【グラジオラスの花束 〜無念〜「松田里奈」】9話
『こんな感じでどうですか?』
「めっちゃいい感じです!!」
久しぶりに衣装を着て、初めてプロのメイクさんにヘアメイクまでしてもらった。
「いいじゃん可愛いじゃん」
「湊音!」
ドアの方を見ると、これまたイケてる湊音が居た。
「湊音こそめちゃくちゃイケてるぅ〜」
「ま、一応イケメンやらせてもらってるんで✨️」
「はい、減点」
「なおそれでも余りある模様」
湊音の手には何かの袋があった。
「あ、そうだ。これ、一緒に食べようぜ」
「なに?」
「じゃ〜ん」
「え!」
「肉まん買ってきた」
「え〜!ありがと!ピザまんは?」
「買ってるに決まってんだろ笑」
始まりは高校1年生の時だった。
ついさっき体験入部で会ったばかりの湊音とたまたまコンビニの前で会って、たまたま2人とも肉まんを買おうとしていた。
それから部活でもよく話すようになり、気づいたら近くに居てくれた。
お互いの初めてのライブ。
ライブの打ち上げ。
放課後の帰り道。
バンドメンバーとの喧嘩。
その度に熱い想いを語っては、「悔しいね」で会話が終わっていた。
今日はそんな相方のインディーズデビューの日。
「湊音」
「ん?」
「改めておめでとう」
「.....なんだよ、しおらしい」
「.....色々思い出しちゃった」
「あはは笑」
「なに.....?笑」
「俺らの思い出なんか出番前20分間だけじゃ語れないだろ笑笑」
「そうだけど.....笑」
「そういうのは終わってからの楽しみにしようぜ」
私の横に肩を並べて座る湊音は肩でどついてくる。
「ちょっと!痛いじゃん!」
なのでこちらも当然やり返す。
「危ない!肉まん落ちるだろ!」
「湊音が悪いでしょ〜」
『あ、佐藤さんここに居たんすね』
「どうしたんすか?」
『マイクチェックお願いします』
「これ食べたらすぐ行きます!」
急いで口に入れるのでハムスターみたいになっていた。
「ハムスターみたい笑笑」
「やめろよ笑」
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そして本番。
前回と違って、ちゃんと準備が出来た。
お客さんも私を知ってくれてる人達だから安心感もある。
緊張はしてるけど、きっとこれは必要な緊張。
そう思えてる事に気がついてから、より一層このライブが楽しみだった。
「里奈!最後ぶちかましてやれ!!」
「うん!お願い!!」
「行くぞ!!」
バシンッ!!
「っった〜.....」
「行け!!笑笑」
「行きます!!」
曲を披露する度にみんなが新鮮な顔をしていた。
高校生の時に作りっぱなしだった曲を結冬くんが編曲してくれて、全部がより良くなった。
楽しくて仕方がなかった。
今までこんなにいい反応をしてくれた事なんて無かったから。
「次が最後の曲になります。前座としても、ソロとしても」
『え〜!!!』
「えぇ...ありがとうございます.....笑」
『笑笑』
「次の曲は、未完成だった私の曲に足りないパーツを全てはめ込んでくれた子が作ったものです」
結冬くんと出会ってまだちょっとしか経ってないけど、私も彼のように魅せられる人になりたい。
「それなのに彼は、嬉しいことに『里奈さんの歌声が入って初めて完成した』と私を快く受け入れてくれました」
泣いてくれてる子も居る.....。
「今日は予定が合わなくてその彼は来られてませんが、これからはソロではなく彼と夢を追いかけたいと思いました。そんな明るい未来へ向かう曲です.....」
大丈夫。
「それでは聴いてください。『On my way』」