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【ご報告】「きほんのうつわ」を卒業します
みなさんこんにちは。今日はタイトル通りご報告となります。商品開発を中心に撮影PR業務などで携わってきた食器ブランド「きほんのうつわ」を年内で卒業することになりました。もしかしたら、私を通して「きほんのうつわ」を知ってくださった方、購入してご愛用してくださっている方も少なくないのではと思い、皆さんにきちんと伝えたいと思ってこのnoteを書きました。少しお話にお付き合いください。
灼熱の多治見からはじまった3年間
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2019年夏。当時『cocorone』(編集長とみこ/運営元(株)IDENTITY)といううつわ専門ウェブメディアからオリジナル食器をつくろうという企画が立ち上がってた時期でした。同時期に私は「いつかうつわの本を出版できたら良いなあ〜」なんて夢見ながら「はじめてのうつわえらび」というnoteシリーズを書いていた頃。それが目に止まり私に「一緒にうつわづくりしませんか?」とお声掛けいただいたのがはじまりでした。出版を目指していたはずが食器の制作に声がかかったわけです。人生って不思議なものですね。
当時、わたしは食器ってどうやって作るのか?技術的なものづくりの知識はゼロでした。あくまでスタイリストという「使う目線でのプロ」として「こんなアイテムがあったらいいんじゃないか?」と意見を出したり、一緒に良いうつわとは何かを考えるパートナー的立ち位置で携わることになったのですが、「そうはいってもせっかくやるなら!」と、図書館にこもって陶芸の本など大量に借りてこっそり受験勉強並みに調べてたのもいい思い出です。
今では土のこと、焼成のこと、釉薬のことなど作り手の方と(当時に比べれば)スムーズに話せるようになって成長したのかなあなんて感慨深いです。
その後この窯元さんなくして「きほんのうつわ」はありえない。チャレンジングで熱意あふれる『丸朝製陶所』の松原さんに出会い、製品開発が本格化します。
灼熱の多治見に訪問したのもいい思い出です(というか暑すぎて死ぬかと思った)。
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ものづくりのプロ「じゃない」からこそできたこと
手元にあったのは、松原さんに「漫画みたいな」と言われた手書きのラフ画と「こういう食器が作りたいんです〜!」という熱意のみ。窯元さんから実際に小皿とこなれ小鉢のサンプルが焼き上がってきた時はたまげました。イメージ通りのいいものができて…!多分一番たまげたのは、ラフ画を手にして実現へ向けて悩まれた松原さんご本人だと思いますが(笑)私はもちろん、チームのみんなも食器を作るのは初めてという中で手探り手探りでうつわづくりを進めていくこの頃のドタバタ感はすごかったと思います。今となっては恥ずかしいことも聞いたりしてた気がしますが(汗)よいものをつくろう、あたらしいことをしようというエネルギーに常にフェアに真摯に向かってくれた窯元さんには感謝です。
ほんと、何も知らないからこそ出来る初心者パワーはすごい。
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真面目な話をすると、ものづくりの知識はないものの「どんなうつわが使いやすいか」の知見については自信がありました。そのゴールに向かって一生懸命コミュニケーションを取って形にしていく努力をしていたと思います。知識がないのは誇れることではないけれど、業界に染まっていないからこそのアイデアや、初心者でわからないからこそプロの胸を思い切り借りて、面白いものができたような気がしましす。
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チームのみんなも私も、ものづくりも初めてならクラウドファンディングも初めて。2回のクラファンを通して小皿、こなれ小鉢、日々ボウル、大皿と基本の基本シリーズ4タイプが揃いました。クラファンは毎日お祭りのようで本当に大変でした。自分自身が様々なおねがいメールをもらう時に「明らかにコピペだな」とわかるとちょっと冷めちゃう経験をしていたが故に「絶対一人一人にまるで会ってお話しするかのようにクラファンに関するご連絡をしよう」と決意。一通一通その人の近況から興味関心に合わせてお手紙を書くように書いたのもパワーのいることでした。さらにスタートしてからも、#きほんのうつわ何盛る というハッシュタグ企画で料理写真をたくさん撮ったりもうめちゃくちゃ忙しかった。こういうことを地味〜に裏でがんばってましたね。
この頃の影のテーマとして「きほんのうつわシリーズだけを食卓に並べてもいい感じのテーブルコーデになる」を考えていました。これはテーブルコーディネーターとしての私の思いが反映されている、かなり変化球なものづくりだったと思います。
