おとぎ話

超古典的な昔々の、これまた超古典的なある所。

とても綺麗で優しく、少しお転婆なお姫様がおりました。お姫様は、臣に愛され、民に愛され、その国はとても理想的で平和な国でした。

しかし、ある日その国は魔女の仕業により、とても大変な苦難に見舞われました。

苦しむ民の為に、お姫様は自ら立ち上がり、軍隊と共に城を飛び出し、大冒険の果てに魔女を倒し、国に再び平穏をもたらしました。

また、その大冒険の最中に素敵な男性に出会い、協力して魔女を倒したことから、城に戻った後は、その男性を一生の伴侶とすることにしたお姫様。皆心より祝福し、盛大な祝賀パレードが行われました。侍女たちは舞い、民は歌い、兵隊たちは捧げ銃と共に隊列を組み、皆、一様に同じ気持ちで幸せな空気に包まれました。めでたし、めでたし。

ただ、一人の兵士だけは違っていました。

ユーリはみんなと合わせて、規則正しい隊列を組み、パレードを盛り上げていましたが、心は全く浮かない状態でした。

兵士たちの中で一番年の近かったユーリは、お姫様の話し相手の兼任として近衛兵に配属されました。

まだ日も浅いところへ、こんなに光栄極まりない職務を与えられ、緊張していたユーリに、お姫様の方が優しく接してくれました。

ユーリは心からお姫様を敬愛していました。

お姫様の為なら、もちろん矢にも楯にもなる覚悟でしたし、「話し相手」という職務をちゃんと全うできるように勉強にも勤しみ、お姫様が刹那でも退屈しないように、日々努力を続けました。

お姫様は、ユーリが街で見聞してきたことを話すと、時には真剣に聞き入り、時に無邪気に笑っていました。ユーリがまだ知らない事があったりすると、今度はお姫様が優しく教えてあげました。また、お姫様の中で何か悩み事ができると、お姫様はすぐにユーリを呼び、ユーリは時間が許す限り、お姫様の傍で耳を傾けてやりました。そして、お姫様の気持ちが落ち着くようにと、最後にはいつもユーリが冗談を話してあげていました。

ユーリはお姫様のそういう楽しそうな顔や、深く何かを思案する顔など日々の表情を見ていることが幸せでした。

もしかしたら、お姫様よりもユーリの方が、日々を充実させてもらっていたのかもしれません。

そして、いつのまにかユーリの中にあった忠誠心は、別の物に変化していました。

そして件の日。

あくまでも一兵士であるユーリは、お姫様を案じながらも、王の指揮の下、隊の一員として魔女の打倒に従軍していました。

結果、魔女は倒され、お姫様も無事であるという知らせに安堵したユーリの前に姿を現したのは、知らない若者と共に帰還するお姫様でした。

その光景を目の当たりにして、ユーリは初めての感覚に襲われました。

敗北感のような悔しさ、一気に体から大きな何かが引き抜かれたような脱力感、悲しみとも怒りともとれる感覚でした。

次の日からまた通常の日々が始まり、ユーリはいつものようにお姫様の下へ向かいました。

「どうしたの?」

お姫様にそう声をかけられ、ユーリは初めて自分が浮かない顔をしていたのだと知りました。しかし、お姫様のその一言で、自分の気持ちが楽になり明るくなるのも感じました。

自分を奮起させたユーリは、気を取り直して職務に臨みました。

朝食後の散歩に向かわれるお姫様。

お姫様とユーリ、そして先の若者が一緒にいました。

ユーリはその若者と会うのは初めてでしたが、若者はとても気さくで、心優しい好青年でした。

仲良く話しながら歩く二人を少し後ろからついて歩きながらユーリは初めて、自分とお姫様との住む世界が違うということを認識しました。そして、無意識のうちに、自分がその垣根を無謀にも踏み越えようとしていたことに気づきました。

自分がお姫様の近衛兵になった時から、お姫様の隣で永遠に微笑む存在にはなれないことは決まっていた。

この青年と自分の運命の交差はニアミスなどではない。

お姫様が自分を選ぶ可能性は万に一つもなかったのだ。

今まで自分が大好きだったお姫様の笑顔が、どうしてなのか直視できなくなってしまいました。

自分だけが知っていた様々なお姫様の表情は、きっと程なくしてこの青年に向けられる。そして、自分の知らないもっと多くの表情を知っていくことになる。

その事実に気づいた途端に、ショックを受けている自分に、ユーリは恥ずかしさを感じました。

自分は失格だと悟りました。

しかし、ユーリはさらに思いました。

最後に一つだけ、自分にしか見れない表情がある。

数時間後、お姫様の正式な婚約発表の時。

主賓、来賓すべてがそろった時でした。ユーリはお姫様の前に進み出て、自分の気持ちを包み隠さず伝えました。

会場内は騒然としました。

お姫様は、驚き、動揺、様々な感情が入り乱れている表情、しかし、そこに嫌悪だけはありませんでした。そして、数秒後、お姫様の表情に少しいたわるような表情が見えた気がした、次の瞬間でした、ユーリは近衛兵達に羽交い絞めにされ、会場から連れ出されました。

そして、ユーリは監禁され、一つだけある鉄格子のついた窓から見える空を見て、心を落ち着かせていきました。

                                    (終)

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