夢
妻と息子に,夢で会ったことはほとんどない.
お義母さんには時々会いに来てくれるそうだ.ママ友を家につれてきて楽しく話したと.
写真を見てから眠ってもやはり僕のところには来てくれない.
夢といったら,あまり良いものはみない.
少し体調が悪く早く眠った日.
長い,長い手術をしていた.君たちに会えることなどなく,ひたすら誰かの中を見て手を動かしていた.
仄かな気配で目が覚めた時には,まだ空は暗かった.妻の寝顔を見ながら息子にミルクをあげた,あの日々を思い出した.
遠方での当直へ向かう途中.
うたた寝してみた短い夢では,僕は一人,大きな木の下にいた.白く冷たい顔に触れた, あの日のように曇った夜だった.
蒸し暑い夜.
妙にリアルな,葬儀場の夢だった.見覚えのある子供のサイズの棺に,美しい女性が入っていた.
美しいが,妻ではなかった.棺は息子のものだろうか.
当直続きで久しぶりに家のベッドで眠った日.
よく覚えていないが長い,長い夢をみた.何故今,というような長く会っていない人が現れたりするのに,僕の家族はやはりいない.
いつか妻も,怖い夢を見たといって震えていた.
忘れたと言っていたあの日の夢はどんなものだったのだろう.
僕と息子が眠っているのを見守ってくれたりしたのだろうか.
僕が夢に見たのは二度だけだ.
一度めは妻が亡くなって間もない頃だった.
ちょうど息子が生きていれば離乳食の時期だ.妻と二人で息子に食べさせて,息子は不思議そうな顔をしていた.夢の中の僕はまるでそれが日常のように思っていた.
二度めはつい先日だ.
出会った頃のような長い髪の妻と二人で,小さな平屋に暮らしていた.
なぜだかあまり楽しい夢ではなかった.曖昧だが,その夢も別れで終わったようにも思う.
次はいつだろう.もう会えないのかもしれない.
夜を過ごしやすくなった.気温や湿度や,いろいろと.
僕たちが過ごした町の夜景を見ながら,耳を澄ます.
僕と出会う前や,僕と出会わなかった妻が,どこかで寂しそうに泣いていたら,また見つけないといけない.
今でも気がつくとベッドの右半分に寝ている.よく眠れた日はとくに.