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「誰がリーダーか」で決める職場選び

3月に入りました。そろそろ再来年度(2026年4月以降)の職場について考え始められた方も多くいらっしゃるんじゃないかと思います。

ICUトーク第8回は、ICU研修施設の選び方というテーマでお話ししました。

診療科を問わず、「専門医研修をどこで行うか」は若手医師にとって誰もが抱く疑問です。この疑問に答える際に、いくつかの視点から考えることが大事です。

1.診療に関する情報

これは、「施設の特性」と言い換えられます。病院全体の規模、診療科の種類、自分が希望する診療科の役割、そして診療している疾患の種類や症例数など。このような情報は、専門医研修の内容を想像するうえで核となる情報です。多くの場合、各病院・診療科のホームページに直近のデータが記載されているでしょう。

2.専門医の獲得状況

検討している施設がどの程度専攻医を受け入れており、毎年何人が専門医資格を取得しているかは、専門医資格を目指す若手にとって極めて重要な情報です。症例数が豊富でも、専攻医が多すぎて経験が十分に得られない可能性もあります。また、学会発表や論文執筆など、専門医試験の受験資格に必要な学術的活動の指導体制が整っているかも確認が必要です。

3.誰が働いているか

特にぼくが重視するのは、「誰がリーダーか」です。ただし、リーダーの肩書や実績が重要だと言いたいわけではありません。リーダーの理念や思想、そして自分との相性が重要だと考えています。

そこで今回のnoteでは、ぼくのこれまでの職場選びをご紹介しながら、行き先のリーダーがなぜ大事か、についてお伝えします。


ぼくの経歴

まずは、ぼくの経歴を簡単にまとめます。

  • 2013年 日赤和歌山医療センター 初期研修

  • 2015年 日赤和歌山医療センター 救急・集中治療部

  • 2018年 亀田総合病院 集中治療科

  • 2022年 イタリア研究留学

  • 2024年 亀田総合病院 集中治療科

合計4回職場を移っています。毎回、「誰がリーダーか」がぼくにとって職場を決める際の極めて重要な要素でした。それぞれの選択について詳しく説明します。

1. 初期研修→後期研修

この時は初期研修を修了した病院に残りながら、後期研修を行うという決断をしました。救急部のリーダーは千代孝夫先生、集中治療部のリーダーは辻本登志英先生でした。初期研修の2年間で両方の診療科を数ヶ月ずつローテートしていたので、お二人の仕事への向き合い方や教育方針についてはよく理解していました。

千代先生はカリスマ性のあるERのリーダーでした。自分の勤務時間に来る患者さん全員の顔をまず自分で見て、重症度に応じて初期研修医に任せていいのか、自分も最初から診療に関わるべきかを瞬時に見分けていました。そして研修医が診察して、検査も出して、最終的な転帰を決めたときには必ず千代先生にフルプレゼンテーションするのが決まりでした。

また、千代先生は山本五十六氏の名言をもじり、次の言葉を教育信条としていました。

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は育たじ

忙しいERの中で、毎年来る20名弱の初期研修医1年目に救急医療の基礎を教えるにあたって、できるだけ若手が主体的に関われる場面を作ろうという先生の意思が込められていると思います。

一方、ICUを仕切る辻本先生は、救急・麻酔・集中治療の3つの専門医資格を持つとともに、内科的な視点も強く持たれている臨床家でした。特に場当たり的な対応は大嫌いで、なぜそのようなバイタルサインの変化が起きているかを考えて、その原因に応じた根本治療をしながら、支持療法を行わないといけない、と言うことを初期研修で徹底的に叩き込まれました。

こんな2人のもとで、初期研修をしたことから、救急・集中治療分野により深い興味を持つようになりました。他の病院も見学しましたが、2人の仕事に対する姿勢や教育への考え方に共感したためわこの2人のもとで、さらに経験を積みたい、という思いが強く、同じ施設で後期研修を行いました。

後期研修を経て何が変わったか

後期研修ではスタッフとして2人の指導を受けながら、さらに初期研修医にその理念を伝える役割も担うようになりました。3年間で救急・集中治療医としての診療の基礎が構築できたとともに、研修医教育で大事にしたいことを整理することもできました。

