを、ガキの頃の私でも記憶していたほどだ。
「リバーサイドホテル」における井上陽水イズムの真髄をタモさんが語っているシーンもあり、必読。⬆
さて、当の伊波さんはというと……
「そのテレフォンショッキング、先月やってたんだよなあ……」
まさかのタモリ→井上陽水のコンボを1ヶ月越しに達成。……まあ伊波さんはきっと意識の欠片もなかったのだろうけど、かと言って自分でも表現しづらいけど、なかなかに凄いことをした気がする。
名古屋 M07. 恋のつぼみ - 倖田來未
一週間後。ダイアモンドホールで迎えた名古屋公演。カバー曲の1曲目に選んだのは『子供の頃の追憶』を呼び覚ますための曲だった。
2006年にフジテレビ系で放映された「ブスの瞳に恋してる」のテーマ曲。SMAPの稲垣吾郎さん、森三中の村上知子さん、蛯原友里さんなどが出演。今考えれば錚々たるメンバー。
伊波杏樹さん、当時小学5年生。黒木瞳さんの演技に憧れた頃と丁度重なる。言わば、伊波杏樹さんの『役者人生の原点』にまつわるもの。すなわち、同年代の人たちに対する"当時のテレビドラマ"への共感を求めたものとして選曲されたと考えている。
どこの公演かは忘れてしまったけどMCあたりで、「伊波と同い年だよー!って人!✋」と呼びかけていたのをここで思い出してみる。
1996年2月7日生まれ。世代的に言うと、伊波さんは早生まれなので「1995年度生まれ」ということになる。つまり、会場で手を挙げていたお兄様方は、一際特別なアイデンティティを持っていることになる。羨ましいわあ。
それに加え、最近では「同世代間の結束」が日に日に強まっているInamin Town。例えば、1998年度生まれとか1999年度生まれとかで集まってみたりとか。
昔遊んだゲームやハマってた漫画やアニメ、そして大好きだった映画やドラマ。同学年で集まると、その手の話題には事欠かない。
この辺の年齢層になれば、恋のつぼみを聞いただけで「ブス恋」をパッと思い浮かべられるのも一緒だったし、そのことで語り合えるのも楽しいひとときだった。
名古屋 M08. ひまわりの約束 - 秦基博
呼び覚ましたのは、5年前の晴れ渡った神戸の夏空。 そこで私は、伊波杏樹さんと出会った。
ふと振り返れば、私の生活や節目節目の出来事に「伊波さんがそばにいた」と感じさせる今日この頃。
私が初めて伊波さんから貰ったもの。自己肯定感も能動的に動ける勇気もまるで無かった私が変われたきっかけを、この曲から貰ったと言っても過言では無い。
自分にとって大切な人たちに笑っていて欲しくて、この日が来るまで私は試練や困難を戦い抜いてきた。
あれから5年。祖母は亡くなり、父は心筋梗塞で倒れもう意識が戻ることは無い。
それでも、挫けずに大学院修士課程を修了し社会人になれて。失ったもの以上に、多くのことを得られた5年間だった。それもひとえに、「伊波杏樹さんの真っ直ぐに物事をやり抜く生き様」を追求してきたために為しえたことだと信じている。
―――――― 答え合わせ。去年の暮れにもそんなことしてたけど、ここに来て5年前の答え合わせが出来たとはな……。
5年前神戸にいた私に報告するならば、「ひたむきに何かを頑張れることが好きになれた」と伝えたい。
もし5年後にも「ひまわりの約束」が聴けたなら、5年後の私は一体何を伝えてくるんだろうか。密かに楽しみにしてよう。
東京(昼夜) M07. CITRUS - Da-iCE
絶対にこの手を離したくないんだ。
日本武道館に辿り着くまで絶対に。
伊波さんと誓った約束だから。
初めて聴いた曲。Aメロから「この曲カッケェなあ……」と思ってたところ、その数秒後サビで心を揺さぶられることになろうとは。
2022年1月29日。そう、あの日の記憶。あの記憶が瞬時に呼び覚まされた。
今にも消えてなくなりそうだった繋がりとモチベーション、バイタリティ。
「エンタメ、生の舞台を無くしちゃいけない」とボロボロになりながら繋ぎ止めた伊波さんの執念が実を結び、あれから更に2年走り続けた。
アンフィシアターでの再会から2年、再び役者人生の灯火が消えかかっても『逢いに行く』『繋いだ手と手を離さない』の合言葉の元、繋ぎ止めることが出来たある種の成功体験。
そんな人生に未練などあろうものか!!
