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とっくりひとつ、おちょこがふたつ

談笑する声や小さめのテレビの音が聞こえてきて、夜中に目を覚ました。

妹の体を踏まないように気をつけて起きだす。

煌々とついている蛍光灯の明かりが眩しくて、目がくらんでヨロヨロする。

母が、起きちゃった?と聞く。うん。

父が、おいでと言う。うん。

こたつの父の横に座る。

こたつの上には、漬物、みかん、スルメ、熱燗のとっくりと、おちょこがふたつ。

みかんを食べようとして、母に歯磨きしたでしょ、と注意される。父が、いいよいいよ、今日だけ特別、と笑う。

テレビでは知らない人がニュースを読んでいる。私は読みかけの本を読み始める。

母が次の熱燗のとっくりを指先でつまむようにして持ってくる。父は嬉しそうに、熱すぎると美味くないんだよなぁ、と言う。

しばらくそうして過ごした後、母にそろそろ寝なさい、と言われる。はぁい。

気持ちが寒々しい時にふと、内ポケットのカイロのように思い出す風景。

母が亡くなってしばらく経ったある日、レンジでチンした熱燗を飲み始めた父が、「お母さんはお酒が強かったなぁ。1回も勝てなかった。」と呟く。

父の顔は、悲しそうで苦しそうで、嬉しそうで懐かしそうだった。

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