絶対忘れるながやめられない 19
前回のお話はこちら。
2020.12.9
突如として発表された企画「BAYCAMP × がんばれデモテープ ~ お願いBAYCAMP!公開オーディション!」。それは「でっかいフェス出てビール飲みたいの」という貫地谷翠れんの、そしてフェスというものに一度も出たことのない我々ぜわすの夢が叶ってしまうかもしれない一大イベントだった。
インターネット上に最新アルバムのほとんどの曲をアップしてしつこく応募をつづけた甲斐あって無事一次審査を通過できた我々だが、1つ問題があった。メンバーのうちの一人が激烈な繁忙期とバッティングしていたのだ。
すでに限りなくあきらめモードなぜわす。
2016.12.26
そんな中で迎えたがんデモ第8回目の放送。この日は決勝となるオーディションライブに進出できる人たちが決まる第二次審査。しかし「BAYCAMPの総合プロデューサー・青木さんがゲスト」ということ以外は事前に何も知らされていなかった。
ちなみにその日セルラは所沢駅前の居酒屋で、友人の漫画家・江藤俊司先生(エトーさん)に誘われて漫画家さんや漫画関係の方々が総勢100人くらい集う大忘年会に参加していた。そこにはすでにバリバリ売れてらっしゃる方もいたし、後にアニメ化して大ブレイクした漫画家さんもいらっしゃった。なぜそんな会にいたのかというと、会社で漫画関係のグッズを企画しているわたしの仕事につながるかも、と優しいエトーさんが声をかけてくれたのだった。この日は当時働いていた高円寺の飲食店バイトの予定だったが、せっかくの機会だからとシフトを替えてもらっていた。
ちょうどその頃、中野坂上(当時)のパーフェクトミュージック社屋で「がんデモ」配信がスタート。
張江さん「青木さん、事前に(一次通過作品を)聞いていただいてどうでしたか」
青木P「バンド系よりラップの人が最近多いのかな。普段はバンドものメインでやってるから、宅録系はなかなか、インターネットの世界というかんじで追っかけられなくてYouTubeレベルになっちゃうのでチェックしづらかった」
張江さん「(がんデモのように)『インターネットで映像送ってください』、みたいなのだと宅録派の人が多くなってきますよね」
天野さん「スピード感もありますしね」
青木P「ライブがどうなのかを見たいですね」
一方所沢。
はじめての方がほとんどの状況で、ドギマギしつつ、あちこちの卓で名刺交換をしながら「Tシャツを作っておりまして…」などと自己紹介するセルラ。なにせ人がいすぎてどうしていいのやらわからない。
中野坂上。
張江さん「そういうことで、どう進めましょうか?」
天野さん「もう青木さんには(決勝進出候補を)選んでいただいています」
劔さん「じゃあバンバン青木さんに発表していただく感じで…」
天野さん「それが、実はちょっと今回は発表の仕方を変えまして」
劔さん「えっ?」
天野さん「ここにリストがあります。実は今日はみなさんに電話番号をいただいてますんで、1/6の決勝イベントに出演してほしいと思った方に直接電話します。で、一発目で出ていただいたら出演決定です」
張江さん「なるほどなるほど」
劔さん「おっかないことしますね〜天野さん」
天野さん「まあでもこれはね、青木さんからも助言をいただいて」
劔さん「これはやっぱり運も大きいと」
青木さん「(ニコニコしながら)そうなんですよ、面白いじゃないですか。前もやったんすよ、ベイキャンプの本編のオーディションでも。二年前に。」
その時もしリアルタイムで聞いていたら「"面白いじゃないですか"じゃあないよ」とつっこんでいたに違いないが、泣いても笑っても所沢。
緊張から沢山ビールを飲んでいてだんだん仕事の話はどうでもよくなり、よく知らない方たちとへらへら雑談をしはじめるセルラ。
中野坂上。
天野さん「では1組目はこの方。非通知で流れますよ〜」
劔さん「(いま番組を)観てなかったら…」
張江さん「いやこの人は観てるんじゃないですか」
RRR...
