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旧姓を名乗ること#57

大学時代に占いに行ったことがある。

当時19歳、長崎に住み始めて1年ほどで私と同じく県外から来た友人らと長崎で有名(?)なたい焼き占いというものに行った。

いや、ネーミング…。
話を聞くとたい焼きを100円で買うと占ってくれるというもの。
やっす。たい焼き代なのか占い代なのか。

100円で自分の未来を占ってもらえる、まさしくワンコイン。行くしかない。

というわけで友だち4人と行った。
"鎌田優紀子"と紙に書いて渡すとたい焼き売りのおじちゃんはしばらく何やら書いたり考えてこう言った。
「あなたはね、音楽でうまくやっていけるよ!」

やっぴっぴーーーーーー!
なんて浮かれるわたしではない。
かなり冷めている性格だし、リアクションも薄いとはよく言われる。

そして基本的に占いは信じない。
100円であっても、お金を払って占ってもらったのは後にも先にもこの時だけだ。

「そうですかぁ、でもわたし音楽の先生になりたいんです」
と言うと、教員もなかなか良い運勢らしい。
わたしの未来は安泰やな、と良いことだけ受け止めて店を出た。

この思い出を今でもよく覚えているのは、占いに行ったのはこの一度きりだということと、たい焼き占いというものも聞いたことがなかったからである。

"鎌田優紀子"という名前は好きではなかった。
画数が多いから書くのは大変で、テストの時なんか鎌と優には苦労した。しかもなんだかお堅いイメージ。

「鎌田」って先祖は稲刈りでもしてたんかい!って、もっと威厳のある苗字がいいなぁなんてことも思っていた。

ちなみに今まで私が出会った人の苗字で「カッコいい…!」と思ったのは、「藤宗」と「清末」だ。


わたしは結婚して別の苗字になったのだが、仕事では鎌田姓を使っている。去年までは夫の姓で活動していた。

離婚したわけではない。
穏やかな毎日を送ってるが、新姓では仕事上の不都合があったのと旧姓の方が「自分らしさ」を意識できる気がしたからだ。

鎌田でやってきた歴史があって、音楽も鎌田でやってきた期間は長い。
かまた、かまかま、かまっち、おかま、とわりと苗字でいじられて仲良くしてくれる友人もいて嬉しかった。

好きではないと思っていた名前だが、実はかなり愛着を持っていたのかもしれないとあとから気づいた。

たい焼きおじさんだって鎌田姓で占って音楽で大成するって言ったし、鎌田優紀子と名乗るときには妻としてだとか母親業をしてる自分ではなく1人の人間として意識することができて、去年から鎌田姓にしたわけだ。


不思議なことに旧姓に戻してから、運気はかなり上がった。特にこの数ヶ月はトントン拍子に仕事が決まることが多い。
さすがたい焼き占い、今でもやってるならぜひまた占ってもらいたい。

今でも私は占いは参考にする程度だ。
しかし、名前の持つ力は侮れないとも思っている。

旧姓を名乗ると、鎌田優紀子という人物になる。
それは母親として妻としてではなく、1人のクリエイターとしての人間としてスイッチがオンになる。

今では悪くないかもな、と最近自分の名前が好きになり始めている。

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