限りなく透明に近い
今回は隠れた名曲レビューを。というか、この曲と紐付けされた昔の記憶について、ただ書き留めておきたいだけかもしれない。
全世代問わずにオススメしたいかっこいいバンド、Age Factoryから「Mother」という曲をチョイス。この曲は1stアルバム「LOVE」に収録されている曲で、アコギのハモリを全面に出した長尺のバラードナンバー。彼等が奈良県を拠点に活動しているということもあってか、この曲を聴いた時、真っ先に奈良へ初めて行った時の事を思い出した。
小6の夏休み、子供向けの合宿イベントに参加する為、私は友人と2人で夜行バスに乗って岩手から奈良へ向かった。行くことになった経緯はよく思い出せないが、小学校高学年とはいえ、親も同伴せず2人で遠出するのは少し心細くもあった。でも、夜行バスのカーテンの隙間から見える知らない街の夜景に少し胸が高鳴ったことも覚えてる。
よくある夏の催しが詰め込まれたイベントで、パレードや花火、プール、ゲームコーナー、学習会などがスケジュールに組み込まれ、夏休みの5日間ほどを奈良で過ごした(小学生の頃は全力で楽しめていたが、社会人になった今はこんなにテンプレ的な夏を詰め込まれたら精神崩壊してしまう)。まあ、言わば少し金のかかったサマーキャンプのようなものだった。
何か特別珍しいことをした訳ではない。それでも友人と私だけで見知らぬ土地に来たという状況が子供ながらに新鮮で、冒険に来たような気分だった。夏のうだるような空気と街並み、勢いで初対面の子にあげてしまった遊戯王カード、大部屋で皆で観たターミネーター2、名前も知らないサービスエリアで買った炭酸ジュース、全部引っくるめて、あの時の記憶が今でも強く残り続けている。
たったひと夏の数日間だけであっても、引率してくれた世話役の人達や、現地で一緒になった同年代の子供達のことを今でも覚えてる。あの時仲良くしてくれた皆も年齢を重ね、今はもう大人になっているだろう。
一緒に行ってくれた友人とは今も交流があり、時々この奈良で過ごした夏のことを話しては懐かしんでいる。
Age Factoryボーカルギターの清水エイスケさんは奈良を拠点とすることに拘りを持ち、曲作りをする上でも、自身の中にある奈良の原風景を大切にしたいと語っていた。
それがこのMotherという曲にも強く感じられる。固有の地名や場所が登場するという訳ではない。タイトルの意味通り、歌詞は”母”もしくは同じように大切な存在を夏の記憶と共に歌っている内容であることから、その儚い思い出やその人に対する大きな愛の曲とも受け取れる。
それでいて、このバンドの楽曲はどこかの街の風景や人物、生活といった心象風景がはっきりと浮かび上がってくるのだ。
ドラムの増子さんのお婆ちゃんも大好きな曲なんだとか。世の中にある母の日ソング特集で歴代1位に踊り出てもいい名曲。激しい曲もあるけど、こういう綺麗な曲もAge Factoryの持ち味であり魅力の一つ。
この曲を初めて聴き、意図せず奈良で過ごした少年時代の記憶がフラッシュバックしたのは、それが自分の中に強く残っていた夏の原体験だったからなのかもしれない。
繰り返し使われる「限りなく透明に近い」というフレーズがまさに、悪意や穢れで濁ることなく透き通ったあの頃の記憶にリンクしたんだろう。
高校の修学旅行でも奈良には行ったはずだが、そちらはほとんど覚えていない。他者からの目を気にしたり、人の顔色を伺うことを覚え始めた高校時代がまあまあしんどくて記憶から消した説が濃厚。
ふと考えるが、良い曲から特別な曲に変わる瞬間というのは、いつも自身の強い記憶や感情と結び付いた時なんじゃないかと思う。そんな経験と音楽がリンクすることで、曲への思い入れがより一層強まり特別になる。それはもうヴェルタースオリジナルと同じくらい特別に。
2018年にAge FactoryのGOLDツアーのファイナルを見に東京へ行った。この頃のAge Factoryのライブは、自分達が天下を取ることを信じて疑わない強さを全面に押し出し、誰よりもギラついていた。全てに抗い、牙を剥く獣のような目でフロアを睨み付け歌うエイスケさんの姿は最高に痺れた。
そして、この時初めてMotherをライブで聴けた。激しい曲を歌う姿とは対照的に、ハスキーな声で優しくそっと撫でるように歌い上げ、バンドの持つ強さと優しさの二面性を余すことなく発揮していた。
自分にとって特別な曲がライブで鳴らされたあの瞬間の高揚は何にも代え難く、全て報われたような感覚にさえなった。
いつか奈良でAge Factoryを見たい。叶うなら彼等のホームである奈良NEVERLANDで。きっと最高な空間に違いないし、またあの奈良の空気感に触れながら街を歩いてみたい。
それでは、おやすみなさい。