キャビキュリ2023にむけて(昼公演プログラム解説つき)
今年も2023年12月23日にキャビキュリフェスが開催されます。今年のテーマを「四重奏」。昼公演(14:00開演)では、弦楽四重奏作品、夜公演(19:00開演)では異種楽器四重奏の計二公演を同日にお届けします。
四重奏といま
四重奏というと、作曲家側からするとなかなか挑戦的な編成というか、ピアノソロに似たプレッシャーがかかる編成ではありますが、その分どのように伝統をとらえるか、という姿勢が見えやすい編成であると思います。
伝統とどう対峙するか、というのは、どの分野においても重要なトピックですが、この殺伐とした世界の中で、いまや芸術だけでなくわたしたち「みんな」の喫緊な課題だと感じます。過去をどう見つめ、それらをどう未来につなげるか、それは今をどう生きるか、という視点に繋がってくるものです。「伝統」というとどこか重たく、自分とは関係のない世界だと感じることもありますが、「昨日」の積み重ねが「過去」となり、「過去」の積み重ねが「伝統」であるとするならば、それは決して途切れた糸のようなものではなく自分自身に繋がってくるものなのではないかと思うのです。12月23日に演奏する計6曲は、それぞれ音響もテクニックも、伝統との距離感やスタンスも違う作品ばかりですが、これらの作品から「いま」を感じることで、過去と未来を思考する一日になればと思います。
昼公演:弦楽四重奏の現在ー三作品について
「四重奏=カルテット」と聞いて一番初めにイメージするのは、弦楽器によるカルテットではないでしょうか。西洋クラシック音楽の基本ともいえる弦楽四重奏は、西洋音楽史の中でも重要な位置にあり、歴史の深い伝統的な編成です。これまで数多くの作曲家がこの編成に挑戦し、新たな構造やサウンドを作るために研究・リサーチを重ねてきました。そして2023年、いま現在の「弦楽四重奏」をお楽しみ頂くために、今回は欧米で活躍する3名の女性作曲家の作品を選びました。
チヨコ・スラヴニクス(1967):ディテールの傾き (2005/06)
チヨコ・スラヴニクス(Chiyoko Szlavnics)は1967年カナダ・トロント出身、ドイツ・ベルリン在住のサクソフォン奏者、作曲家です。1989年にトロント大学を卒業したあと、1997年にドイツのアカデミー・シュロス・ソリチュードより奨学金を得てドイツに滞在し、それ以来ドイツを拠点に活動しています。一時期プライベートでジェームス・テニ―に師事していたことのある作曲家ですが、マイクロトナリティと純正律を研究し、正弦波を用いた作品などで知られています。ドローイングによって書かれた線を、忠実に音として楽譜に落とし込む方法で創作しており、本公演で演奏する「Gradients of Detail (2005)」でも、もとになっているドローイング自体が楽譜の中に納められています。
ドローイングの線は、とても繊細で時に交わりにじみ、離れたり、太さが微妙に変わったりしていきますが、それを正確に音に落とし込むためにミリ単位のピッチ操作が要求されます(奏者はそれらのピッチコントロールを事前に丹念に練習し、演奏するよう楽譜に但し書きがされています)。
レベッカ・サンダース(1967):矢羽根(2012)
Rebecca Saundersは、1967年ロンドン生まれ、ベルリン拠点の作曲家です。エディンバラ大学でNigel Osborneに、カールスルーエ大学でヴォルフガング・リームに師事し、現在はレベッカ自身が欧米の作曲講習会の講師として常連です。特殊奏法の組合せなどによって作られる音響は、演奏家との密なコラボレーションによって作られるもので、どの作品でも実現度が高くかつ独自の音響を聞かせてくれます。レベッカ・サンダースの作品解説ではよくあるパターンなのですが、この作品でもタイトルの概念が辞書から引かれる形で、プログラムノートがかかれています(即物的な解説が夜公演のEnno Poppeの姿勢とも通じるところがある気がしています)。
クララ・イアノッタ:ジャム瓶の中の死んだスズメバチ(iii)(2017-18)
