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仮想レジアカ対談ー黒田鈴尊(尺八) ✖ 今井貴子(フルート)

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仮想レジアカは、作曲家向けオンラインアカデミーです。2020年6月・7月の二か月間を仮想とレジデンスを仮定して、一分の作品をプロフェッショナルな演奏家と交流しながら作り上げていきます。参加希望者は、以下の記事より詳細をご覧ください。

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仮想レジアカに参加する演奏家による対談をシリーズでお届けします。第一弾は、尺八奏者・黒田鈴尊フルーティスト・今井貴子
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現代音楽との出会い

(黒田鈴尊、以下黒田)現代音楽について、まずお話したいのは、武満徹の「November Steps」です。20歳の夏にこの作品に出逢うまで、私は尺八の『し』の字も知らなかった。「この曲を演奏したい!」 と一念発起で始めたんです。 私にとって今までに聴いたことのないような音、音の関係でした。植物のように響きが生成され、オーケストラの大音量と尺八と琵琶のpp(ピアニッシモ)が共存する。協奏曲のような編成でありながら、かつてないオケとソロの関係、図形楽譜によるカデンツァ。とにかく、それまでの音楽人生で最も強烈な体験でした。まるで感動で脳味噌がひっくり返ってしまったような。

(今井貴子、以下今井)偶然にも、私が初めて聴いた現代音楽も武満徹の作品でした。12、13歳の頃、フルートの野口龍先生とギターリストの佐藤紀雄先生のコンサートに行ったんです。そこで武満徹の「海へ」を拝聴して、世界が一転したのを覚えています。その時に、とっさに野口先生に「そのフルート欲しいです」とお願いしたんですね。実は今、使用している木管の頭部管付きアルトフルートも、パトリック・ガロワ(Patrick Gallois)先生が「海へ」の録音で使用したものを、どうしても欲しい! とお願いして、購入したものなんです。

(黒田) そんな超貴重なアルトフルートなのですね! 

(今井)
ガロワ先生が「え? 欲しい? いいよ! 先に買いなよ、僕いつでも買えるし! 」と仰って、メーカーの方は「え・・・これガロワ用に作ったのに・・・」という雰囲気だったんですが(笑)、先生の一押しで今ここにあります!

(Youtube限定公開: 黒田鈴尊と今井貴子による対談)

尺八とフルート

(黒田)動画でお話したように「一音へのこだわり」って、フルートと尺八の共通点なのかもしれませんね(動画参照)。 気鳴楽器同士、似ているところもある反面、それぞれの楽器にしか出来ないこともある。仮想レジアカの「フレキシブル編成」作品で、尺八とフルートを聴き比べたりするのも(ある意味恐ろしいですが)、楽しそうですね。

(今井)一音へのこだわり。本当ですね! そして、それに対する静の時間。これは邦楽の演奏会に伺って強く感じたのですが、皆さん「静」への感覚がとても深いように感じるんです。武道でいう残像の部分というか。そういったことについても、とても興味があります。

(黒田)武道との共通項、実は多いと思います。尺八を始めた最初の二、三年は、音楽よりも武道の修道に挑んでいるような感覚でした。

尺八の古典本曲の「間」では、「絶対の間を追求すべし」と言われるんです。武道で真剣勝負の際に髪一本でも誤れば命を落とす、と言われる「間」です。尺八を吹く事、それは即ち「吹禅」と言われるんですが、「無」や「瞑想」との関連もあります。 武道のみならず、〇〇道から学ぶべきことは非常に多いですよね。一生修行といわれますが、一生ではとても足りないのが現実です (笑)

(今井)やはり武道との関わりは強いのですね。小さい頃、楽器と平行して剣道の道場に通っていたんですが、今でもその感覚が音楽と似ているなぁ、と思うことがあります。 「吹禅」とお聞きして、納得いたしました。 

これだけは知っておきたい「フルート編」

(今井)現代奏法に関しては、全てが総括されている感じはないのですが、スタンダードな本ですと

「フルート奏法 現代音楽のための」オーレル ニコレ (著)

「現代のフルート」ピエール=イヴ・アルトー、 久保 洋子(箸)

「フルートの現代奏法―演奏家と作曲家のための」小泉 浩 (著)

運指については
「Modern Guide to Fingerings for the Flute 」James J. Pellerite (著)

などがオススメです。

こういった教則本だけでなく、実際作曲家の楽譜を見て勉強することも大切です。イタリアの作曲家、サルヴァトーレ・シャリーノ(Salvatore Sciarrino)は特殊な奏法について、かなり細かく書いています。

