MCバトルがやめられない
やめられないものについて記してみるシリーズ。前回はこちら。
何かについて「やめられない」と言うとき、
根底にあるのは「やめたくない」という気持ちだと思う。
かっぱえびせんの「やめられない、とまらない」というキャッチコピーには「食べるのをやめたくない」という気持ちがベースにあるし、わたしの場合酒もやめられないものの1つなんだけど、気の置けない友人と飲むのが大好きで、どんなに二日酔いで苦しんだとしても次の誘いがあればホイホイ飲みに行ってしまう。
でもかっぱえびせんを3袋続けて食べたら気持ち悪くなるし太るし肌荒れする。お酒も自分の限界を超えるほど飲めば身体や人間関係が壊れる。
「やめられない」が度を超すと「心からやめたい」ものになることも往々にしてあるのだ。
その中でMCバトルほど「やめたくない」と「やめたい」を行ったり来たりするものはないかもしれない。
わたしは2017年からこの界隈に足の小指の爪の先を突っ込んだ程度の新参者なので、MCバトルについて語れることなど何もない。
ただ、この短い間にも「バトルやめたい」といった声を何度も耳にしたし、
それと同じくらい、そう言っていた人たちがまたバトルに出ているのを見てきた。
そして、新参者ながらその気持ちはすごくよくわかる気がするのだ。
好き好んで人の悪口を言いたい人はあんまりいない。 バトルで知名度を上げて音源が売れれば。ライブで十分動員できるようになればいずれは。そう考えている人が多い気がする。でも、バトルそのものに魅せられてしまう部分というのも、確実にある。
わたしはMCバトルを見るのは人並みに好きなほうだ。知れば知るほどにめちゃめちゃ面白い世界だと思う。
でも自分が出るとなると話は別である。
わたしは去年「シンデレラMCバトル(以下CMB)」という女性のみの大会に出たことがあるのだが、本番1週間前に原因不明の高熱と突然の咳喘息が発症して肋骨にヒビが入り体重が4キロ落ちた。満身創痍の権化である。
普段の自分は健康そのものなので、バトルが原因なのは火を見るよりも明らかだった。
CMBはオーディションを通過しないと出られない仕組みで、わたしは一度それに落ちていた。しかし敗者復活戦として設けられた次点人気投票でなんと得票数一位になり、出場権を得てしまった。
それもあって「RTしてくれた700人を背負っている」という勝手な気負いもあったのかもしれない。
CMBほどひどくはないにせよ、いまだにバトルに出る日は朝からずっとお腹が痛いし、会場でも死にそうになっている。
そのたびに心の向井秀徳が
「なぜ、そこまでして、腹を切らなきゃいけんのか。なんで、そこまでして、自分のプライドを見せ、つけなきゃいけないのか」
と問うてくる。
でもその答えはある意味では出ている。勝ったときの喜びと、勝てなくても相手といい試合ができた時の感慨は、他に代えがたいものがあるのだ。
件のCMBでは運よく準優勝できた。
ふがいない部分もあったけど、トータルではまあ納得のいく戦い方が出来たとも思う。
するとその結果に付随して色々なことが変わった。
前より少しセルラ伊藤を知ってもらえた。自分の所属しているグループ「絶対忘れるな」についても知ってもらえた。メディア露出もほんの少し増えた。自分の出身大学で講義する機会をもらえたりワークショップで話したり、バトルの枠組みを越えた活動が少しずつ増えてきたのもすごく嬉しいことだった。
何か1つ結果を出すと、自分という人間をプレゼンしやすくなるということがわかった。
知らない人から突然DMで局部の写真を送られてきたこと以外は、良いことしかなかった。
逆に負けた上にダメダメな試合をしてしまった時は、控えめに言って地獄である。
まず自分に自信が持てなくなる。
「わたしみたいのがバトルに出てすみません」という気になる。
(最近はダメだったバトルのことを思い出すだけで体調が悪くなるので動画は一切見ないしYouTubeのコメ欄にいたっては金を積まれたって見ないという境地に達している)
この地獄から抜け出す方法の1つはいい試合をして勝つことなんだけど、はっきり言ってMCバトルの前線にいる人たちなんて強豪でしかないので
そこに挑むのは新たな地獄のはじまりでもある。
だったらもうバトル、やめちゃえば?という心の声が聞こえる。向井秀徳ではなく自分の声が。
即興でラップすることは楽しい。これは間違いない。
最近仲の良いラッパーたちとその時の気分でフットワーク軽く集まってラップする「スタジオ足軽(フッ軽)」というのを不定期でやっている。
時にバンドマンの友達も呼んで生バンドの演奏をバックにラップしたりする。みんなうまいし、ものすごく楽しい。
もっともっとうまくなりたい!音楽、好き!と心から思える大事な空間だ。
でも、そしたら、フリースタイルだけ続ければいいんじゃないか?
辛くて情けなくてハゲそうな思いをしてまでバトルに出る理由は?
そんな自問自答を繰り返しながらも、気付けば今週末もバトルイベントに出ることになっている。
VISIONで行われる猛者ぞろいのイベントで、1on1ではないバトルロイヤル形式で、しかも入場無料。ヤバい空気しか感じない。
なんでそこまでして出るんだろう。やめられないんだろう。
バトル、やめたくないの?やめたいの?
この問いはもうしばらく続きそうである。