忙しい臨床医が読むべき論文を見逃さないための3つの方法
前回のnoteで「忙しい臨床医が読むべき論文はこの3種類」を紹介しました。
その3種類とは、
NEJM・JAMA・Lancetに載ったランダム化比較試験(RCT)
ガイドラインやエキスパート・コンセンサス
専門誌に載った良質な総説
でした。
では、次に気になるのは、「これら3種類の論文が出版されたことをどうやって知るか?」ですよね。今回は、3つの方法を示しながら、読むべき論文にできるだけ手間をかけずにたどり着く方法を考えます。
1. 雑誌のEメールアラートに登録する
どの医学雑誌もEメールアラートを用意しています。雑誌から定期的に届くメールのことで、新しく出た論文のタイトルと著者名がリスト化されています。たとえばNew England Journal of Medicine(NEJM)は、その1週間で出版された論文をまとめて送ってくれます。
ただし、このEメールアラートには分野や種類を問わず、さまざまな論文が含まれています。その中から読むべき文献である「自分の専門分野のRCT」を見つける必要があります。まずRCTは「Original article」というカテゴリに含まれるので、その部分を確認します。Eメールアラートにはタイトルと筆頭著者名が記載されているので、タイトルを見て自分の専門分野に関連するか判断します。NEJMの論文は非常にシンプルなタイトルが付けられているため、関連性を判断しやすいでしょう。
どの雑誌のEメールアラートに登録するのがよいでしょうか?ぼくはNEJM・JAMA・Lancetの3つと、専門誌から数個選ぶのをオススメします。読むべき論文3種類を改めてこちらに書きます。
1の3誌はそのまま該当します。また、2や3に当てはまる文献が出版される専門誌は、多くの場合、専門分野をリードする国際学会が発行している雑誌になるでしょう。
Eメールアラートの登録方法は、ほとんどの場合、各雑誌のウェブサイトのトップページで「alert」と検索すると見つかります。登録は基本的に無料で、簡単な情報を入力するだけで完了します。
2. 雑誌をSNSでフォローする
最近はどの医学誌もSNSアカウントを持っています。現時点で一番メジャーなプラットフォームはXでしょう。シンプルに出版した論文のタイトルとリンクを貼るだけのものから、ソーシャルメディア担当スタッフを配置して論文の内容にも踏み込んだ投稿をしている雑誌もあります。
これもEメールアラートと同様に、NEJM・JAMA・Lancetの3誌+専門領域数誌をフォローすれば良いと思います。たとえばNEJMに昨年出版された菌血症に対する抗菌薬治療期間のRCTは、NEJMの公式Xアカウントからこのように発信されました。
ただ、Eメールアラートと違い、SNSでの投稿は出版された全ての論文をカバーしていない点に注意です。たとえば総合誌であるNEJM・JAMA・LancetのSNSアカウントで、自分の領域の重要なRCTが投稿されない可能性もあります。
各雑誌をSNSでフォローするのも、Eメールアラートと同じくウェブサイトにいけばSNSアカウントが記載されているので、問題ないと思います。
3. メジャーな国際学会をSNSでフォローする
何度も繰り返しますが、ぼくが提案する「読むべき論文3種類」はこちらでした。この3つの中でより重要度の高いものは1と2です。
1の「トップジャーナルに載ったRCT」に関しては、最近一つの大きな流れがあります。それは「大規模RCTがメジャーな国際学会でプレゼンされ、同時にトップジャーナルに掲載される」というものです。この「同時に」とは文字通りの意味で、研究者・学会・雑誌が共同で計画し、「◯月●日✗時△分にプレゼンが行われるので、その終了後の□分後に論文を出版しよう」とスケジュールを調整しています。
学会としても、質の高い研究が発表される場であることを発信するため、プレゼンや出版のタイミングに合わせてSNSで告知を行います。そのため、重要な国際学会の公式アカウントをフォローすることで、1に該当する重要なRCTの情報を素早くキャッチすることができます。また、学会アカウントをフォローするだけでなく、その年の学会に設定されたハッシュタグをフォロー・検索することで、学会の公式発表や参加者の投稿を通じて、重要な論文の存在を知ることができるでしょう。
例えばCritical Care Reviewsという学会でプレゼンされNEJMに出版された「心臓手術後の急性腎障害予防目的のアミノ酸静注」に関するRCT(PROTECTION trial)は、学会・雑誌の両方がSNS(X)で情報を発信していました。この際、#CCR24というハッシュタグが、2024年のCritical Care Reviewsという学会を示すものでした。
2の「ガイドラインやエキスパート・コンセンサス」についても、基本的にメジャーな国際学会のサポートのもとで進められるプロジェクトです。そのため、論文のタイトルに学会名が含まれることも多く、最終的に論文化された際には学会の公式SNSアカウントから通知されることが一般的です。たとえば、ヨーロッパ集中治療医学会(ESICM)は、輸液療法に関する同学会のガイドライン出版をSNS(X)でこのように告知していました。
番外編:SNSで論文紹介アカウントをフォローする
ここまでのアプローチとは違い、番外編として読者からの発信もご紹介しておきます。世の中には、論文を読むのが趣味という方もいます。こうした方々は、大事な論文が出版されるとすぐに読んで解説をSNSに投稿してくれます。ICU分野でもそのような方が何人もいらっしゃいます。他の分野でもきっと同じでしょう。こういうアカウントをフォローするのも一手です。ここでも一番活発なSNSプラットフォームはXです。
雑誌や学会からの情報は「読むべき論文」だけとは限りません。NEJM・JAMA・Lancetの3誌においては、「異なる分野」や「異なる種類」の論文が多いですし、専門誌でも「ガイドライン」や「良質な総説」はそう多くありません。学会からの発信となると他のイベントの告知なども含まれます。その点、自分と同じ分野の論文紹介アカウントを見つけられれば、すでにある程度選別された論文情報からスタートできるのはメリットです。一方で、紹介者の興味や忙しさによって、全ての「読むべき論文」が網羅されるとは限りません。また雑誌や学会からの公式な発信ではないため、その情報の信頼度については、フォローする側の責任でよく注意する必要があります。
まとめ
「読むべき論文」を見つけるための3つの方法をご紹介しました。
雑誌のEメールアラートに登録する
雑誌をSNSでフォローする
メジャーな国際学会をSNSでフォローする
雑誌や学会からの情報をEメールアラートやSNSを通じて受け取ることで、「読むべき論文」を見逃さずに把握できます。ただし、チェックする雑誌や学会が増えると、たくさんのメールが届いたり、SNSのタイムラインが論文情報で埋め尽くされたりするといったデメリットもあります。そのため、ご自身のニーズや状況に合わせて適切な方法を選ぶことをおすすめします。