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【グラジオラスの花束 〜無念〜「松田里奈」】12話



結冬くんとの練習の日々はあまりに早く進んで、気がつけばもう12月。
ライブイベント前日。

結冬「ふぅ...いよいよ明日ですね.....」
里奈「だね.....」

願掛けに神社へ来ていた。

結冬「新曲...刺さりますかね.....」
里奈「大丈夫...その為にこうやって神頼みだってしてるんだから」

するとスマホが鳴る。

里奈「もしもし?」
鈴木「お疲れ様」
里奈「鈴木さん!?お疲れ様です.....」
鈴木「今、電話大丈夫かしら?」
里奈「大丈夫です」
鈴木「沢村くんも居る?」
里奈「居ますけど.....」
鈴木「良かった」
里奈「何かあったんですか?」
鈴木「いや、大事な事を聞き忘れてて」
里奈「大事なこと?」
鈴木「えぇ、バンド名どうするの?」
里奈「あ!!」

そういえば練習と新曲作りに集中してて、結冬と一度も話したことが無かった。

里奈「バンド名どうするか?って」
結冬「あ!たしかに!」
里奈「うわ!どうしましょ!」
鈴木「もしかして決めてなかったの?笑」
里奈「はいぃ.....笑」
鈴木「全く.....すぐ思いつく?」
里奈「え、なんかある?」
結冬「えーっと...えーっと.....」
里奈「うわ!どうしよ!!」
鈴木「.....もし2人が良ければ、ピッタリな名前があるんだけどどう?」
里奈「え!いいんですか?」
鈴木「えぇ」
里奈「鈴木さんがいい名前があるって!」
結冬「え、なんですか?」
里奈「なんですか?」
鈴木「"Gladiolus"よ」
里奈「グラジオラス?」
鈴木「この前、たまたまお花屋さんで見つけた名前で、花言葉は『勝利』『たゆまぬ努力』」
里奈「え!めっちゃいいです!」

結冬くんにも伝える。

里奈「どう?」
結冬「良いですね.....」
里奈「それにする?」
結冬「むしろそれ以外は思いつかないので.....笑」
鈴木「じゃあ"Gladiolus"で登録しとくわね」
里奈「はい!」
結冬「"Gladiolus"か.....」

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次の日、ライブイベント当日。

里奈「おはようございます!」
結冬「おはようございます」
警備「おはようございます!バンド名とお名前をお願いします」
里奈「『Gladiolus』の松田里奈です」
結冬「沢村結冬です」
警備「えーっと...松田里奈さんと...沢村結冬さんですね!こちら首から下げておいてください!」
里奈「ありがとうございます!」
結冬「ありがとうございます」

スタッフパスを受け取り、楽屋へ行くとすでに何組か居た。
こういうライブイベントの時は1組1組に楽屋は無く、大きい楽屋を何組かで使うもの。

何度使っても緊張する.....。

里奈「おはようございます!よろしくお願いします!」
結冬「よろしくお願いします!」
他の人「おはようございます!」

その中には前に結冬くんとCDショップに行った時に話した『DCIL』や『E.sabel』なんかも居た。

リナ「里奈ちゃ〜ん!」
里奈「リナさん!」

1度だけ前座をさせてもらった事がある『E.sabel』さん。

里奈「ご無沙汰してます!」
リナ「あ!里奈ちゃん!おはよう!」
ユイ「お!久しぶり〜」
アキ「え!誰!?このイケメン.....」
結冬「は、初めまして沢村結冬です」
リナ「結冬くんね!よろしく〜」
里奈「今までソロだったんですけど、今回から結冬くんに入ってもらって」
キラ「少年、飴いる?」
結冬「え?あ、ありがとうございます」
ユイ「そっかそっか!え、結冬くんはギター?」
結冬「一応、はい」
ユイ「ユイと一緒〜、うぇい🙌」
結冬「う、うぇい.....?🙌」
アキ「ドラムに興味あったりしない?」
キラ「ベースも楽しいですよ」
結冬「あ、いや、今はギターしか出来なくて.....」
ユイ「やめなさい!笑  結冬くん困ってるやろ!」
結冬「あ、いや.....笑」
リナ「頑張ろうね笑」
里奈「はい!笑」
結冬「凄いですね.....笑」
里奈「圧倒されるよね〜笑」

一旦自分たちのスペースに戻り、メイクしたり、サウンドチェックをしたりと色々と準備をしていた。

時計の針が進む度に緊張感が高まっていく。

湊音「よっ、お疲れ様!」
里奈「湊音!」
結冬「お疲れ様です」
湊音「どう?緊張してる?」
結冬「だいぶ.....笑」
湊音「そうかそうか笑」
里奈「湊音たちの楽屋分かんなくて、探したんだけど」
湊音「今今、サウンドチェックしてたから」
里奈「そういうことね!」
湊音「うん、結冬くん」
結冬「はい」
湊音「里奈を頼むぞ!こいつ、こう見えてめちゃくちゃ緊張してるから」
里奈「ちょっと!笑  バラさんでよ!笑」
結冬「そうなんですか?」
里奈「うん.....笑」
結冬「良かった...僕だけじゃなくて.....笑」
湊音「で、俺が来たと言うことは?」
里奈「肉まんターイム!」
結冬「肉まん?」
里奈「うちらの願掛け的なやつ!」
結冬「へぇ...なんか良いですね!」
湊音「ほい、結冬くんも食べな」
結冬「え!いいんですか?」
湊音「ここのは美味いぞ〜」
里奈「なんでよ、コンビニやろ笑」
湊音「おい言うなよ!今、せっかくカッコつけてたのに!」
結冬「笑笑」

肉まんを食べ終えたタイミングで私達もサウンドチェックをしに行く。



そして本番。



私たちの前には4組くらいのバンドが演奏していて、どのバンドもめちゃくちゃな盛り上がりを魅せていた。

そんな中に入っていく、無名の私たち。

緊張どころか怖さまである。

里奈「.....やばいね」
結冬「ですね.....」

それでも時間は一定の速度で進み、ついに私たちの出番。

結冬「里奈さん」
里奈「ん?」
結冬「楽しみましょ」

結冬くんから言われた意外な一言で一気に気持ちが切り替わり、覚悟が決まる。

里奈「.....そうだね!」

後輩に勇気づけられるなんて思ってなかった。

だから彼を選んだんだ。

そう、自分の中で納得が行った。

客席には見たことない数のお客さんで、12月にも関わらずその熱気でステージが熱い。

結冬「里奈さん」
里奈「どした?」

暗転の中、結冬くんに声を掛けられる。

結冬「新曲、1曲目にぶち込みましょう」
里奈「えっ」

本来、新曲は一番最後の予定だった。

結冬「信じてください」
里奈「わ、分かった」

普段の温厚な結冬くんの、鋭い攻めの眼に信頼を置いてライトは点く。

里奈「みなさんこんばんわー!!」
観客「わーー!!!!」

あぁ...温かい.....。

里奈「私たち、『Gladiolus』というバンド名で活動してます!ぜひ!名前だけでも覚えて帰ってください!」

小さい頃から歌が好きで、高校生で軽音楽部に入ってライブの楽しさを知った。

でも現実はそう上手くは行かず、ひたすら挫折を繰り返していた。

ちゃんと結果が出ていなくちゃ意味がない。

その悔しさ全部まとめてこの曲にぶつける!!

そうだ。

私たちは勝つんだ.....。

この緊張感に勝って、努力を成功に変える。













里奈「それでは聴いてください『無念』」

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