ききたい

稲森安太己に〇〇について聞いてみた(3)

「ちょっときいてみたい 音楽の話」第七弾は、作曲家の稲森安太己さん。最後は、芥川也寸志サントリー作曲賞にて、オーケストラ作品の上演が予定されている稲森さんに「オーケストラを書くこと」について伺いました(インタビュアー:わたなべゆきこ)。ちょっときいてシリーズ、バックナンバーはこちらから。

オーケストラ作品


――6月の森紀明さんの回で話題にあがった「オーケストラを書くこと」について。森さんは、オーケストラは敷居が高い、書き始めることが難しいとおっしゃっていたんですね。稲森さんは、大編成の作品を多く書かれているじゃないですか。

管弦楽曲が9曲、吹奏楽3曲、室内管弦楽(大アンサンブル)が3曲かな。

――大きめな作品が既に15曲も!今40代前半ですよね?

41歳です(2019年時点)。

――始めたのが遅いっておっしゃってたじゃないですか。大学入ったのが25歳って。とすると・・・一年で一曲オーケストラを書いている計算ですか??うわ、かなりハード。

25歳で学芸大学に入ったときから「オーケストラを書けないと仕事にならない」っていう思いがあって、毎年書くように自ら課していたんですね。

――書くようにしてた!自主的に。

そう。単純に練習というか。それで、直しているうちに発表の機会を頂いたりして。ものによっては10年以上直してようやく発表とかもありますが。

――そうなんですね。わたしは逆でオーケストラは食わず嫌いで30歳まで来てしまって。今の若い世代とかはどうなんでしょう。

最近の若い作曲家、とても熱心ですよ。オーケストラ作品も多く作曲してますし。日本で学生さんの作品を見させていただく機会があると、いつも思うんですよね。みなさん、びっくりするくらい力があるなぁ、って。

――へぇ!

力って言うのは、「書く力」のことですけれど。それが「良い曲」かどうかはわからないけれど、一つの作品を書ききる力。

――なるほど。稲森さん、大きな作品を書き続けているじゃないですか。それでね、例えば「オーケストラ」っていうものは、自分の中で変化しましたか?わたしはまだ、二作しかオーケストラを書いていなくて、それを以て自由に思考できるほど手に入っていない感触なんです。

僕の場合は、それのせいかわからないけど、「特殊奏法離れ」が早かったんですよね。

――乳離れならず、特殊奏法離れ。

そうそう(笑)沢山書いて学んでいくうちに、自然とオーケストラで、何がうまくいくかいかないか、段々とわかってくる。そうすると、うまくいくことを書くようになるんですよね。例えば、フルートのピッツィカートってね、コンテクストによって発音が変わってくるわけです。学閥っていうかな、どこで学んだかで出てくる音そのものが変わってしまう。そうすると、貴重なリハーサル時間を削って、その奏法の説明をしなければいけない。フルートのピッツィカートって、今やもう古典の領域だけど、それでも安定していないんです。逆にね、誰も使っていないような、スペシャルな奏法であれば良いんです。もう、そこは時間を取って説明しようって心づもりでいればいいだけだから。

――どう時間をマネージメントするかって、オーケストラ作品を演奏してもらう上で肝ですもんね。

例えばね、フルートの息音だって、もう説明することないって思うけれど、どれくらい息を混ぜるのか、思っている音色は何なのか、かなり選択肢が多いんですよね。自分がこの奏法で鳴る音は「これだ!」と思っていても、かけ離れていることも実際には多くて。

――そういったことを微調整する時間がない。そこが室内楽との大きな違いでしょうか。

なので、室内楽作品でとことん、特殊奏法と向き合って、っていう時間は、他の人よりも短かったかもしれませんね。ただね、ぼく思うんです。特殊奏法を入れたから、特殊な音になるわけじゃないって。ノイズは美しいものなんですよね、それを味わっていたいと思うんだけど、それそのものより、どう提示するかが大事なんじゃないかと思うんです。それが間違っていたら、その存在すら生きない。そしてね、特殊なことを無理やりさせるんじゃなくて、オーケストラとかだったらね、やっぱり彼らが人生をかけて挑戦してきた「楽音」を聞かせるところをちゃんと作りたい。そして、提示の仕方を考えて、新しい音楽を作っていきたい。そこにはまだ埋もれている可能性があると思うんです。

――なるほど。新しいものを作り出すのに、必ずしも突飛な材料を使わなくても良いですもんね。一つの石でも、使い方次第で、見たこともないような構築物が生まれる。稲森さんの思う「新しい、聞いたことのない音楽」聞いてみたいです。芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会も楽しみですね。今日は一時間に渡るインタビューにお付き合い頂き、ありがとうございました。

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2019年8月31日(土) 15:00開演 サントリーホール

第27回 芥川作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱作品
茂木宏文:『雲の記憶』チェロとオーケストラのための(2019)世界初演
第29回 芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会(50音順/曲順未定)
稲森安太己:『擦れ違いから断絶』大アンサンブルのための(2018)
北爪裕道:自動演奏ピアノ、2人の打楽器奏者、アンサンブルと電子音響のための協奏曲 (2018)
鈴木治行:『回転羅針儀』室内管弦楽のための(2018)

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