???「(1コール目で)もしも〜し」
天野さん「こんばんは、お名前をどうぞー!」
「THIS IS NATSです〜!」
一同「おおおーーーー(拍手)」
劔さん「電話出てくれると盛り上がりますね〜」
企画に呼んでくれたこともあるTHIS IS NATSちゃんがめでたく決勝進出。
天野さん「はいじゃあ次行きましょう!」
青木さん「(候補者名を見て)なんかすごいよさそうですよね」
天野さん「雰囲気とてもいいですよね。見てみたいなって」
RRR..RRR..
???「もしもし〜」
天野さん「もしもし、お名前お願いしますー」
「that's all folksと申します〜」
(一同拍手)
that's「ありがとうございます」
張江さん「今おうちですか?」
that's「はいあの、風邪で寝込んでます…」
(一同笑)
張江さん「だから昨日(ぱいぱいでか美さんの現場に)来なかったんですか?」
that's「いえ、昨日は干せない家庭の事情で…」
続いて風邪のthat's all folksさんも決定(家庭の事情を「干す」言うな)。
その後も順調に決勝進出者が決まっていく。張江さんが「これほんと青木さんが落としてなくてびっくりしたんだから」と言っていたさわいくん率いる「ロシアンズ」、「スーパーガンバリゴールキーパーズ」、張江さんに「この人のユーモアセンスはピカイチわかりづらい」劔さんに「センスは本当にある。でも早すぎる」と言われていた「ティンカーベル初野」さん、「MSSサウンドシステム」さん。中には非通知電話を受けられない設定にしているために出られない方、コールをしたものの残念ながら留守番電話になってしまった演者さんもいた(その方が誰なのかは知らされない)。劔さんの言うとおり、本当におっかないルールである。
所沢。
飲み開始から1時間半ほど経過し、なんとなく居着いた卓に腰を落ち着け雑談しながらドレッシングをふんだんにかけられすぎて瑞々しさを失ったシーザーサラダを惰性でつつくセルラ。
中野坂上。
天野さん「7組目いきまーす」
張江さん「これどのメンバーの番号なんですかね」
天野さん「あ、僕は知ってます」
RRR...RRR...
所沢。
…ブーン…ブーン…
突然、卓上にあった自分のiPhoneが振動した。普段あまり電話に気づかないタイプなので(営業職失格)、もしかしたら卓にいた誰かが「鳴ってますよ」と教えてくれたのかもしれない。ディスプレイを見ると「非通知設定」と表示がある。「あ、すみません」と咄嗟にスマホを手に取るも、会の途中だし非通知だし出る必要はないかな、と酔った頭で一瞬考えた。
中野坂上。
RRR...RRR...RRR...RRR...
