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【グラジオラスの花束〜心の影絵〜「山下瞳月」】18話


ひか「演技に大事なのは、まず役の理解からね」
瞳月「はい」

あの日から森田さんは演技の基礎から表現の重要さ、芸能界のマナーまで教えてくださっている。

ひか「それができてないと自分の中に落とし込んで表現ができないから、めちゃくちゃ台本を読み込んだり、原作があるならちゃんと隅々まで読むこと」
瞳月「はい!」
ひか「過去に私が演じたドラマの台本持ってきたから、今日は役の理解の話ね?」
瞳月「え!!これ本物ですか!?」
ひか「うん笑」

沢山の付箋と、表紙の真ん中辺りにあるシワ.....。
きっと想像もできないくらい、何回も読み直したことが分かる台本が50冊...いやもっとあった。

瞳月「すっご.....」
ひか「自由に見ていいよ」
瞳月「え!?さ、触らせて頂いてもよろしいのでしょうか.....?」
ひか「あははは笑笑」

笑ってる、可愛い。

ひか「瞳月ちゃんってほんと面白いよね笑笑」
瞳月「なんで.....笑」
ひか「あーもう、ほんと最高。笑」

なんか分からないけど嬉しい。

瞳月「あ!これ!!!」
ひか「あ、懐かしい.....」

森田さんの1番最初の主演作『Nobody's fault』

ひか「これね〜...大変だったぁ.....」
瞳月「そうだったんですね.....」
ひか「このドラマ観たことある?」
瞳月「もちろんです!初回放送からリアタイしてました!」
ひか「ちゃんとファンじゃん笑笑」
瞳月「ちゃんとファンですから!笑」
ひか「嬉しい笑  ありがと笑」
瞳月「いやいや、むしろご馳走様です」
ひか「食べないでよ笑笑」
瞳月「え.....?笑」
ひか「ほんと.....笑  じゃあこれからやろっか笑」
瞳月「お願いします!!」

森田さん主演ドラマ『Nobody's fault』。
森田さん演じる弱小吹奏楽のエーストランペッターユリナは、惰性で演奏していてもエースになれてしまうため、いつしか本気を出すことはなくなった。
そこに転校生がやってきて、いきなりユリナの役割を奪うところから始まる。
初めての主演ドラマにしては少しダークな内容もあって話題になっていた。

ひか「まずこの私が演じた、ユリナってキャラクターについてなんだけど」
瞳月「はい」
ひか「1話の台本を読んで、どういう性格だと思った?」
瞳月「.....面倒くさがり?」
ひか「そうだね。節々で『めんどくさい』って言ってるし、態度とかもそれ故だと思う」
瞳月「はい」
ひか「じゃあなにを面倒くさがってると思う?」
瞳月「なにを.....」
ひか「面倒くさいって感情って無からは産まれないでしょ?」

だとしたら.....

瞳月「.....何かに対して面倒臭いと思ってる?」
ひか「そう、私はまずそこを考えた」

森田さんはホワイトボードに何かを書き始める。

ひか「部活に行くのが面倒臭いのか...頑張るのが面倒臭いのか...他の人たちの相手をすることが面倒臭いのか」
瞳月「ん〜.....」
ひか「どれだと思う?」
瞳月「頑張るのが面倒臭い?」
ひか「残念」
瞳月「え?」
ひか「正解は全部だよ」
瞳月「え.....」
ひか「頑張っても意味が無いことに気がついたユリナは練習をしなくなる。そうすると当然周りの人との確執も出来るわけで」
瞳月「.....はい」
ひか「ってなると瞳月ちゃんならどうする?」
瞳月「部活に行かなくなる.....?」
ひか「だよね、行きたくないよね」
瞳月「あ!そういうことか!」
ひか「そう!どうしてそのキャラクターがこういう行動をしたのか1つずつ理解していくと、そのキャラクターの人物像が見えてくる」

ダンスの世界でもテーマがあるタイプのコンクールでは、その理解が大切だと教えられた。

ひか「瞳月ちゃんはあのドラマ面白かった?」
瞳月「はい!面白かったです!」
ひか「そっか.....」

なぜか森田さんは悲しいような表情をする。

瞳月「どうしたんですか?」
ひか「ある人にね、言われたの」
瞳月「.....なんて?」
ひか「キャラクター理解が足りてないって」
瞳月「え!?でも今.....」
ひか「そう、さっきのはその人に教えてもらった」
瞳月「誰ですか.....?」

その人を頭に思い浮かべたのか、森田さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。



ひか「.....永田蒼空くんだよ」



どうしてあの時、あんな表情をしたのかは分からない。

それにそんな考え事はその後すぐに消えた。

鈴木「お疲れ様、瞳月」
瞳月「お疲れ様です」

レッスンを終え、帰ろうとしてると鈴木さんに呼び止められる。

いつも気丈にしてる鈴木さんが少し焦っているように見えた。

鈴木「ごめん、急なんだけど今日の夜空いてるかしら」
瞳月「え?大丈夫ですけど、何かあるんですか?」
鈴木「この後、舞台のキャストお披露目会見があるんだけど」
瞳月「はい」
鈴木「上が急遽サプライズで瞳月を出せって」
瞳月「え!!?」
鈴木「さっき他の事務所で緊急結婚報道があって、今のままじゃ話題を盗られると判断したんでしょう」
瞳月「え...こんな急に決まるものなんですか?」
鈴木「無いわよ、だから私も焦ってるの」
瞳月「え、でも.....」
鈴木「とりあえずメイクは居るし、衣装は愛季が着なかったものを使えばいいし、なんとかなるわ」
瞳月「.....分かりました」
鈴木「一先ず、急ぐわよ」

