キャビキュリ2023にむけて(夜公演プログラム解説つき)
今年も2023年12月23日にキャビキュリフェスが開催されます。今年のテーマを「四重奏」。昼公演(14:00開演)では、弦楽四重奏作品、夜公演(19:00開演)では異種楽器四重奏の計二公演を同日にお届けします。先日昼公演で弦楽四重奏について書いた記事がこちらです。
今日は夜公演のプログラムについて書いていこうと思います。
新しい四重奏
19時から始まる夜公演は、サブタイトルを「新しい四重奏」としていますが、その文字通り従来の同種楽器による四重奏とは異なる四重奏による作品をお届けします。こちらのコンサートでは通常オーケストラの編成には入らないエレキギターに始まり、サックス、ドラム、キーボードによる四重奏にフォーカスしています。
この編成の作品が増えたきっかけの一つは、現代音楽の文脈にエレキギターを持ち込んだYaron Deutschが率いるEnsemble Nikelというアンサンブルによる影響が強いと思います。Ensemble Nikelは、ドラムはBrian Archinal, キーボードはAntoine Françoise , サックスはPatrick Stadler、そしてYaron Deutschの四人で形成されたバンドです。わたしが2000年代にダルムシュタット夏季音楽講習会に参加した時に、初めてエレキギターについて勉強したのですが、その時参加していたのがYaron Deutschでした。ダルムシュタットには、メインのレクチャーと参加者が自由に使えるオープンスペースがあるのですが、当時まだ無名だった若き日のYaron Deutschがオープンスペースで彼の楽器について熱烈にレクチャーをしていたことをよく覚えています。そして今や、この分野の第一人者として、Ensemble Nikel以外でも様々なアンサンブルやオーケストラのソリストとして、多くの作曲家とコラボレーションをしています。
昼公演でお届けする弦楽四重奏では、伝統的であるが故にこの時代にそれをどう聞かせるか、その態度に伝統に対する姿勢が見えると感じているのですが、こちらの新しい異種四重奏では別の意味でのコンテクストとの関係性が見え隠れするのではないかと思っています。
ギターにドラム、キーボードにサックスというと、本来はジャズやロックなどで使われる編成ですよね。編成それぞれに固有のサウンドがありますが、この編成にはポップスなどで使われるような文脈がどうしても見え隠れします。現代社会の中でこれらの分野は、伝統よりも遥かにわたしたちに浸透し、日常の音風景を彩っているわけですが、それらのポップなサウンドとどう対峙するか、それも一つの見どころの一つになるのではないかと思います。
エンノ・ポッペ(1969):肉(2017)
エンノ・ポッペは、ドイツを代表する作曲家であり、多くのアンサンブルを指揮する指揮者としても有名です。彼の作品タイトルの多くは即物的なものから取られており、こちらの作品でも「Fleisch=肉」と名付けられています(が、特に「肉」を表現した作品ではないはずです)。この作品において、エンノはロックについてこう言及しています。
作曲家のバックグラウンドも必ずしもクラシックではなく背景にロックやポップス、ジャズなど多様化していますが、エンノが見る「ロック」がどんな形であるのか、ぜひ生で聞いて頂きたい作品です。
オリバー・サーリー(1988):ヴェールに包まれたままの(2015)
わたし個人的にこの三曲の中で、自分自身とシンパシーがあるのがこちらの作品です。エンノ・ポッペの手法とは全く異なる方法で、この編成を最大限生かしながらも独自のサウンドを作り出しています。オリバー・サーリーはイギリスの作曲家で、現在はリーズ大学で教鞭を執っている同年代の作曲家です。以下に挙げる動画は、以前からKlaus Langを通じて見たことがあったのですが、この自然多い空間にハーモ二ウムをKlausと一緒に運び出しているのが、オリバー・サーリーです。
少し脱線してしまいますが、Klaus Langが長年やっているプロジェクトに「translucent spaces」があります。このプロジェクトは、クラウス・ラングが中心となって若手作曲家があるルールのもと作品を作り色々な場所で発表する、というもので、グラーツのImpulsアカデミーやダルムシュタット夏季現代音楽講習会でも行われていたのですが、以下にプロジェクトのステートメントを書きます。
今回演奏するオリバーの作品も音響によって立ち上がる空間を感じられるような作品で、空間の中で聞く価値の高い音楽です。ぜひ生で体験して頂きたいです。
マルコ・モミ(1978):ほとんどどこにもない(2014)
最後にご紹介するのは、ペルージャ生まれのイタリアの作曲家Marco Momiです。欧州ではもう知らない人はいないほど、様々な音楽祭や講習会でたくさんの賞を受賞しており、非常に作曲技術の高い作曲家です。どんなコンテクストや伝統が背景にあるとしても、音素材を構築する時間や組み合わせたり発展させる技術自体は、作曲家の手にかかっています。この作品では素材の扱いは、上記の二曲に比べると一見クラシカルな方法に見えますがノイズやピッチ、そしてエレクトロニクスも含めて精度高く使用され、未聴感のある音響的時間を作り出しています。25分ほどの大作ですが、特に時間の構築の方法が秀逸で、これだけバラエティのある聴覚体験の旅をさせてくれる作品はなかなかないと思います。
以下公演詳細
日程:2023年12月23日(土)
会場: ドイツ文化会館1階ホール
アクセス: 東京都港区赤坂7-5-56(青山一丁目駅より徒歩7分)
チケット料金
●コンビチケット ※限定 50席
一般:5,000円/学生:3,000円
●シングルチケット
各公演 一般:3,000円/学生:2,000円
*学生券をご購入の方は、公演当日学生証など年齢を確認できるものをご提示ください。
申込フォーム
URL https://forms.gle/VWuPbXiq3hSDgXCX8
もしくはメールアドレス(cabi.curi.coc@gmail.com)までお申込みください。
問合せ
Cabinet of Curiosities
E-Mail: cabi.curi.coc@gmail.com
URL: https://www.facebook.com/cabi.curi
プログラム
昼公演:弦楽四重奏の現在 開演14:00 (開場 13:30)
演奏:河村絢音(ヴァイオリン)、對馬佳祐(ヴァイオリン)、中山加琳(ヴィオラ)、北嶋愛季(チェロ)、佐原洸(エレクトロニクス)
チヨコ・スラヴニクス(1967):ディテールの傾き (2005/06)
Chiyoko Szlavnics: Gradients Of Detail
レベッカ・サンダース(1967):矢羽根(2012)
Rebecca Saunders: Fletch
クララ・イアノッタ(1983):ジャム瓶の中の死んだスズメバチ(iii)(2017-18)
Clara Iannotta: dead wasps in the jam-jar (iii)
《アフタートーク》
夜公演:新しい四重奏 開演19:00 (開場 18:30)
演奏:大石将紀(サクソフォン)、神田佳子(打楽器)、 黒田亜樹(ピアノ)、山田岳(エレクトリック・ギター)、有馬純寿(エレクトロニクス)、橋本晋哉(指揮)
エンノ・ポッペ(1969):肉(2017)
Enno Poppe: Fleisch
オリバー・サーリー(1988):ヴェールに包まれたままの(2015)
Oliver Thurley: whose veil remains inscrutable
マルコ・モミ(1978):ほとんどどこにもない(2014)
Marco Momi: Almost Nowhere
《アフタートーク》
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]
芸術文化振興基金助成事業
公益財団法人日本音楽財団
公益財団法人野村財団
協力:日本音楽財団(日本財団助成事業)
ゲーテ・インスティトゥート東京
(このコンサートはサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。)