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「集中治療医」というキャリアの5つの魅力
2025年は、僕が集中治療医になってからちょうど10年目に当たります。コロナや医療ドラマの影響で、「ICU(集中治療室)」という言葉自体は一般の方々にも広く認知されるようになりました。一方で、医師の中で集中治療の道を選ぶ人は10年前と変わらずまだ少ないのが現状です。今年は、ICUで働く魅力をもっと多くの人に知ってもらい、その結果として集中治療医が増えるために、何ができるかを徹底的に考える1年にします。
そこでここでは、集中治療医として働く5つの魅力をまとめてみます。
ICUで集中治療医が果たす役割とは?
ICUには重症な患者さんが集まります。その原因も結果として起きている問題も、実にさまざまです。たとえば、心臓の病気(心筋梗塞)、肺の病気(肺炎)、脳の病気(脳出血)など原因は無数にあります。また、患者さんに起きている問題も「血圧が低い(循環)」「酸素の値が低い(呼吸)」「意識が悪い(脳)」「尿が出ない(腎臓)」など多岐にわたり、複数の問題が同時に発生することが一般的です。さらに、患者さんの容態は刻一刻と変化します。
ICUでは、原因を診断し、問題点を把握し、タイムリーに治療を行うことが非常に重要です。こここそが集中治療医の出番です。集中治療医は、ICUで重症な患者さんを診る専門家として、豊富な知識と経験を活かして、患者さんの変化に素早く対応します。
集中治療医がICUを担うことで、他の診療科の医師は外来や病棟での診療、時間のかかる検査や手術に集中できます。さらに、夜間のICUの患者さんの診療も集中治療医が引き受けます。夜中に緊急手術を受けた患者さんが手術後ICUに入った場合でも、外科医は治療を集中治療医に引き継ぎ、朝まで休み翌日の手術に備えることができます。
集中治療医の役割は、重症な患者さんに最善の治療を提供すること。そして「重症な患者さんの診療」を一手に引き受けることで、他の科の医師が専門分野に集中し、全力を発揮できる環境を作ることです。
集中治療医として働く5つの魅力
1. 緊張感のある現場でのやりがい
ICUでは患者さんの容態が分単位で変化するため、迅速に対応が必要です。患者さんの状態を把握し、原因を突き止め、必要な治療を実施し、効果を評価。最初の治療方針がうまくいかなければ、次の選択肢に切り替える。この過程をタイムリーかつ正確に進めるのが重要です。緊張感があるからこそ、患者さんの病状が良くなったときの喜びは大きいです。
2. チーム医療の実践
ICUの治療は、多職種が協力して初めて成り立つものです。集中治療医は、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士、管理栄養士など、各専門職と密接に連携しながら患者さんのケアにあたります。最近では、言語聴覚士や作業療法士の協力を得る場面も増えてきました。また、他の科の医師に専門的な助言や手技を依頼することもあります。多職種それぞれの専門性を尊重し、その力を最大限に引き出しながらチームとして質の高い治療を提供できるのがICUの魅力です。
3. オンとオフのバランス
集中治療医がシフト制で働くICUが増えています。シフト中はICUで患者さんの治療に集中し、終業後は次の勤務者に引き継いで残業せずに帰る。これにより、プライベートの時間を確保し、身体的にも精神的にも安定して働くことができます。産休や育休などの際に月単位で現場を離れることも、シフト制なら問題なく対応できます。このように集中治療医が無理なく働ける環境を整えることが、他の科の医師の働き方改革推進にもつながるのです。
4. ジェネラリストとスペシャリストの両立
集中治療医は原因を関わらず重症な患者さんを診るのが仕事です。そのため、特定の分野に偏らずに広い知識を身につけるのが得意な方に向いています。一方で、集中治療の中には更に細分化された専門領域があります。人工呼吸やECMOといったICUならではの治療だけでなく、リハビリや緩和ケアも集中治療医の専門分野となりえます。集中治療を広く学んだ後に、特に関心を持つ分野を深く掘り下げることができます。
5. 多様なバックグラウンドを持つ仲間との学び
集中治療の専門医になるには、まず基本となる専門医資格が必要です。基本分野は、救急・麻酔・内科・小児科の4つです。そのため、ICUにはさまざまな専門知識や経験を持つ医師が集まります。基本分野が救急の人は、内科や麻酔科の知識を教わることが出来ますし、その逆もまた然りです。このように、基本分野が異なる医師たちが集まるICUは、多様な知識を共有し合える貴重な環境です。
「ICU好き」が増えてほしい
このnoteを読んで「集中治療医いいかも…」と思った方は、ぜひ一度ICUを見に行ってみてください。現場での経験を通じで、新たな発見があるはずです。
今後もさまざまなアプローチを通じて、集中治療医の魅力を伝えていくつもりです。1月8日から始まるポッドキャスト「ICUトーク」の初回エピソードは「集中治療医の魅力と働き方」について話しています。SNS(X、フェイスブック、mixi2)やオフラインの場(学会やセミナー)でも発信していきます。それぞれの場で、僕の言葉が「未来の集中治療医かもしれないあなた」に届くことを願っています。
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