また楽譜から楽器法を学ぶだけでなく、その作曲家が生きていた(生きている)時代や地域なども感じ取ることが出来ます。地域で言うと、ドイツとフランスで演奏される現代曲って全然違うんですね。その違いを見るだけでも、とても面白いんです。

仮想音楽家レジデンスの第一回に参加してくださったSeongmin Jiさんの作品で、面白い体験をしたんです。韓国人である彼とはオンラインで多くの意見を交わしたのですが、ピッツィカートタンギングも、母音や鼻母音を変えるだけで、全く響きの違う物が鳴ることがわかったんです。言語が違うと、認識している発音も変わってくる。言語を知ることで世界が広がるんだなぁ、と思いました。

これだけは知っておきたい「尺八編」

(黒田)まずはこの二つ。

「日本楽器法」三木 稔(著)

「和楽器×古楽器による『アンサンブル室町』制作による楽器図鑑」

独習のためにまず、以上二つを推薦します。ここにも載っていないような未来の音は、作曲家とのコラボレーションによって常に開発され続けていくものです。原始的な楽器だからこそ、「こう吹いたらどんな音がするんだろう」「こんな音を出すにはどうすればいいんだろう?」という遊びや工夫によって、新たな技法がどんどん生まれていく。それが面白いところもあります。
尺八って音色と音程の変化が自由自在がゆえ、「アコースティックなシンセサイザー」と形容されたりもするんですよ。あ、でも、どの楽器にも自己紹介の一つに「人の声に最も近い楽器だともいわれます」があることと、同じかもしれませんね(笑) 

今では世界中どこにいても、オンライン上で新しいアイディアや技法を試すことができます。この瞬間もそうやって新たな音楽、技法が生まれ続けていると思うと、とってもワクワクします。

これから世界中の皆さんと、同じ空気を吸うもの同士の音楽コラボレーションに挑めることを、心より楽しみにしています。

(今井)
楽器も、作曲家や共演者との出会いも一期一会ですよね! コラボレーションによって新たな自分引き出されることが楽しみです。感化しあって創造されることこそ音楽だと思っています。 

尺八もフルートも、今まさに生きた音楽。コラボレーションをきっかけに、楽器の可能性を広げていければ良いです。 大変興味深いお話をありがとうございました! プロジェクトの中で、引き続きお話を聞かせてくださいね。

(黒田)本当に。そして音楽は本当に宇宙ですね。 創作過程を共有しながら学び合えることを、心待ちにしています。こちらこそ、ありがとうございました。

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黒田 鈴尊 / 尺八奏者

人間国宝・二代青木鈴慕、三代青木鈴慕に師事。早稲田大学、東京藝術大学、同大学院修士課程修了。第二回利根英法記念邦楽コンクール最優秀賞受賞。 国際尺八コンクール2018 in ロンドン優勝。国際現代音楽祭・ARS MUSICAにて武満徹"November Steps"のソリスト。その他、山本和智、Claude Ledoux、Dennis Levaillant、Rafael Nasiff各氏の新作尺八協奏曲を世界初演するなど、オーケストラと尺八による新たな音楽世界の開拓にも力を注ぐ。世界中での独演会や数多くの委嘱、ジャンルを横断する活動を通じて、尺八の今とこれからの無限の可能性を追求する。アンサンブル室町、邦楽四重奏団、1÷0メンバー。令和元年度文化庁文化交流使。

今井 貴子/ フルーティスト

母の手ほどきで3歳よりピアノを始め、10歳よりフルートを始める。東京音楽大学付属高等学校を経て、桐朋学園大学音楽学部管楽器専攻卒業。2005年より渡仏。パリエコールノルマルにて第六課程を修了し、2007年より国立オルネイ・スー・ボワ音楽院において世界的フルーティストのパトリック・ガロワの元で鍛錬を積む。2011年同音楽院最終課程を一等賞であるPrix d'Excellenceを得て卒業。2009年から2011年までディジョン国立地方音楽院の最終課程に在籍、同じく一等賞を得て卒業。また同時期にフランス国立音楽教育者養成学校PESM Bourgogneにて二年間の研修を経て、2011年音楽教育国家資格であるDiplome d'Etat d’Enseignement Artistiqueを取得。

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仮想レジアカ対談集

黒田鈴尊(尺八) ✖ 今井貴子(フルート)
北嶋愛季(チェロ)×橋本晋哉(チューバ)
③薬師寺典子(ソプラノ)×木村麻耶(箏)
大瀧拓哉(ピアノ)×山田岳(ギター)

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