仮想レジアカ対談ー薬師寺典子(ソプラノ)×木村麻耶(箏)
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仮想レジアカは、作曲家向けオンラインアカデミーです。2020年6月・7月の二か月間を仮想のレジデンスと仮定して、一分の作品をプロフェッショナルな演奏家と交流しながら作り上げていきます。参加希望者は、以下の記事より詳細をご覧ください。
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仮想レジアカに参加する演奏家による対談をシリーズでお届けします。第三弾は、ソプラノ・薬師寺典子と箏・木村麻耶。
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記憶に残っている現代音楽作品
(薬師寺典子、以下薬師寺)声楽作品ですと、やはりルチアーノ・ベリオ(Luciano Berio)の「セクエンツァIII(Sequenza III)」でしょうか。まだ現代音楽の「げ」の字も知らなかった頃に、友人がこのセクエンツァとヘンツェ(Hans Werner Henze)のギターとテノールのための「Drei Fragmente nach Hölderlin 」をいつか私に歌ってほしいと音源を送ってくれました。
聞いて鳥肌が立ったのは、Donatienne Michel-Dansacが演奏したジョージ・アペルギス(George Aperghis)のPubでした。圧倒的スピード感とブレの無さに感動しました。
(木村麻耶、以下木村)是非生で聴きたいです。
(薬師寺)木村さんは、どうですか?
(木村)うちは特に音楽一家でもなく、「ただお箏が好きだから」という理由で音大へ行ったんです。なので、昔から今のような活動をしていたわけではなくて、大学に入ってから現代音楽に興味を持ち始めました。 様々な演奏会に行って作品や歴史を知り、また作曲家の想いを受け取ることで、関心を深めていきました。今は、箏でも主に二十五絃箏を演奏させて頂く機会が多いんですね。
二十五絃箏は、野坂惠子先生により1991年に開発・発表されたのですが、二十五絃箏誕生には伊福部昭先生の存在が大きく関係しています。 私も大学時代に伊福部昭先生の曲は多々勉強させて頂いておりますが、一番初めに演奏した「交響譚詩」(2001)で、自分の中での箏が変わっていきました。 箏も勿論ですが、楽器の開発者である野坂惠子先生の想い、教えを習い、自分なりにこれからもこの楽器の可能性を見出し演奏していきたいと考えています。
卒業後は「4+」という桐朋時代に出会った仲間と箏のグループを組んで作曲家を公募し、新曲初演活動を頻繁に行ったり、ギター演奏家の佐藤紀雄先生と一緒に「紡ぐ糸」というデュオを組んで既存の曲をアレンジしたり委嘱作品を演奏したりしていますが、その佐藤先生が音楽監督を務めるアンサンブル・ノマドの存在も、現代音楽をより知りたいと思うきっかけになりました。 今生きる人と一緒に曲を作り上げること、お互いを高めあっていけるところが、非常に面白いと感じます。
最近では歌も歌わせていただくことも多いですが、そのきっかけとなったソプラノとギターの曲でメキシコの作曲家、エベルト・バスケス氏の「イクノクイカトル―シトラリに捧げる歌」(2014)も印象深いです。
もともと、箏は弾き歌いの曲が古典曲では多くありますし、学校でもよく休み時間に教室で歌っていたので、歌うことは抵抗なく好きでしたが、そのための曲となるとわけが違いますし、楽譜を見た時は到底出来る気がしなかったです。楽譜があることを確認してはそっと閉じる日々でした(笑)
バスケスのこの曲は彼の妹が34歳の若さで亡くなってしまった、その想い出を歌っています。 何度かコンサートで演奏させて頂いておりますが、特に嬉しかったのは、2019年にスペイン公演でこの曲を歌えたことです。 勿論、箏も演奏しましたよ(笑)
(Hebert Vázquezによる動画)
これだけは知っておきたい(箏編・ソプラノ編)
(木村)おすすめの本ですが(日本音楽は歴史と深く結びついていて難しい部分もありますが)、 吉川英史さんや小泉文夫さんの著書はわかりやすく、面白いのでお勧めです。 特に、宝文館出版の「邦楽への招待」が読みやすかったです。
(薬師寺)木村さんが動画で最初に仰った様に「箏の場合、作曲を通して新しい楽器が誕生する」という所がとても興味深いです。 何故なら声楽も同様の点があるからです。
(限定公開動画)
現代声楽作品のパイオニアといえば、声楽家で作曲家、アクターでもあり、ルチアーノ・ベリオの元奥様であったキャシー・バーベリアン(Cathy Berberian)ですが、彼女はそれこそ作曲家と共に沢山の新しい「声」を開発しました。 一節ではセクエンツァIIIは家でのバーベリアンの様子をベリオが作品にしたという話もあります。
