柳の下で、また会おう
少し風の強い日、春が春を連れてくる。桜はもう少しで咲きそうな予感だ。
ここにあるのは憧れとか夢とか、そういうのが詰まったやつで、ここに来れば何かが変わるっていつも思いながら自転車を停めていた。
ベストプレイス
こういう場所のことをそう言うのが乙なのだそうだ。誰が言ったかは知らぬ。
しかし不遜、怪しげな格好という概念に手足が生えればこうなるのであろう老人が先客にいるではないか。仕方がない。少し後ろに座って待つとしよう。ただぼんやりと川の流れを眺めているだけでも、それはやはり乙なのだ。誰が言ったかは知らぬが。
若いの、もうすぐ春じゃなぁ
この爺さん話しかけてきた。カメラマンや異国人から声をかけられることは少なくはないのがこの場所だが、彼らが話しかけてきたのは音楽をしている私であってぼんやり川を眺めている私ではない。私がうら若き乙女であったならば、きっと明日の朝刊にも片隅にでも小さく不審事案として掲載されることだろう。
わしと少し、お喋りをせんかね
有無を言わさない老人の軟派に、私はしばしの間立ち止まり、物憂げな語り口と付き合うこととした。
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