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トランプ政権スタート。米国金融機関は環境の取り組みから離脱する動き。日本はどうする?
世界が直面する2年後のリスクと10年後のリスクの違い
不透明な世の中、読者のみなさんも今後の生活のリスクを考えることが多くなったのではないでしょうか。あっという間に2月も中旬を過ぎました。そこでここで少し時間を取ってこのテーマから企業の経営を考えてみようと思います。
世界の900人の専門家にヒアリングした結果の資料が面白いです。世界のリスク5年後と10年後の比較をしています。
確かに、地球における生物の多様性に変化があれば、テクノロジーやイノベーションがあっても意味が無い。恐らく人類はPoint of no return (環境破壊において、後戻りできない地点)を過ぎたのだな、とこの図を見て実感しました。
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出所:statista
世界における日本のCO2排出量
環境負荷を減らすといっても、2023年時点で、日本のCO2排出量は世界全体の約3.15%で第5位 です(出所:World Bank Data)。中国やアメリカと比べて桁違いの低い水準です。日本は今も再生エネルギーの活用などの取り組みをしていますが、すでに低い水準をさらに減らすことで世界に与えるインパクトはいかほどのものなのか。昨年から考えていますが、そもそも前提の違う国連や他の機関が決めた目標に乗っかるのではなく、日本は独自の目標を設定してこれまで通り粛々とやっていくべきなのでは。
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出所:ELEMINIST
https://eleminist.com/article/2587
これに拍車をかけるのがトランプ政権2.0
トランプ政権を「理由」にして、ゴードマンもブラックロックも環境負荷抑制の取り組みから脱退しました。今後、米国の金融機関においてこの流れは顕著になりそうです。
ネットゼロの終焉の動き
購読しているノルウェーのメディアNordsip メルマガによると、2025年第一弾の内容は、NO NET ZERO NO MOREでした。(以下に抄訳)
Source: NordSip
NO NET ZERO NO MORE
This year’s first few weeks have been dark ones for Net Zero proponents around the world. First it was the Glasgow Financial Alliance for Net Zero who announced a turnaround in its goals and structure. Then BlackRock’s exit of the Net Zero Asset Manager Initiative led to the organisation’s decision to take a break. ‘It’s not you, it’s Trump’ they said. What about the Net Zero Asset Owner Alliance? They seem to be holding on to their guns for now.
Ironically, net zero abandonments are being announced as the news of global temperatures having exceeded a 1.5°C increase for the first time. Elsewhere, the Global Reporting Initiative is urging companies to keep up with the risks and opportunities brought about by the rapid spread of digitalisation. “While the growing use of digital technologies holds great promise, it also creates uncertainties around sustainability issues,” says Alper Cezmi Özdemir, co-author of the non-profit organisation’s report.
(ここから抄訳)
今年の最初の数週間は、世界中のネットゼロ支持者にとって暗いものとなっています。まず、グラスゴー金融同盟が目標と構造の転換を発表しました。次に、ブラックロックがネットゼロ資産運用イニシアチブからの撤退を発表し、組織は一時的な休止を決定し、「この動きはトランプ政権のせいだ」と言われています。ネットゼロ資産所有者の同盟の動きはどうでしょう?今のところ動きに変化は見られません。
UN-convened Net-Zero Asset Owner Alliance
皮肉なデータ
ネットゼロの放棄のニュースが発表される一方で、世界の気温が初めて1.5°Cを超えたというニュースが報じられたのは皮肉と言ってよいでしょう。GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)は、デジタル化の急速な普及によってもたらされるリスクと機会に対応するよう企業に促していますが、「デジタル技術の利用が増えることは大きな可能性を秘めていますが、同時に持続可能性に関する不確実性も生じます」と、非営利組織の報告書の共著者であるアルペル・セズミ・オズデミル氏は述べています
今後のグローバルの環境規制の動きは不透明
このように世界ではネットゼロ放棄が進んでいます。欧州では引き続き厳格な環境規制を守っていますが、これもいつまで続くのかは見えてきませんが、これまでと同じ熱量で環境規制が敷かれるかどうかは疑問です。日本はそこにベットしてしまっても良いのか、という疑問が沸きます。
日本文化の中にもともと宿るサステナブルスピリット
日本文化にはもともとサステナブルのスピリットが根付いています。最近知人2名がタクシーから降りるときにそれぞれ財布と最新のiPhoneを落としました。しかし2件とも近くの交番に無傷で届けられ、しかも届け主は名乗りもしなかったそうです。届け主は「貴重品を紛失すればその日から困るだろう。急いで交番に届けてあげよう。」と思ったに違いありません。これがサステナブルな社会でなくて、どんな社会がサステナブルなのでしょうか。海外ではまずありえない話です。
日本はなぜ、だれか他の人が決めた目標を必死に守ろうとするのか
米国も欧州もサステナブルに対して違うそれぞれスタンスをとっています。それぞれの国によって状況は全く違うのですから、もうそろそろ花火を打ち上げるような「ESG祭り」からは脱退する方が良いと思います。「ESG最高!」と謳っていた輩も最近では蜘蛛の子を散らしたようにいなくなる様相です。ただし、「ESGには証拠がない、インチキだ」と言って米国のように極端な正反対に逆走するのではなく、日本は日本らしく自分の国の在り方を考えながらESGを定義付けたら良いのだと思います。
立派な統合報告書を作って、暖房効率の悪い家に住む経営者
企業も同じです。経営陣はどんな企業、どんな社会を目指したいのか、しっかりとすべてのステークホルダーに伝えていく責任があります。そうでなければ独自路線を打ち出す意味がありません。それを考えることこそが、ESG経営なのではないでしょうか。どんなに立派な統合報告書を作っていても、暖房効率の悪い住宅に住んで環境に配慮しないのは、その企業の代表者として、ESG経営を実践していると言えるでしょうか。
世界の価値観との「差異」こそ、日本の持つポテンシャル
個人の集合体が企業や国を形成しています。ということは個人のサステナブルの意識やスピリットがその国やその企業の質を決めているのかもしれません。私は日本という国はその素地がすでに整っている国で、国民ひとりひとりの生活の一部になっています。世界の進む方向といつも違う道をたどる日本。30年経済成長しない、と揶揄されることもありますが、日本こそ、サステナブルな社会を次の段階に持っていけると思うのです。この世界の価値観と日本のそれとの差異こそに、日本ポテンシャルがあると思うのです。
(大石)