フクロウのスクリプト
「自由ってなんだろう」
わたしはそんなことを考えながら、夕日に赤く染まった景色の中、車を走らせています。
走行音を聞きながら、座面に伝わる振動も感じてみる。
少し人通りが多い道をゆっくりと通り抜け、
少し窓を開けて、外の空気を胸いっぱいに吸いこみます。
肺に優しく空気が入る感触を感じることができ、それをすこし勢いよく吐き出す。
ああ、これが自由かもしれない。
空気は当たり前のようにわたしの周りにあって、わたしはそれを自由に吸うことができる。
そんなことを感じるのですが、次の瞬間には
明日からの予定とか、少し気乗りのしない約束とか、そんなことが思い出され「自由じゃないじゃん!」って呟きながらも、なんだかおかしくなって笑えてきます。
だんだん暗くなる景色を眺めつつ、急に歌が歌いたくなる。
窓は開けたまま、歌い始めた自分の声を聴きながら、夜の匂いのする風を頬に感じます。
あたりがすっかり暗くなるころ、草むらの陰や木々の間に住む、野生の生き物たちの気配を感じる。
彼らが立てるかすかな物音や、ひそやかな息づかい、周囲を警戒してせわしなく動かす触覚。
まるで自分がその生き物になったように、ありありと感じられます。
小さな足が地面のやわらかな暖かさをとらえ、目の前に生い茂る草むらをかきわけ進んでいく。
一度、道路に飛び出したとき危うく車に轢かれそうになったことがあった。
うまくよけられて、たどり着いた場所。
その小さな生き物はただ、さっきまでいた場所から新しい場所へ移動し、その新しい場所をただ探索するように動きまわる。
ふっと頭上を見上げたとき、雲の合間から月が顔を出して自分を照らしているのが見える。
ふと、視点が変わる。
空からさきほどまでわたしだったカヤネズミを見下ろすけど、
彼は捕食者の視線を関知したようにさっと物陰に隠れてしまった。
大きな翼を持つ美しい鳥になったわたしは、さっきとは全然違う景色を見ることができる。
風を切る翼、月に近づいた優越感を感じたのか、そうでないのか。
地を這いまわり、恐ろしいものからただ逃げ回るさっきの小さなカヤネズミよりも、その鳥は自分が優れているのだと、本当に感じていたのでしょうか?
飛ぶために必要なエネルギーはかなり膨大なようで、街灯に集まる虫を探しにいきます。
先ほどの丸々としたカヤネズミを逃した悔しさを、この美しい鳥は感じているのだろうか?
彼は淡々と自分の最善と最高をわかっているかのように、街灯に集まる虫たちを補食すると、また夜の森に旅立ちます。
あ、おなかすいた。
気がつくと家にいて、ソファーでうたたねをしていたようです。
すごく疲れてるし、もう超めんどくさいって感じるけど、自分のためだけに自分のご飯を作ろう。ってわたしは台所に立つのでした。
窓の外から聞こえる、涼しげな虫の声。
ふんわりとやわらかい歓びがなぜだか溢れてきて、わたしはまた小さく歌を口ずさむのでした。