サビの部分で、命を燃やし尽くすかのように『叫ぶ』。
『鬼気迫る』といった表現がピタリと当てはまるほどの歌声と形相。
上記のYouTube動画のリンクで、公式のMVではなく『THE FIRST TAKE』の歌唱動画を掲載したのは、伊波杏樹さんの歌い方がそっちの方に近かったため。
具体的に言えば、花村想太さんの歌うパートの「強く心の臓掴まれた様で(2番Aメロ)」や「無作為に伸びてる雑草も(ラスサビ)」のエッジボイス。
"がなり"を入れるタイミングもほぼほぼ一致していたと記憶している。
公演後何度か音源版のCITRUSを聴いてきたものの、ふと思い立ってFIRST TAKE版を聴いてみると、東京公演での伊波さんの歌声が蘇ってきたのだ。
そして落ちサビ。多田さんのキーボードの音、恭平さんのギターの音、えめりさんの打楽器の音 ―――――― すべての音が消えて静寂に包まれた瞬間。伊波さんは大きく息を吸い込み、自らの持てしすべてを出し切るように"叫んだ"。
離さないって決めたから……!!
静寂を切り裂く伊波さんの魂の歌声。
私はそっと静かに涙した。
2年前のあの約束は絶対に忘れない。アーティスト活動を通じて"ホンモノの強さ"を絶対に手に入れてみせる。
想像の域を超えないが、この叫びはきっと伊波さんの決意表明だったろう。
去年「私は最強」聴いた時もそうだったけど、『本当に伊波さんについてきてよかった』と心から思えた。
東京昼 M08. 栄光の架橋 - ゆず
説明不要の名曲。
伊波さんのこれまでの軌跡が走馬灯のように…
伊波さんが歩んできた道程は、あまりにも激しすぎる栄光と挫折の連続だった。
「アニストテレス」で準グランプリを獲って鮮烈なデビュー。
途中で歌うことが嫌いになるほど打ちのめされるも、地道に舞台と作品と役に向き合う日々。
途中で相棒の高海千歌と出会い、Aqoursとして東京ドームや紅白歌合戦の舞台にも立ち、逆風吹き荒れる極限状態の中でも全身全霊で駆け抜けた。
そして、ミュージカル出演という夢を叶え、ちょうどこの頃立ち上げた「Inamin Town」の仲間達も彼女の勇姿を今でも鼓舞し続けている。
しかし、理不尽極まりない世情は彼女の進路をズタズタにしていった。彼女が言葉にするのも憚っていた「コロナ」という災禍。
結局何が怖いって、感染症そのものではなく「荒みきった人の心」が生み出した「毒」。
なぜ世間は口を揃えて、規律やモラルを守ってる我々に対して暴言を吐くのか。エンタメ業界が無抵抗のまま滅ぼされるのか。
そんな荒んだ世の中でも絶対に諦めることはしない彼女は、憧れの海賊船「DisGOONie」と西田さんに出会い、一度は叩き潰された機会のリベンジとして「Dreamy Concert」をAqoursの9人で成し遂げる。
そして迎えた「Reach Out Your Hand」を新曲を引っ提げた上で公演を成し遂げ、見事に"伊波杏樹の表現の世界"の息を吹き返して見せた。
でも、その災禍を乗り越えた先は更なる地獄だった。
この年の夏から秋頃にかけて味わった、彼女にとっての過去一番の挫折だったのだろう。
2022年のクリスマス、「Mille tendresses(1000の優しさ)」と名付けられたイベントで、彼女は人目も憚らず涙した。脳裏にチラついた「役者引退」の4文字。
それでも、これまで支えてくれたいな民の仲間達を見て、これからも諦めず頑張っていくことを決意した彼女。
そうやって辿り着いた「アーティストデビュー」だった。
さて。私がこの曲で涙したもう一つの理由。
私が贔屓している球団、阪神タイガースにまつわる話。
2023年シーズン、アレに向かって駆け抜けた猛虎軍団は18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一を成し遂げた。
リーグ優勝、日本一まであと1イニングのところで流れた「栄光の架橋」。登場したのは守護神の岩崎優。
実はこの年の7月、守護神の岩崎・左の中継ぎの岩貞・正捕手の一角を担う梅野と同期入団の横田慎太郎が脳腫瘍のためこの世を去った。享年28。
横田は2019年に脳腫瘍の後遺症のため24歳の若さで現役を引退したが、目が十分に見えない中でも引退試合で「奇跡のバックホーム」を成し遂げた伝説の外野手である。
野球をとにかく純粋に楽しむ「永遠の野球少年」とも評された横田が登場曲にしていたのが「栄光の架橋」だったのである。
◆◇◆◇◆◇
横田さんは1995年の生まれ。つまり、伊波さんと同学年。
あれほど若い人が志半ばで逝くという、あまりにも受け止め難い現実。
