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静かなる虫達の遭遇


今回はまたしてもバンド語り。

自身の音楽ルーツを語る上で外せない存在、COCK ROACHについて書きたい。余談だがこのnoteのクリエイター名「深夜のコネチカール」も彼等の楽曲からとったもの。まぁそれぐらいの影響力ってことで。

1、邂逅

 まず、どのように辿り着いたかだが、私の一番の影響元であるTHE BACK HORNを深追いしている最中で出会った。恐らく同じようなルートで彼等を知った人は多いだろうし、コックローチを知ってる人の大半はバックホーンも知っている印象。
 そのため、似たような音楽性であることや同じバンドシーンを駆け抜ける存在としてCOCK ROACHにぶつかることは必然だったのかもしれない。

 ただ、バックホーンに近いフィールドで活動するバンド達とは明らかに一線を画す音楽性をしており、存在感が抜きん出ていた。鬱ロックだなんて括りでは生温い”死“そのものを表現した闇深い雰囲気があり、見てはいけない聞いてはいけない呪物のようにも思えた。
 動画サイトで何曲か試聴し、良いと思う曲も幾つかあったが、大半は何かの宗教を思わせる精神世界の暗黒ソングとしか思えず、圧倒的に拒絶の方が大きかった。そもそも蜚蠊をバンド名にするってどういうことや…。
 この時の私はコックローチの音楽を理解出来なかったし、余りにとっつき辛くてわざわざ聴くこともないだろうと思っていた。

2、激震

 当時はサブスクも隆盛しておらず、中古ショップでのCD漁りが日課になっていた大学生のある日、TSUTAYAの500円特価コーナーにそれはあった。忘れる事もできないほどにカサカサと蠢くあの虫のように漆黒のイメージを自身に与えたコックローチのCDがそこにあったのだ。
「え…これって確かバックホーンと昔何度も対バンしてたとかいうあの暗黒宗教蜚蠊バンドよな…。こんな呪物を売り飛ばした奴がこの街に…。」
 など、とても失礼な認知の仕方をしていたが、1stアルバム「虫の夢死と無死の虫」のジャケはとてもカオスで、祀られる仏なのか古い寺に棲み付く化物なのかよく分からないモノがドンと中央に描かれ、その横に人面樹のようなものも描かれており、ゾッとしつつも何故か惹かれるものがあった。そして呪われてしまいそうな恐怖よりもじっくり聴いてみたい好奇心が勝り、500円で初めてコックローチの音源を入手した。

COCK ROACH 1stアルバム
虫の夢死と無死の虫

 ウォークマンに突っ込みいざ聴いてみると、いつしか拒絶したはずの音が、独特ながらも強烈な異彩を放っており、徐々に引き込まれていった。
 童謡、わらべうた、読経のような要素がバンドサウンドに落とし込まれていて、禍々しくも独自の音楽性を築き上げている。特にも歌詞は10代〜20代の若者から出てくるとは思えない人間の醜さ美しさを秀逸に言葉で表すもので、時折タブー領域に踏み込む内容のものまであった。
 決して万人受けはしない世界観だが、同時に他に取って代わる存在も日本の音楽シーンには居ないと思った。特にこの1stアルバムでは「触角」「赤道歩行」が好きで何度も繰り返し聴いた。特に赤道歩行のこのフレーズ、

二度と戻らない僕と また来る春がすれ違う

赤道歩行/COCK ROACH

余りにも切なく美しくて卒倒した。人間が死に向かう一方で、幾度となくやって来る春がすれ違うってよぉ…やべぇって…。

3、畏敬

 このアルバム以外の曲も試聴し、3rdアルバムとデモ音源集は即購入(2ndの赤き生命欲だけはプレ値が付いてしまい社会人になってから金にモノを言わせ購入した)。Amazonレビューなどもくまなくチェックしたり、なんならバックホーンと平行してすっかりドハマりしていた。
 調べていくと既にこのバンドは解散しており、無限マイナスという別名義で2人のメンバーが細々と活動しているようだった。ということはライブを見ることはおろか新曲がリリースされることもないのかぁ〜と少し寂しくもあった。
 ボーカルである遠藤仁平さんのインタビューやコラムを読むと、曲を聴けばそれは火を見るより明らかだが、音楽をビジネスワークとせず純粋に芸術として表現し切ろうとする人であることが伝わる。生と死の世界と向き合い、滅亡、悲しみ、恐怖などの感情を深淵から一つ一つ紡いでいく詞はおそらくこの人でなければ生み出せないものだろう。
 解散したこともあってか、私の中ではすっかり神格化された存在となり、大好きなバックホーンがかつてこんなにも唯一無二の世界観を持つバンドと親交が深かったことが何より嬉しかった。

4、胎動

 解散後、虫達は土の中で暗く長い眠りに就いていたが、止まっていた時は動き出した。

 なんと4thアルバム「Mother」の発売が決まったのだ。こんな嬉しいことはない。コックローチの新曲が聴けるだと?実際に黒虫芸術から予約したフィジカルが送られてきた時は感動で言葉を失い、正座しながら一晩中ゆっくり聴き込んだ。

 さらにその数年後、ライブ活動再開のアナウンス。ツアーなど複数公演を短いスパンでこなすものではないにしろ、所縁のある場所やバンドと復活ライブを十数年振りに行うといったものだった。
 本当に生きていて良かった。ここで詳細は書かないが、運良くこの復活後のライブを3回ほど観ることができ、ついに伝説的な存在を目の当たりにすることが叶ったのだ。

5、渇望

 私は愛や希望の歌が非常に苦手であり、どちらかというと人間的な暗さや切なさの部分にユーモアやアートを感じる側の人間なので、「生と死」にフォーカスしたヘヴィなテーマの音楽は比較的耳馴染みが良く受け入れやすい。そんな自分ですら一度は拒んでしまった強烈な闇が、今こうして大きな影響をもたらし縋り付く存在になろうとは正直思ってもみなかった。
 行き過ぎた狂気やおどろおどろしさですら、彼等にかかれば最終的にはドラマチックな美しさに帰結する。悍ましいあの虫から取ったであろうバンド名のとおり、それはしぶといぐらいの生命力の象徴であり、音を通じて我々に生き延びる希望を与えてくれるのだ。

 これが命を唄う虫達との遭遇の全て。ライブでも、新しい音源でも、どんな形であれ、またいつかお目にかかれるその日まで。

 おやすみなさい。

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