時間
時間とは不思議なものだ。
体感で六十ページくらいしか読んでいないと思ったら百ページくらい読んでいた。二時間なんていう時間はあっという間に過ぎていく。
僕は文庫本を閉じ、宙の一点を見つめる。小説を読んだあと、呆ける時間が好きだった。
この「呆ける時間」というのはとても大事だ。
ここ数日の陰鬱な感情を全て洗い流してくれる。
すべては言い過ぎかもしれない。
家族の中では僕が一番本を読む、父からの褒め言葉だ。これだけは僕が唯一誇っていいことかもしれない。生まれつきの持病で家から出ることが滅多になかったから、仕方ないといえば仕方ない。
その「持病」が関係しているのかいないのかは分からないが、いや、おそらくは関係しているが、僕の心が躍る瞬間といえば、新しい小説やゲームを買ったときに傾いている。
例に漏れず今回も僕の心は躍っていた。新しい小説を買って、腕白な言い方をするならば、今度はどんなおもしろいお話なのだろう!とワクワクしていた。
話は少し変わるが「心が躍る」という言い回しは見事なものだ。「心」を擬人化して、それが喜び舞う姿が安易に想像できる。この言葉を作った人は当時はどんな気分だったのだろう。