八坂公洋に〇〇について聞いてみた(2)
ちょっと聞いてみたい音楽の話。11月はカナダ・モントリオール在住のピアニスト、八坂公洋さんをゲストにお招きしております。第一章では、幼少期の話、そして長崎からモントリオールへ来た経緯について。続きまして、本章テーマは「現代音楽を演奏すること」。
(わたなべ)八坂さんは、特に新しい作品を積極的に演奏されていますよね。それはいつ頃から始めたことなんでしょうか。
――(八坂)マギル大学に入ってからです。それまでは、現代音楽に触れることもなかったので・・・あの大学に入らなかったら、今の僕はないと思ってるんです。
(マギル大学公式紹介ビデオ)
大学のカリキュラムの中に、現代音楽に触れる機会が組み込まれているとか?
――そうですね。でもそれだけじゃないんです。
ご自身で開拓していった?
――というよりは、人との出会いですね。橋本京子教授から邦人作曲家の作品を沢山紹介して頂いたのがきっかけでした。まず最初に演奏したのが、武満徹さんの「Rain Tree Sketch II」。
その時に、ある先生から「君は日本的だね」って言われたのをよく覚えています。
日本的。
――「それってどういうことなんだろう?」って。それは今でも考え続けているんですけれども、そこから寺島陸也先生に出会ったり、また多くの日本の作曲家との出会いがあって、現代の音楽を演奏させてもらっています。
その日本的な〇〇って、私も海外で言われたりするんです。「音楽が日本的だ」って。これって何なんだろう。
――はっきりとはわからないけど・・・、例えばドイツ人の演奏家がドイツ人作曲家の作品を弾いた時に、「わ、ドイツ的だな」って思う感覚っていうのはあるんですよね。ほら、ドイツの古典の作品だと、例えばドイツ歌曲が核にあったりするじゃないですか。韻を踏んでいたり。ドイツ語ならではの感覚が、きっと身体を通して自然と音楽の中に入り込んでいる。それと同じで、日本で住んでいた経験が無意識のうちに、僕の身体に入り込んで、それが音楽に出てくるんじゃないかって思うんです。例えば、「空気を読む」ことだったり、「間」の取り方だったり、そういうところに「日本人としての経験してきた知」がにじみ出るんじゃないかな。
「間」は、日本的の美学の一つの大きなテーマではありますよね。
――自分が自然に感じ取れることが、西洋の演奏家にとってはとても異質だっていうことが、実際あると思います。日本人的な感覚が、もし日本人固有のものであれば、他言語に翻訳するのって容易ではない。そういう、簡単に共有できないような異文化的感覚を、どうにかして欧米の人に伝えることが、僕の演奏家としての一つの使命であると思うんです。
そういう気持ちから、邦人作曲家の作品を多く音にされている。
――はい、邦人作曲家の作品はライフワークとして、継続して演奏していきたいと思っています。
私、思うんですけれど・・・世界には「はっきりとした形になっているもの」と、「形になっていないもの」があって、私たちの目に見えるものっていうのは、既に何かしらの形になっているものだと思うんですね。形になっていないもの中には、「感情的なもの」や、「何とも形容しづらいもの」っていうのがあって、今お話していた「〇〇風」「〇〇的」というのも、「形容しづらいもの」の領域にあるもの、だと思うんです。
例えば、「日本固有の感覚」みたいなものっていうのは感覚的にはわかる。そして、それを他の言語しようとすると意味は通じるけれども、大事なものが抜け落ちてしまう。完全に翻訳することが出来ない。だから、その削られてしまう何かを、芸術を通して伝えようとする姿勢ってとてもクリエイティブだなって思うんです。だって、簡単じゃないと思う。
――僕は日本を出てから、こう思うようになったんですね。日本に「素敵だな」って思えるものが沢山あるのに、外にそれがうまく伝わっていない。それって、とても残念じゃないですか。それをもっと知ってもらいたい、伝えていきたいっていう風に思うんです。だから、クリエイティブかどうかはわからないけど、とても自然なことだと思っています。
意義ある活動だと思いますし、有難いです。作曲家の側からすると、そういう志で音楽に取り組んでくださる演奏家の存在なくしては、音にならないわけです。
――クラシック音楽って、やっぱり欧米中心主義じゃないですか。でも、日本人の作品も素晴らしいものが沢山ある。それは、伝えていかなければいけない、と思うんです。
(武満徹:雨の樹素晴描)
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