初論文は苦難の連続―イントロとディスカッションは全面的に書き直し―
はじめまして。小谷祐樹です。千葉県の南部にある亀田総合病院の集中治療室(ICU)で集中治療医として働いています。卒後12年目で、日常診療の傍ら臨床研究もやっています。初noteには自己紹介も兼ねて、集中治療に進んで初めての研究で経験した苦悩を書いてみようと思います。
臨床をしながらの研究は率直に言って大変です。日々悩みながら歯を食いしばって研究活動に挑んでいるみなさんの助けになれば嬉しいです。
研究活動との接点
僕は2013年に京都大学を卒業し、日本赤十字社和歌山医療センターで初期・後期研修の5年間を過ごしました。漠然と「研究活動にも関わってみたい」と思っていたので、初期研修の頃に学会発表をしてみたり、上級医の先生から声をかけていただき後ろ向き研究をやってみたりしていました。
初期研修を終えて救急・集中治療の道に進んだちょうど1年後、卒後4年目に偶然国内の多施設研究に初めて参加する機会を得ました。倫理審査やデータ集めなど自分が施設代表として行うのも初めてで、多くの学びを得ました。しかし、僕にとってこの研究に参加する最大のモチベーションは「多施設データを使った二次解析論文の執筆」でした。
さあ論文書くぞ…でも何やればいいの?
多施設研究では、参加施設が集まったデータの二次利用、つまりそのデータベースを利用して論文執筆できることがよくあります。この時僕が参加した多施設研究もそうでした。せっかく参加したので、なにか一つ提案してみようと思い、職場の同僚と日々感じていた疑問を研究案として応募したところ、幸運なことに研究組織のコアメンバーの方々にも承認していただき、晴れて二次解析論文を始められることになったのです。
ところが、ほぼ症例報告しか書いたことのなかった僕には、ここからが苦難の連続でした。幸運なことに僕の場合は素晴らしいメンターの先生が付いてくださいました。とはいえ、経験がない以上、論文完成までの道のりが具体的にはイメージできない。自分が今どの時点にいるのかもわからない。完全手探りのプロセスは、まさに五里霧中の状況でした。特に悶々としたのは「どこまで進めたらいいんだろう?」ということです。
分からないままキープしない
そんな中、僕が出した答えが「できるところまでやって、さっさと返す」でした。経験も知識もない自分が完璧を目指して悩んでばかりいてもちっとも進まない。進まないと、取り組むのが億劫になるという悪循環に入ってしまう。むしろ「ここまではやってみました。ここはよく分からないので触れられていません」と明確にして、ささっと返信してしまう方が、メンターとのやり取りもスムーズになります。どこかでそう吹っ切れると気楽に質問できるようになり、何とか図表→方法→結果と書き進めていくことができました。
イントロとディスカッションが初心者の鬼門
残るはイントロダクション(導入)とディスカッション(考察)です。方法や結果と比べて、この2つを書くのに特に初心者は誰しも苦労します。なぜかというと、方法は執筆以前の研究計画を立てる段階で確定しています。結果では方法に呼応する形で研究結果を淡々と記述します。ある意味客観的に型に当てはめて書くことができるわけです。対してイントロとディスカッションはストーリーを作る必要があります。イントロでは「なぜこの研究が大事なのか?」、ディスカッションでは「この研究結果は、過去と比べてどうか、今後の臨床・研究にどう影響するか?」を述べます。もちろんいずれもデータに基づいて科学的に記述すべきなのですが、ある程度著者の主観・解釈が入ります。逆に言えば型が明確でなく、自由に書けちゃうわけです。この自由さが初心者にとっては辛いんです。もっとガチガチに固められていてほしいんです。だって執筆経験がない人に「自由に書いていいよ」って言っても、「え…自由にって言われましても…」ってなりますよね。結果的に論文初心者が書くディスカッションは、過去研究の羅列に終止してしまったり、自分の研究と直結しない内容を語ってしまったり、と的外れな仕上がりになりがちです。
「イントロとディスカッションは全面的に書き直し」
例に漏れず僕もそんな一人でした。もちろんガイダンス的なものはググれば出てくるし、自分なりにはそれに沿って書いてみたつもりでした。一旦書き切ったし、これで一旦見てもらってコメントをもらおうと思い、共著者の先生方にお送りしました。その3日後、お一人からお返事をいただきました。900文字の長文コメントの後に、
とのお返事。いやーこれはガツンと来ましたよ…もちろん僕自身「これで完成だ!」とまでは思ってなかったですが、ここまでけちょんけちょんに言われるとは予想しておらず、相当ヘコみました。ただ非常にありがたかったのは、その後に何をどう書けばよいかが具体的に箇条書きされていたことと、最後の最後に
の一言があったことですね。これで論文執筆という意味でも精神衛生の上でも救われました。その後、他の共著の先生方からも励ましや建設的なコメントを頂きながら、更に何度もやり取りしつつ、何とか2ヶ月後に一旦完成、更に5ヶ月後に出版に至りました。
研究に挑む人はみんなすごい
僕にとっての初論文は道筋もわからない、かつ途中で大修正を迫られる、そんな苦労の連続でした。正直僕が書いた文字なんて最終的な出版物にはほとんど残ってません。ただ、こんな辛い経験の先にアクセプトのメールが届いたときの喜びは何物にも代えられません。更に共著の先生方や同僚からいただく「おめでとう」の言葉も、大変な道のりを何とか乗り越えたからこそです。
だからこそ僕は「研究活動に挑む人はみんなすごい」と言いたいです。これは「研究をしない人がすごくない」という意味ではないですし、「研究をする人のほうが優れている」とも全く思いません。ただすんなりうまくいく研究なんて1つもないですし、どれだけ経験のある人も新しい研究では新しい難題に直面し、乗り越えていかなければなりません。そういう環境に自ら身を投じて頑張っている人をすごいと思うのです。
もし思うように研究が進まず悩まれていたら、「できるところまでやって、さっさと返す」の精神で一歩ずつ進んでみてはいかがでしょう。悩みもがきながらも研究を頑張る人はすごい!!!
まとめ
論文を書くのは誰でも大変。初めての論文ならなおさら。
知識も経験もないことは恥ずかしいことじゃない!自分が分かるところ・分からないところを明確にして、メンターと密にやり取りするのが吉。
たくさんの苦難を乗り越えた先に待ってるアクセプトは格別。研究に挑んでいる人はみんなすごい!
ここまでお読みいただきありがとうございました。XではICU分野の新しい文献紹介を中心に投稿していますので、ご興味があればぜひご覧ください。https://x.com/YukiKotani5
また2025年1月から「ICUトーク」というポッドキャストを始めます。僕と同じ集中治療医の小林宏維先生と、集中治療の魅力や診療の知識、キャリア形成のヒントを楽しくお届けします。エビデンスの日常診療での活かし方、研究活動の実際や集中治療医としてのキャリア形成など、若手医師や医療従事者が直面する課題に寄り添った内容となっています。
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