本公演では、唯一のエレクトロニクスを含む作品です。クララ・イアノッタは、1983年ローマに生まれの女性作曲家です。イタリアやフランス、またアメリカではハーバード大学博士課程でハヤ・チェルノヴィン(Chaya Czernowin)、スティーブン・タカスギ(Steven Takasugi)に師事し、2018年に修了し、現在はウィーン国立音楽大学の教授を務めています。聴くだけでなく見るべきものであり、実存的、身体的経験として音楽をとらえており、作曲家として精力的に活動する傍ら、音楽祭におけるキュレーション活動なども積極的に行っています。
この作品のタイトルは(クララ・イアノッタの作品がいつもそうであるように)、とても詩的なもので、ドロシー・モロイというアイルランドの女性作家の詩からつけられています。同様のタイトルがつけられた作品が複数曲あります(バイオリンソロ [i]、弦楽オーケストラとエレクトロニクス [ii]、そして弦楽四重奏とエレクトロニクス[iii])。イアノッタはこれらの作品を制作する中でこのように述べています。
彼女が述べている通り、深海にいるような、現実の世界から遠く異世界の音の中に入り込んだような作品です。この作品は、2017年にArditti Quartetによって初演され、改訂版は2018年にQuatuor Diotimaによって演奏されています。音源でもとても美しい彼女の作品を聞くことができますが、ぜひ生で体験していただきたい作品です。
以下公演詳細
日程:2023年12月23日(土)
会場: ドイツ文化会館1階ホール
アクセス: 東京都港区赤坂7-5-56(青山一丁目駅より徒歩7分)
チケット料金
●コンビチケット ※限定 50席
一般:5,000円/学生:3,000円
●シングルチケット
各公演 一般:3,000円/学生:2,000円
*学生券をご購入の方は、公演当日学生証など年齢を確認できるものをご提示ください。
申込フォーム
URL https://forms.gle/VWuPbXiq3hSDgXCX8
もしくはメールアドレス(cabi.curi.coc@gmail.com)までお申込みください。
問合せ
Cabinet of Curiosities
E-Mail: cabi.curi.coc@gmail.com
URL: https://www.facebook.com/cabi.curi
プログラム
昼公演:弦楽四重奏の現在 開演14:00 (開場 13:30)
演奏:河村絢音(ヴァイオリン)、對馬佳祐(ヴァイオリン)、中山加琳(ヴィオラ)、北嶋愛季(チェロ)、佐原洸(エレクトロニクス)
チヨコ・スラヴニクス(1967):ディテールの傾き (2005/06)
Chiyoko Szlavnics: Gradients Of Detail
レベッカ・サンダース(1967):矢羽根(2012)
Rebecca Saunders: Fletch
クララ・イアノッタ(1983):ジャム瓶の中の死んだスズメバチ(iii)(2017-18)
Clara Iannotta: dead wasps in the jam-jar (iii)
《アフタートーク》
夜公演:新しい四重奏 開演19:00 (開場 18:30)
演奏:大石将紀(サクソフォン)、神田佳子(打楽器)、 黒田亜樹(ピアノ)、山田岳(エレクトリック・ギター)、有馬純寿(エレクトロニクス)、橋本晋哉(指揮)
エンノ・ポッペ(1969):肉(2017)
Enno Poppe: Fleisch
オリバー・サーリー(1988):ヴェールに包まれたままの(2015)
Oliver Thurley: whose veil remains inscrutable
マルコ・モミ(1978):ほとんどどこにもない(2014)
Marco Momi: Almost Nowhere
《アフタートーク》
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]
芸術文化振興基金助成事業
公益財団法人日本音楽財団
公益財団法人野村財団
協力:日本音楽財団(日本財団助成事業)
ゲーテ・インスティトゥート東京
(このコンサートはサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。)