2. 和歌山から亀田へ

集中治療医になると決めて次の職場を探した際にも大事にしたのが「リーダー」でした。初期・後期研修の中で、研究活動に興味を持つようになったぼくは、国外でランダム化比較試験を量産している施設に留学したいと思うようになりました。

そこで、留学経験のあるリーダーの元で、集中治療研修と留学準備をしたいと思うようになりました。研修先を探していた2016〜2017年当時に、ICUのリーダーで国際留学経験のあった方はあまり多くありませんでした。いくつかの施設を見学してお話しする中で、オーストラリアへの留学経験のあった林淑朗部長のいる亀田総合病院のICUを選びました。

留学経験以外に林先生のもとで働きたいと思った理由は、亀田ICUの自由な雰囲気でした。さまざまな背景や目的を持って、亀田ICUでの集中治療研修に来られる方がいて、研修を終えた後の進路も様々でした。医局に縛られず、個々の希望に沿った研修を提供し、キャリアをサポートする診療科の雰囲気に魅力を感じました。

亀田ICUに行って何が変わったか

亀田ICUに移ってから、集中治療専門医資格を取得しました。臨床以外では、初めての多施設研究にも着手しつつ、留学準備も進めていきました。そして亀田に移って、4年後にイタリアへ留学することになります。

3. イタリア留学へ

留学先を探す時も誰がリーダーかが大事でした。ぼくの留学する理由は、ランダム化比較試験を量産してる施設を見たいということでした。

集中治療の分野だとアメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが代表的な留学先です。そんな中、ICU領域では日本人留学生がいないイタリアにした理由は、林先生から紹介されたことに加え、留学先のリーダーであるGiovanni Landoni教授が若手教育熱心であることがわかったからです。

とは言え、僕が留学先を探していたのはコロナ禍の真っ只中でした。そのため直接施設を見に行く機会はありませんでした。そこで僕はLandoni教授が執筆している論文の筆頭著者を見ました。すると、毎年50-70本、新しく出る文献のうち95%以上で筆頭著者が若手でした。きちんと労力を割いた、若手にオーサーシップで報いる。その姿勢が垣間見えて、Landoni教授のもとで勉強したいと心に決めました。留学先にイタリアを選んだ理由は、こちらにも詳しく書いております。

イタリアでどんな経験をしたか

渡航前に調べていた通り、Landoni教授は非常に教育熱心でたくさんの機会を提供してくれました。また留学前に希望していたランダム化比較試験に関しても、研究資金獲得から出版までの一連のプロセスに関わらせてもらうことで、現場でリアルに起きていることを体感できました。さらに一緒に論文を出版することができ、帰国した今も共同研究の関係が続いているのが非常に嬉しいです。

4. 亀田で復職

2年間のイタリアでの研究留学を終え、帰国した僕は亀田ICUに戻りました。留学の機会を提供してくれた林先生とまた一緒に働けるのも嬉しいです。

留学前とは自分の立場も、診療科のメンバーも変わってはいますが、リーダーである林先生の理念や思想は一貫しています。そのため、立場が変わっても、亀田ICUの目指すべき方向を目指して、新たな取り組みにも恐れずチャレンジできます。

今こそ対面でのやり取りが大事

オンライン全盛時代において、あらゆる情報がインターネット返して簡単に入手できたり、頭に浮かぶ様々な問いに対してAIが瞬時に回答してくれたりします。でも、だからこそ、そういった情報だけで自分のキャリアを選ぶのは危ないです。

どんな研修施設も万人にとって最高とはいきません。あなたとよく似た考えを持つ方が勧めるリーダーが、あなたともフィーリングが合うかはわかりません。よさそうな施設のリーダーを見つけたら、自分でその人と直接やりとりをし、理念や思想を知る。そして、言葉を交わすことでしかわからない温度感を大事にする。自ら動き、一次情報を取りに行くことで、施設やそこのリーダーについて深く知り納得したうえで、研修先を決めることができるようになります。結果的に入職後もスムーズに仕事に入っていけるはずです。

キャリアの早い時期に出会う指導者は、その後のキャリアにも大きな影響を及ぼし、いいリーダーとの出会いは、自分では想像もしなかったような可能性を開いてくれます。納得して自分の大切な研修期間を過ごせる場所、リーダーを見つけて欲しいと思います。

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小谷祐樹
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