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その後2021年6月に本格的にECサイトがオープン。オンライショップの立ち上げもまたはじめてだったので直前まで「あ!ここの項目まだ決まってないじゃん!」が多発。本当にリリースできるのか!?というギリギリのギリで公開された記憶があります。もうここまでくるとメンバーもどんどん増えてECの構築や生産管理、経営企画など皆さんの目に見えづらい部分を担っている強い味方がチームで奮闘してくれていた記憶が強いです。どうしても表に出ている私やとみこさんが目立ってしまいがちですが、実際にはこうした目に見えない部分を支えているメンバーのおかげで「きほんのうつわ」は成り立っています。
ああ、ものをつくって売るって本当にやることが多くて大変だ。絶対マンパワーが必要だ。と切実に感じたのもこの頃。普段フリーランスで1人で仕事をしている身からするとチーム戦!って感じで如実に違いを感じました。
レストラン「o/sio」「Sta.」「HIOTOTEMA」といった素敵な空間で実際に食べて体感していただくイベントを行ったり、アパレルブランド「e/rm」さんとのコラボで別注カラーの商品を販売したり、展示会に出展して店頭に立ったり、こうした経験もまた初めてで私にとっては「きほんのうつわ」は初めて尽くしのことばかりでした。普通だったら経験できないことばかり関わらせていただいたなと思うと「きほんのうつわ」チームの皆さんに感謝しかありません。
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地域のこと、歴史のこと、深みのあるうつわの楽しみ方
私がその後もっとうつわづくりのディープな知識を学んだり、産地のことを知りたいと学びを深めていくようになったのも、「きほんのうつわ」との出会いが大きいと思います。
一見些細なことのようにも見えますが、例えば検品という作業。実は倉庫に行って検品もしたことがあるのですが、これまた初めての体験で「何がB品かを決めるのがめちゃくちゃ絶妙で難しい」「うつわのロスってこんなに出るんだ、、、」「いやでもNG基準を決めてるのは私たちなんだからその基準次第で捨てるを減らせるのでは…?」などモヤモヤ。これからの時代に、せっかく作ったいいものはなるべく捨てたくないという気持ちがグッと高まったのもこの時の経験あると思います。
結果、2022年夏には検品ではねたうつわたちの中でも明らかに使える、魅力あるものを集めて、味のある「一点もの」として販売という企画もできました。
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また、2022年に販売した「こなれ小鉢」の焼き締めという商品は、多治見の土の歴史、洋食器メーカーとしての歴史など地域のもつポテンシャルを詰め込んだ美しいうつわです。これは、丸朝製陶所の松原さんと何気なく、いやじっくりと?話している中から、多治見の歴史やうつわの未来、窯元さんがもってる技術力のことなど知る中で「だったらこういうの作りましょうよ!」とできたうつわです。この窯元さんと一緒に掘り下げながら作っていく感じは、とても本質的なコミュニケーションだったんじゃないかなあと思います。
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「きほんのうつわ」シリーズの中でも、使いやすさや盛り付けやすさと言った「実用性」と「デザイン性」の両立(それ自体が美濃焼のアイデンティティでもあるのですが)はもちろん、そこに地域の歴史も組み込んだうつわができました。自分にとってはこれが「きほんのうつわ」としてのピークというか、新しいものづくりをする上で、「使いやすさ」「美しさ」「それを作る理由(歴史背景意義)」が揃った良いものになったなと感じています。
もちろん課題は多々ありましたが、このアイテムが一つの大きな達成感や自分の関心事にフォーカスするきっかけにもなったかもしれません。
使ってくれる人がいるからこそ
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そんな中、どんどん増えていくファンの皆さんにももう感謝しかなく。誰にも頼んでないのに自ら「きほんのうつわ」の写真をSNSにアップしてくれる熱量高いファンの方も多く本当に購入者さんには支えられました。
購入者さんの「買ったよ〜」「使ったよ〜」「これいいね」「かわいい」「色がいい」「使いやすかった」「妹のプレゼントにも買った」「夫もヘビロテしてる」などたくさんの声を聞くたびに、作ったものが届いて喜ばれるってすごいことだなと。誰かのおうちの食器棚に「きほんのうつわ」が並んで、時に食卓に並んであたたかい食卓が囲まれている。情報を伝えるとか、写真を見てもらうとかそういったこととはちょっと違う。もっと違う手触りのあるリアルな感動というか。声を聞くたびものづくりってすごいなと胸にぐっとくる手応えをのを感じたものです。そして責任もとても感じました。
作る人を応援したい
こうしてブランドが少しずつ浸透していく立ち上げ時期に、自分が持てる知見やスキルを出し切って少しは貢献できたかなと思う一方、私自身がものづくりをどんどんしていきたい!新しいものを生み出したい!と心から思っているかというと果たしてどうだろうか…?と次第に思うようになりました。