連れて行かれたのはホテル上階の方。
楽屋は愛季ちゃんと一緒らしい。

愛季「あ!瞳月ちゃん!」
瞳月「愛季ちゃん!」

うわぁ...愛季ちゃんを見たら、さっきまでの緊張が少しずつ溶けていく.....。

愛季「聞いたよ?サプライズなんだって?」
瞳月「うん...え、やばい吐きそう.....」
愛季「笑笑  頑張れ!笑」
瞳月「どれくらいの規模感?」
愛季「普通くらいかな?」
瞳月「え、それは愛季ちゃん的に普通?それとも一般的な普通?」
愛季「私も一般的だよ笑」
瞳月「そっか.....」
鈴木「着替える前に共演者の人に改めて挨拶行くわよ」
瞳月「は、はい.....」

まずは脚本・演出の立花兼醒さん。
映画の時から担当されてて、私も何度かダンス大会の演出で見かけたことがある。

鈴木「失礼します」
愛季「失礼します!」
瞳月「失礼します.....!」
兼醒「おぉ!」

スマホを置いてこちらを向いてくださる。

瞳月「初めまして、山下瞳月です!」
兼醒「初めまして!立花兼醒です」
鈴木「すみません、急遽瞳月も制作発表出ることになったのでご挨拶へと思って」
兼醒「あぁ!そういうね!」
瞳月「演技初挑戦なので緊張してますが、よろしくお願いします」
兼醒「存じております!笑  何せあのHIROTAKAからの推薦だからびっくりしたよ」
瞳月「はい.....」
兼醒「HIROTAKAはね、滅多に推薦とかしないんだよ」
瞳月「そうなんですか?」
愛季「そうだよ〜、私もされたことない」

そうなんだ.....。

兼醒「今日は僕の横だからよろしくね!」
瞳月「はい!」

そのまま他のキャストの方への挨拶をしていたら時間はあっという間に過ぎて、急ぎでメイクと衣装合わせをして舞台袖へ。

緊張で今にも内蔵全部ぶちまけそうな私に比べて、愛季ちゃんは全然緊張してるように見えなかった。

瞳月「愛季ちゃんって緊張とかしないの?」
愛季「うん、あんまりしないかな〜」
瞳月「やっぱり慣れてるんだ.....」
愛季「ううん、たぶん元々あんまりしないタイプなだけだと思う」
瞳月「凄いや...私なんかほら見て」
愛季「ん?」
瞳月「手...震えてる.....笑」
愛季「手、貸して?」
瞳月「え!いや!手汗かいてるから!」
愛季「気にしないよ笑」

そういうと無理やり私の手を取って、指で何かを描く。

瞳月「.....なに?お花?」
愛季「うん、アマリリスだよ」
瞳月「アマリリス?」
愛季「アマリリスの花言葉は『おしゃべり』。意気込みとか聞かれると思うから頑張って話すんだよ」
瞳月「え!?聞いてない.....」
兼醒「新人の子は準備された言葉よりも、その場の気持ちで答えた方がいいからね」

そこへ次々に共演者さんたちが集まる。

私は会場内が既に記者の方たちで埋まっているのを、舞台袖から見ていた。

愛季「瞳月ちゃん、何かあってもちゃんとフォローするから大丈夫だからね!」
瞳月「う、うん!」
兼醒「よし!頑張ろう!」

司会「それではお待たせいたしました。只今より舞台『夏の近道』キャストの皆様にご登場いただきます!大きな拍手でお迎えください!」

舞台に出てスポットライトを浴びる。
ダンスの時とはまた違うスポットライト。

それとは別にカメラのフラッシュがひたすら光る。

司会「よろしくお願いいたしします!」

そして予定に無かった私の登壇のせいか、会場は少しザワザワしていた。

記者の方たちだけではなく一般のお客さんまで居て、愛季ちゃんのうちわを見つけて微笑ましかった。

司会「それでは出演者の皆様、どうぞお座り下さい」

座る...座るってなんだっけ.....?

隣に居る兼醒さんが笑って教えてくれる。

兼醒「もうちょっとリラックス笑」
瞳月「は、はい.....笑」
司会「さぁ皆様気になる方がお1人いらっしゃいますが、まずは順番にご挨拶をお願いいたします!」

絶っっっ対...私だぁ.....。

愛季「はい!主演のアイリを演じさせて頂きます谷口愛季です!映画から引き続き役を頂けて光栄です!本日はよろしくお願いします!」

そこから順番に挨拶をしていき、兼醒さんの番。

兼醒「演出家の立花兼醒です!えー...そうですね、どうやったって僕より気になる子が隣に居るので」
瞳月「え!?」
兼醒「先に挨拶してもらいましょうか」
瞳月「あ...え.....」

愛季ちゃんと目が合うとにこっと笑ってくれる。

瞳月「みなさん初めまして...今回、追加キャストのシヅキ役を演じさせていただきます、山下瞳月です!」

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