はじまりのスクリプト
その女の子は、ひとりで遊ぶのが好きでした。
おともだちと一緒に、レンゲ畑を駆け回ったり、山積みにされた土の山で、ヒーローごっこみたいなことをするのも楽しかったけれど、なんだか少し違う、って感じていた。
玄関先でしゃがんで、忙しく蠢くアリたちを見ています。
ほんのかすかですが、彼らが動きまわり、土を掘り、獲物を運ぶ音が聞こえる。
自分を照らす太陽の熱を身体に感じながら、わたしは今どうしてここにいるんだろう。
そんなふうに、眩しい光の中で。
頭がぼうっとして不思議な気持ちを感じています。
そう。わたしは一体なんなのだろう。
小さな女の子は、なんでそんなことを考えてしまうのだろう?
おともだちもみんな楽しそうに笑いながら、本当はわたしと同じような気持ちを感じているのだろうか。と思います。
玄関のドアを開けて家に入ると、小さなオルガンが見える。
鍵盤を弾いて音を確かめます。
ひんやりとした椅子の感触を感じながら、自分が出そうと思っている音を出すのは難しいなあ。ましてやそれで曲を弾くなんてことができる子とわたしは、まるきり違うんだな。
なんだか少しがっかりしたような気持ちで、いつも遊んでいる部屋に移動します。
お気に入りの遊び、ギザギザの歯車にペンを差し込み、その歯車にぴったりのギザギザのついた円の中をただグルグル動かしていると、そこに不思議な模様が浮かんでくる。
歯車の大きさや、ペンの色を変えると、まったく違う模様ができる。それがすごくおもしろくて、夢中で不思議な模様を描き続けます。
気を抜くと、歯車がズレて、うまく模様ができなかったり、ペンの力が強すぎて紙に穴が空いたりするのですが、そんなことも、何も気にすることなく、次はどんなに素敵な模様をどんな色のペンで描こう、と静かにワクワクしている。
太陽がなんの区別もなく、すべてを照らすように、その小さな女の子は
小さな紙の上の世界で、とても大切なものを作り出し続けるのでした。