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「きほんのうつわ」に携わり、同時に窯元さんや陶芸作家さんとも出会いが増えました。皆さん「作らずにはいられない/つくる責任がある」「作りたいものに溢れてる」熱量の高い方ばかりです。「きほんのうつわ」も良いものができた、と自信を持っていますが、世の中にはもっともっとたくさんの良い器が溢れています。一つのブランドに深く関わり大きくするのも素晴らしい体験だけれど、世にある数多のうつわをより輝かせるようなお手伝いをするほうが自分には合ってるのではと思うようになりました。
そもそも「よいものを集めて素敵なシーンを提案する」というのがスタイリストという私の本業です。ものづくりがゼロから有を生み出すのに対して、スタイリストは既にある良いものをもっと輝かせる仕事です。0→1ではなくあるものをよりよく伝える仕事なのです。
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「きほんのうつわ」でお役に立てることは十分やりきったと思いますし、ブランドはどんどん大きくなっていっています。私は卒業しますがこれからもきっと素敵なうつわを届けてくれるに違いないと思います。
そして、私は新しいうつわを作るよりもうつわの良さを理解し伝える帆走者でありたい。そう感じるようになったのが今回の経緯です。
「夢でも良いよ」というレベルであればやってみたいこと
「きほんのうつわ」を辞めてすぐこれやります!というのは特にないのですが、スタイリストの本業は続けつつこの3年で学んだことを生かして新しいことができたらいいなあとふんわり思ってます。
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窯元さんが持つ埋もれたデッドストックやB品をもっと輝く形で世に出せないか
新しい作家さんももっと応援したい
それらをポップアップストアという形で販売したり展示したりできたらいいな
生産背景や思いもきちんと取材して記事や書籍にできたらいいな
うつわ本いつか出したい(もうずっと言ってるけど)
うつわのキュレーター的な立ち位置ができるようになれたら
なんて考えています。夢レベルですが。夢ですが!もしどこかでお手伝いできることがあればお声掛けください。
また、本当に小さな取り組みですが私がライフワーク的にしている「スガノユキコのもっと知りたいうつわ旅」マガジンや、とみこさんと不定期更新しているポッドキャスト「うつわのハナシ」も、ある意味産地のことや作家さんなどに光を当てる活動の一つです。すっごく小さな活動ですが「作る人を応援したい」という思いは繋がっています。
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余談にはなりますが、三年というのは私にとっては長いお付き合いだったのですが、ブランドの顔になるような深く長い関わり方ではなく、もっとコンパクトなプロジェクトで単発でものづくりのお手伝いをするのであれば今後機会があればできるのかなという気もしています。これはひとえに私の仕事のスタイルの問題なのですが、ひとところに長くというより短いプロジェクトをトントンと区切ってしていく方が合ってるんです。会社員ではなくフリーランスをしているのもこの性質のせいですね。
Special Thanks
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2022年末をもって私自身は「きほんのうつわ」から卒業しますが、ブランドは今後も続いていきます。いやむしろもっと面白い、素敵な動きが待っているかも…!?今後は私も1ファンとして「きほんのうつわ」をそっと見守り新しい取り組みやプロダクトを楽しみに待っています。
これまで「きほんのうつわ」をご愛用していただいた皆さん、SNSでシェアしたりリアルでお声かけくださったりした皆さん、ありがとうございました!
(株)IDENTITYで「きほんのうつわ」チームとしてお世話になったみなさん、窯元の丸朝製陶所さん。ポップアップからコラボ商品開発まで長いご縁をいただいた(株)アダストリアの皆さん、初展示会でお世話になった「ててて商談会」の皆さん、イベントでお世話になった丸の内「o/sio」の皆さん、「Sta.」の奈雲さん、「HITOTEMA」谷尻直子さん。オンラインイベントでもレシピ企画でもお世話になったごはん同盟のお2人(しらいのりこさん/シライジュンイチさん)、レシピ企画でお世話になった料理家の皆さん。撮影でお世話になった、名和美咲さん、yansuKIMさん、fujikoさん、…ほかにも書ききれませんが、特に一番最初に銀座のカフェ『月のはなれ』でコーヒー飲みながら「うつわづくり一緒にやりませんか?」と声かけてくださったikariさん、とみこさん。本当にお世話になりました。本当にありがとうございました!
これからは1ファンとして「きほんのうつわ」のこれから楽しみにしています。
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