渡辺愛×山根明季子×桑原ゆうで語る~その①
※本記事は、2018年8月28日都内で行われた「海外留学フェア (PPP Project)」の一貫として開催された「女性中堅作曲家サミット・グループA」の書き起こしです。パネリストとの合議による加筆修正が含まれます。(編集・わたなべゆきこ&森下周子)
ー(わたなべゆきこ、以下わたなべ)「留学フェア」ですので、留学経験のある渡辺愛さんからまずお願いします。
(渡辺愛、以下渡辺)電子音響音楽を学ぶためにフランスへ留学をしたんですけど、当時28歳だったので、年齢的には早い方ではなかったです。
ー(わたなべ)今現在はどのように?
(渡辺)模索の20代が過ぎ30代半ばになり、世の中が自分に求めていることがわかってきて、その要請に応える段階にいると思ってます。また3つの大学で掛け持ちで教えていて、家に帰ると2歳の子供の世話という状況なんですが、その辺りワーキングママの先輩(※2018年現在、山根明季子は9歳、わたなべゆきこは4歳のママとして奮闘中)とシェアできたらいいなと思ってます。
ー(森下周子、 以下森下)パネリストの方それぞれに、作曲家としてのご自身あるいは作品を表す「3つのキーワード」をお聞きしたいと思ってます。愛さんはどうですか?
(渡辺)まずは専門分野である「電子音響音楽」。それから「間(ま)」「あわい」もキーワードになるかもしれません。コンサート会場でお客さんと演者という分断された状況で聴くよりも、オールナイトのフェスティバルみたいにお客さんと演者が混じってやったりすることもあるので。後は、声やノイズなど既に存在している音を録音・変換して使うことも多いんですが、そこから直接的なイメージを喚起しやすいという意味で「イメージ」もキーワードにしておきます。
ー(森下)フランスの電子音響音楽って、日本とは違うんですか?
(渡辺)わたしが知っているのはフランスのごく一部ですけど、フランスはある意味で非常にコンサバティブなんですよね。村が決まっていてお互いに関心はあるけれど、それぞれで活動している。
ー(森下)ベルギーも似ていますよね、各々が強い美学を持っていて。
(渡辺)わたしが通っていたのは音楽院なので、正に伝統的なことをやっている・その系譜上にいる、という意識がそこにはあったような気がします。そのことが一つのアイデンティティになっているというか。逆に日本は分野横断的な状況にあって、どこのスクールの出身か関係なく活動できるという面は、むしろ大きなアドバンテージじゃないかって思うんですよ。
(山根明季子、以下山根)師の松本日之春先生の時代には海外に留学すると、なぜ日本人なのに西洋音楽をやっているのか、伝統音楽はやらないのかと問われることがあったと聞きました。その辺りは電子音響音楽ではどうなんでしょう?
(渡辺)フランスから見る日本の電子音楽のイメージは「ジャパノイズ」。日本のノイズミュージシャンは海外から熱望されてるし、国外ツアーにも頻繁に行っていたりしますよね。
ー(森下)確かに日本のノイズミュージックは、イギリスでもドイツでも人気がありますね。
ー(森下)ちなみに、日本の電子音響音楽って、そのシーン内では横断的状況にあるということだったんですが、大きく捉えたジャンルそのものに関してはどうですか?自分の大学時代を思い返すと、クラシックはクラシック、ノイズはノイズという風に分かれていた印象があるんですけど。
(渡辺)個人のレベルでは越境しているように思います。クラシックな科にいてもポップやノイズをやったりと、軽やかに活動している人はいますね。けれど授業レベルでは科ごとに固まっているかもしれません。わたしが担当している東京芸術大学の音楽環境創造科のサウンドシンセシスという授業には、楽理やピアノ、作曲の学生もいるにはいるけれどごくわずかで、ほとんどを音環の学生が占めています。もっと他学科の学生も聞きに来ればいいのにね。
ー(わたなべ)少しずつ増えると良いですね。
【②につづきます】
渡辺愛×山根明季子×桑原ゆうで語る~その②