雨の夜の擁壁に青い苔
今年の夏は、庭先の芭蕉が背丈をなかなか伸ばさないと案ずるうちに、9月の秋、残暑が3日ほど続いて、そのあいだにみるみると背を伸ばした芭蕉は垣根を超え、優に自分の背を越えてしまった。伸びれば伸びるほど、秋風に吹かれて、はかなく葉が破れていく。雨の夜などは、はらはらと葉に注ぐ音が侘しく、なんとも痛ましい。そんな寂しい秋の夜は眠れぬことも多く、仕方がないので縫物でもと針糸を手にする。これは幼い頃、伯母から習ったもので、襟を縫うのが難しくて喧しく言われるのがいやで、ついに放り投げては神