「Cathy berberian : Pioneer of Contemporary Vocality 」(Pamela Karantonis、他) などはバーベリアンについて多角的に書かれていて、声楽作品に興味がある作曲家にとっては参考になると思います。
2015年にトーキョーワンダーサイト(現・Tokas) の現代音楽企画ゼミの一つとして東京文化の小ホールで「キャシー・バーベリアン」をテーマにしたリサイタルをしました。そのプログラムの中の一つとして事前に行ったワークショップで、バーベリアンが書いたオノマトペの作品「Stripsody」を参加者の皆様とアレンジした作品を作成し、発表したのですが、1966年に作曲されたこの作品が60年の時を経てもなお新鮮な事に驚きました。
(キャシー・バーべリアンによるStripsody)
コンセプトはただ「漫画のオノマトペ」を声に出す、という、本当にそれだけなのですが、シンプルだからこそ時が経っても古さを感じず、人の心に残るのかなと感じました。 そういう意味で彼女の功績はその演奏のみならず、声の作品の概念を変えたという意味で「パイオニア」というタイトルがぴったりだなと感じました。 バーベリアンのレパートリーは、強いて言えばクラシックの世界のバッハやモーツァルトのような、その道を志す者なら必ず通らなければいけない道、の様な者だと思います。
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薬師寺典子(ソプラノ)
幼少よりヴァイオリンを習い声楽を始める。東京芸術大学声楽科卒業後、ベルギーで学ぶ。ブリュッセル王立音楽院修士課程修了。ベルギー政府給費奨学金奨学生、野村財団奨学生。ベルギーアンスオペラコンクール入賞、ベルアルテ国際声楽コンクールファイナリスト、現代音楽コンクール「競楽」第三位受賞。これまでにヨーロッパではリエージュ王立歌劇場ラヴェル作曲オペラ「子供と魔法」子供役、ロンドン・マッキントッシュアートセンター、モンテヴェルディ作曲オペラ「ポッペアの戴冠」ヴィルトゥ役、アントワープ・デシンゲル劇場パーセル作曲「ディドとアエネアス」侍女役などのオペラやコンサートに出演。 日本では松平頼暁作曲オペラ「挑発者たち」(世界初演)を始め、 E・サティ「ソクラテス(パイドロス役)」、 またTWSで企画が選出され東京文化会館小ホールでリサイタルを行うなど、数々のオペラとコンサートに出演。現代音楽を主なレパートリーとし、ベルギー現代音楽祭アルス・ムジカ、スペイン・シルガ現代音楽祭等の音楽祭に出演。 これまでに演奏がNHK-FM「現代の音楽」(木下正道「中心 / 記念すべき谺」、ヴォクスマーナとして)、NHK-FM「日本音楽コンクール作曲部門入賞作品」(中橋祐紀「家具の音楽」、アンサンブル・リームとして)にて放送される。今春にはベルギー・ゲントにて現代音楽アンサンブルIctusの指揮者、G.E.Octors指揮によるロミテッリのオペラ「An index of metals」にソリストとして出演予定。イタリアSheva collectionよりヴォカリーズ作品を集めたCD「Mnemosyne」発売中。
木村麻耶(箏)
木村麻耶(きむらまや)
北海道出身。3歳より橋本はるみ氏に師事。桐朋学園芸術短期大学卒業。同、専攻科卒業、研究生修了。在学中に箏・十七絃箏・二十五絃箏を野坂惠子氏、滝田美智子氏に師事。第17回賢順記念くるめ全国箏曲祭にて賢順賞(第1位)受賞等、幼少より数々のコンクールで優勝、入賞する。これまで北海道新聞社賞、釧路奨励教育長賞、平成24年度別海町文化奨励賞受賞し、リサイタルを開催。また第10回ニンフェアールに出演し、その公演が第14回佐治敬三賞受賞する。現代音楽フェスティバルMaerzMusikより招請されベルリンにて演奏等、これまでチェコ、ハンガリー、ウラジオストク、メキシコ、中国等、国際公演やレクチャーのほか、財団法人での事業、児童館、学校にて公開講座、アウトリーチやコンサートも行う。また、様々な作曲家の委嘱初演も数多く行い箏の可能性を拡げている。テレビ、NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」等出演。伊福部昭、アニメ「この音とまれ!」等、CD録音も多数参加している。4plus、紡ぐ糸メンバー。宮城会会員。埼玉県立久喜高等学校箏曲部講師。
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仮想レジアカ対談集
①黒田鈴尊(尺八) ✖ 今井貴子(フルート)
②北嶋愛季(チェロ)×橋本晋哉(チューバ)
③薬師寺典子(ソプラノ)×木村麻耶(箏)
④大瀧拓哉(ピアノ)×山田岳(ギター)
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