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2025年SOFAスコア改定迫る:理由と影響は?
ICUで働く集中治療医として、ぼくが今年注目しているいくつかのトピックがあります。その中の一つがSOFAスコアの改定です。先日Xに投稿したこちらのポストに反響をいただいたので、このnoteで詳しく書いてみます。
2025年ICU界隈で起きること予想①
— 小谷 祐樹 | Yuki KOTANI (@YukiKotani5) January 14, 2025
SOFAスコアの改訂
敗血症の診断にも使われる重症度スコアSOFAが生まれたのは1996年。当時の集中治療をもとに作られているので、現代には合わない面も多いという指摘は随分前からありましたが、いよいよ改定が現実味を帯びてきました👇https://t.co/K9Hucd7q6L
そもそもSOFAスコアとはなにか
SOFAスコアとは、ICUに入室するような重症患者さんの重症度を定量化するためのスコアリングシステムの代表格です。6つの主要な臓器に着目し、その重症度に応じて0−4点を割り付け、最大24点です。値が大きければ大きいほどより重症であることを示します。
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SOFAスコアの歴史は1996年に遡ります。「SOFA」というのは略語で、最初は "Sepsis-related Organ Failure Assessment" の頭文字をとったものでした。つまり当初は敗血症(Sepsis)を対象にした重症度スコアだったんです。
それからまもなく敗血症に限らず重症病態全体に使われるようになり、1998年には"Sequential Organ Failure Assessment" と名前を変えました。
単に重症度を表現するだけにとどまらず、予後を予測するツールとしても使われるようになりました。重症であればSOFAスコアが高くなり、結果的に予後が悪いことは想像に難くないですよね。2001年には、SOFAスコアの絶対値が高いこと、時間経過でスコアが上昇していることが死亡リスク上昇と関連していることが示され、予後予測スコアとしても利用が広がりました。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/194262
そして敗血症の診断基準に
重症度を定量化するだけでなく、予後予測にも使われるようになったとはいえ、SOFAスコアの利用はICU内に限られていました。それが一躍ICU外にも広く知られるようになったのは、2016年のことです。敗血症の定義が変わり、診断基準にSOFAスコアが組み込まれたのです。
定義:感染症に対する調節不能な宿主応答によって引き起こされた生命を脅かす臓器障害
診断基準:感染症 + SOFAスコアが2点以上急上昇
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2492881
死亡リスクの高い感染症を敗血症と捉えたときに、SOFAスコアの予後予測精度の高さが採用されたわけです。敗血症の患者さんは、より密度の高いケアを提供できる病床(ICUやHCU)で診療することが多いので、一定の重症度を満たした感染症の患者さんではSOFAスコアをつけることが日常となりました。さらに、SOFAスコアは保険診療とも結びつき、特定集中治療室管理料(いわゆるICU加算)の基準にも利用されるようになりました。
時代の変化にそぐわない面も
このように約20年の時を経て広く知られるようになったSOFAスコアですが、それだけ時が経つと現代の集中治療とは合わない面も出てきます。
たとえば、呼吸の3・4点の条件になっている「呼吸補助」は侵襲的人工呼吸、つまり気管挿管しての人工呼吸が意図されていました。しかし、最近は非侵襲的人工呼吸(NIV)やハイフローネ―ザルカニュラといった「非」侵襲的な呼吸補助が広く使われています。さらにV-V ECMOを装着されている場合、患者さんの肺の酸素化を正確にP/F比で表現することはできません。
同様に、循環器領域ではドパミンをICUで使うことはほぼなくなりました。3・4点を与える「ノルアドレナリン 0.1 µg/kg/min」という基準は、軽症と中等症を区別できる程度で、中等症も重症も超重症もみんな4点になってしまいます。また第2選択薬であるバソプレシンも考慮されていません。さらにV-A ECMOを使って、ドブタミン少量のみ投与している重症心原性ショックは2点で、ノルアドレナリン 0.11 µg/kg/min投与中の敗血症は4点になるのには違和感がありますよね。
現代の集中治療との齟齬が出てきたSOFAスコアを見直し、SOFA 2.0を作ろうという流れが2023年に始まりました。
ここでは、各臓器障害に対して新たなパラメータを追加してはどうか、という提案がされています。以下に一部の例を挙げます。ぼくは、現場感覚に即した提案だと感じました。
・凝固:血小板輸血
・循環器:乳酸値、他の血管収縮薬・強心薬、機械的循環補助
・腎:腎代替療法
そして翌2024年10月のヨーロッパ集中治療医学会で、この文献の筆頭著者の先生が、まさにSOFAスコア改定に関するプレゼンテーションをされていたのです。そして「2025年の春頃にSOFA 2.0を発表できたらな」とおっしゃっていました。つまり、新しいSOFAスコアがお目見えする日も近いと言えそうです。
SOFA 2.0が出たらなにが変わるか
まずは新SOFAスコア発表の論文をよく読みましょう。どのようなプロセスを経て生まれ変わったのか、その方法論が妥当かどうかを十分に議論する必要があります。
また、新SOFAと旧SOFAを比較する論文がたくさん出てくるでしょう。それらにも目を通して、「改定によってどのような点が改善され、逆に新たな弱点は生じていないか」を見極めることが大切です。
もし新SOFAを使っていくと決まれば、ICUでは毎日収集するスコアなので、スコアリングシステムの変更が必要になります。また、敗血症の診断基準に影響する可能性もあります。
研究の面では、ある時期から新SOFAを報告する文献が増え、「SOFA ◯点」という数値の意味合いが変化してくる可能性があります。そのため、論文を読む側としても留意が必要です。
とはいえ、いくら有名なSOFAスコアといえども、あくまで1つの重症度スコアに過ぎません。「SOFAスコアが◯点だから治療Aを行う」というように、患者さんのマネジメントを調節左右するものでは本来ありません。普段通り患者さんの状態に合わせたケアを提供する、という本質は変わるわけではないのです。
まとめ
2025年にSOFAスコアが改定される可能性が高いです。改定を正式に発表する論文が出版されたら、まずは十分に精読し、さまざまな方々と議論を重ねながら、どのように扱うのが適切かを判断していければと思います。
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