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【グラジオラスの花束 〜無念〜「松田里奈編」】1話


「ずっと思ってたんだけど、歌声は良いんだけどメロディーがちょっとイマイチかなぁ...心に残らないって言うか.....」
「え...でも5月までって話じゃ.....」
「だって客も全然取れてないじゃん...それにどんどん次の子入れたいし」
「そう...です...か.....」
「.....最後にアドバイスだけど、誰かと一緒にするのも1つの選択肢だからね」
「はぁ.....」
「.....さっきは酷いこと言ったけど、芸能界目指すならもっと厳しいから」
「はい.....ありがとうございました」
「これでも応援はしてるから頑張ってほしい」
「ありがとうございます.....また機会があれば」

解ってた。
最初こそお客さんが居たものの、最近では客足も減り10人集まったら良い方だった。
来てくださるお客さんも歌が好きっていうより、私の顔が好きだってことも解ってる。

落ち着かせるために水を1口飲む。

「このお水...ちょっとしょっぱいなぁ.....」

ピロンッ
[里奈さん!お久しぶりです!]

軽音部の後輩だ.....。
通知音が響く空間が、未だに夢を諦められてない私を笑ってるかのように思えた。

[シンガーの活動、順調ですか?]
[最近忙しくて何も活動できてないや💦]
[そうですか.....実は最近面白いやつが居て]
[面白い?]
[そいつ曲しか作れないんすけどでもそれが凄くいい感じで、里奈さん昔曲作るの苦手だって言ってたから良かったら一度見に来ませんか?]
[そっか.....ありがとね。でももう大丈夫!ちょうど今日辞めようと思ってたんだぁ🥺]
[じゃあなおさら今度の文化祭来てくださいよ!]

全部嘘だ。
今日だって頑張った。頑張ってた。
自分の中では毎回全力で頑張ってるけどそれでも通用しないならもうそれって自分に才能がないってことで.....。

「痛っ!!」

スタジオを出る時間になって急いでいるとぶつかってしまう。

「え!?あ、ごめんなさい!」
「こちらこそ!すみません、怪我ないですか?」
「私は大丈夫です」
「すみません、僕の不注意で.....」
「いやいや!私もぼーっとしてたので!」
「それ.....ギターですか?」
「あ、はい!一応ここでライブしてました.....もう無くなっちゃったんですけど.....」
「そ...そうですか.....」
「あ!ごめんなさい!暗くしちゃって!」
「いや、全然」
「じゃあ私はこれで」
「あ、あの!.....頑張ってください!」
「.....うん、ありがとう!」

高校生か.....。







.....どうせ最後なら文化祭行ってみるか。

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