張江さん「ああーちょっと……出ないかーっ?」
所沢。
ブーン…ブーン…ブーン…ブーン…
しかしバイブが手の中で止まる気配がない。仕方なしにその場を離れて、とりあえず通話ボタンを押してみた。
中野坂上-所沢
セルラ「もしもし?」
天野さん「もしもーし お名前をいただいてもよろしいですか?」
セ「あ、大丈夫です」
張江さん「んっ?」
天野さん「もしもーし」
セ「もしもーし。はい、聞こえてます」
天野さん「あ、聞こえてますか。あのお名前をいただいてもよろしいですか?」
セ「あ、えと………ほ、本名でいいんですか?」
張江さん「本名じゃないほうがいいです!」
セ「あ、セルラ伊藤です」
張江さん「絶対忘れるなのセルラ伊藤さんです!」
セ「あれっ?あれっ?」
張江さん「がんばれデモテープでーす。お世話になってまーす」
セ「あっあっ、お世話になってます。あーっびっくりしたーあはは」
天野さん「今ね、生放送していて、生電話で決勝出るか出ないかっていうのをやってるんですよー」
セ「えっそうなんですか 実は今忘年会中で…」
(一同笑)
劔さん「良かった良かった」
天野さん「出れなかったらどうしようかと思った」
張江さん「忘年会も出つつベイキャンプへの道を進めるという社会人バンドマンとして一番正しい形ですね」
セ「あっそんな。ありがとうございます」
天野さん「じゃあね、1/6、新宿サムライでお待ちしています」
セ「ありがとうございます、よろしくお願いしますー!」
こうして改めて文字起こししてみると、めちゃめちゃテンパっていて恥ずかしい。あとちゃんと人の話聞いて。
所沢。
電話を切ったあとの記憶はあまりないが、酔った頭を静かに整理し、別卓にいたエトーさんにとりあえず「エトーさん、なんか電話きて決勝出られるっぽい」と報告した気がする。
中野坂上。
張江さん「というわけで絶対忘れるなも決定でーす!あーよかった。7曲も送ってこれで出られなかったら切ないですからね」
劔さん「絶対忘れるながね、なんていうんですか、ベイキャンプに出たら…『忘れらんねえよ』と名前が被りますね」
張江さん「とりあえず忘れないんだなということは伝わってきますね」
一同「ワハハ」
ワハハじゃあないんだよ。
その後出られなかった二組に電話をするも、残念ながら出ず。
というわけで1/28のBAYCAMP出場をかけた1/6の決勝に進出する7組が決まった。
いや、真面目な話、ほんとうにあぶなかったのである。
接客業のバイトをしながらではさすがに電話に出られなかったし、わざわざシフト調整をするほど大事な忘年会でなければ参加していなかったと思う。
ここで余談に見せかけた重要な話をしよう。その会に呼んでくれていたエトーさんこと漫画家の江藤俊司先生は当時、友人でありながらなんとぜわすのライブに毎回必ず来てくれる存在だった。作家さんゆえの探究心なのかインターネット上に存在するぜわすの曲はすべてものすごく聞き込んでくれていたし、いつかの「Tシャツ発ライブ」でのライブ限定カラーTシャツ(CD付き)は当然持っていた。古参オタといって遜色なかったと思う。一番好きな曲は「俺の所得は雀の涙」とのこと(当時)。
がんデモ応募皆勤賞のあかつきに二次審査で選ばれた我々を決勝までつないだのは、ぜわすのライブ皆勤賞のエトーさんだったのだ。
ぜわすがいまのような形になる第一歩を踏み出すチャンスは、「偶然」がもたらしたものだった。こうして考えると、数えきれないほどの偶然に生かされている我々である。
というわけで江藤先生が原作を手がける連載作品『鉄輪のカゲルイ』はこちら。おもしろいです。読んでください。
『終極エンゲージ』(すでに完結)もめためたに面白いので必読です。
さて…決勝進出者が出そろっていよいよ盛り上がってきた「がんデモ」だが、番組の最後、少し気がかりな言葉を耳にした。
張江さん「この7組の中から誰かが(BAYCAMPに)出るってことですよね」
青木さん「た、たぶん…や、まだわかんない」
張江さん「該当者なしって可能性もあるってことですね」
天野さん「まあ最終ジャッジは青木さんですからね。正直、出場に値しなかったら無しでも仕方ないです」
青木さん「一組くらい出したいですね」
張江さん「良いライブしてくれれば」
青木「破天荒でも一芸でもなんでもいいから出し切ってほしいですね」
該当なしもありえるだと…
そもそも冒頭で述べたようにメンバーが激・繁忙期である。
果たしてBAYCAMP出場を手にする者はいるのか。そもそもぜわすは決勝オーディションに無事参加できるのか。
次回、決勝の開催日が2017年1月6日であることから思わぬ罠にハマるぜわす。
つづく。