それでも生きるため、自分を表現するため、そして勝つために見せた執念が「栄光の架橋」に乗せて人の心に沁みたのならば、この歌とともにひとりの人間の存在価値を示したということになる。
とにかくこの命ある限り、走り続けていれば必ずどこかで報われる。
命を削ってまで役と向き合い続けること ―――――― その何気ない日常が尊いんだ。
横田慎太郎。彼はきっと、雲の上から「何気ない日々を全力で駆け抜けている人たち」を見守ってくれているのだろう。
東京夜 M08. LA・LA・LA LOVE SONG - 久保田利伸
東京公演夜部、いな民の記憶に色濃く残る曲が再び登場。
2018年12月25日、一番最初の「An seule étoile」で歌った曲のひとつ。
1996年にフジテレビ系で放映された月9ドラマ「ロングバケーション」の主題歌。
何を隠そう、伊波さんがゾッコンだったキムタクこと、木村拓哉さんが主演を務めていたドラマである。
龍が如くでのキムタクの演技力に惚れ込んだくだりが、『伊波杏樹のRadio Curtain Call』のキャスト(リスナー)ならほんのり記憶にあるかもしれない。
「私が現地参戦する前のカバー曲、LA・LA・LA LOVE SONGだったりサムライハートだったり、もう聴くことないんだろうな……」と諦めかけていたところでのリバイバル。
隣でナチュ連番した知り合いのいな民の方も大興奮で、私の方まで嬉しくなって。
一度聴いた人にも勿論、初めて聴いた人にも魅力が滾々と伝わる「リバイバルシリーズ」。
これからもリバイバル、じゃんじゃんやっちゃって下さい伊波さん。
大阪 M07. ファイト! - 中島みゆき
「大阪でのカバー曲は1曲だけ。」
それ程の覚悟を持って臨んだ曲は、期待の斜め上を行く伊波さんの思いの強さだった。
弱いスポットライトの下、舞台上で胡座をかく。
手に持っているのは"お便り"だろうか、数枚の便箋を持ってステージ上に座り込む。
ヤサグレたような表情で「歌詞の中に綴られた役へと憑依する」。
タイトルだけ見たら「頑張る人への応援歌」に見えるが、歌詞はその割に弱い自分に対する自虐的なエピソードを並べたもの。つまるところ、この歌の解釈はこうだ。
自分の敵は自分である。
こんなにも弱気でクソッタレな
自分自身をぶっ倒すために。
この世の闘いはすべて自己完結している。
ここであえて持論を述べるのならば、この世の理不尽を納得させることの出来ない自分が悪いと標榜するのは、自身の健全な心を壊すかもしれない諸刃の剣である。
それでも、伊波さんはずっとこのやり方で10年間の役者生活を生き抜いてきた。ある意味役者さんの生き方としては、この方が王道なのかもしれないが。
少しハラハラするけど、伊波杏樹さんの揺るぎないこの生き様にどれだけ勇気づけられたのか、その事実に気付かされる。
随所随所に出てくる関西弁や広島弁を織り交ぜながら"お便りを読む"ような"演技する"ような、そんな伊波さんの姿。激動だった役者人生がバックボーンにあるため、歌詞に書いてあるエピソードの説得力が非常に強い。
まるで「過去の自身が受けた様々な仕打ちや理不尽」を思い出すかのように。
そして、歌が進むにつれて伊波さんの声の勢いは増していき、転調後の力強い歌い方に発展していくのであった。
総括
この8曲にはそれぞれ2つのテーマが内包されており、1つは『伊波杏樹さんのバックボーンにまつわる話』、もう1つは『伊波杏樹さんの持論に関する話』が介在していると考えられる。
この基幹はInamin Townの活動が始まってから全くブレていない。
なんとなく伊波さんの伝えたい想いをなぞると、『追憶を感じさせる曲』と『本音を語る曲』の2つに分けられる気がする。
この中でも「CITRUS」「栄光の架橋」「ファイト!」は、その両方の要素が色濃く反映されている曲だと感じた。
過去を顧みて、そこから決意を示す。そして、聴いてる人たちの道標となるよう気持ちを込める。そういう論理展開がベースにあるからこそ、伊波さんがその3曲を歌う時に圧倒的な説得力を生むのだ。
「An seule étoile」から始まった伊波杏樹さんの"カバー曲の魔法"。
言葉が持つ力を誰よりも理解しているからこそ、伝えたいことを穿った見方をせず届けることが出来る。
どうか、この魔法が5年後、10年後、もっとその先の未来でも聴いている人の心に届くように。
私はその奇跡を見届けながら願うばかりである。
おしまい。
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2024年5月20日
中井みこと
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