【グラジオラスの花束 〜無念〜「松田里奈」】11話
結冬「お久しぶりです!」
里奈「え!?焼けすぎじゃない!?」
結冬「日焼け止め塗ったんですけどね.....笑」
里奈「痛そう.....笑」
結冬「痛いです.....笑」
結冬くんが海の家から帰ってきたので、早速12月のライブイベントについての打ち合わせをしに駅前のカフェへ。
里奈「てかそうだ!聞いてよ!」
結冬「なんですか?」
里奈「谷口愛季ちゃん居るでしょ?」
結冬「女優の?」
里奈「うん」
結冬「愛季ちゃんがどうかしたんですか?」
里奈「あ、ちょっとこっち寄って」
結冬「はい.....?」
里奈「びっくりしないでね?」
結冬「分かりました」
里奈「.....愛季ちゃん、うちのファンやった」
結冬「.....ん?」
里奈「だから」
結冬「はい」
里奈「愛季ちゃん、うちのファンだったらしい」
結冬「.....え?」
里奈「だから!笑」
結冬「はい笑」
里奈「愛季ちゃん、うちのファンだったの!」
結冬「えぇええ!!!!???」
里奈「ちょっ!!静かに!!」
周りの人ごめんなさ〜い.....笑
結冬「え、まじのやつですか?」
里奈「いやそれがまじのやつなのよ」
結冬「何があったんですか?」
里奈「いやね、結冬くんが海の家に行ってる間に最後のソロライブがあったんだけど」
結冬「あぁあれか」
里奈「ま、前座だけどってのは置いといて」
結冬「観に行きたかったです」
里奈「うん、ありがとう。でね」
結冬「はい」
里奈「ずっとファンだって言ってくれる子が居て」
結冬「良かったじゃないですか」
里奈「その子が愛季ちゃんだったの」
結冬「え、どゆこと」
里奈「目の前で帽子とメガネ取ってさ」
結冬「はい」
里奈「中から愛季ちゃん出てくるんだもん。隣に居た湊音から魂抜けてた」
結冬「笑笑」
里奈「やばくない!?」
結冬「いや、やばいです」
里奈「だよね?」
結冬「え?ホントの話ですか?ドッキリ?」
里奈「いや、これがホントの話なのが1番怖い」
結冬「まじですか.....」
里奈「まじです.....」
そんなお互いの会ってない期間に起きた話をして、ようやく本題に入る。
里奈「さて、結冬くん」
結冬「はい」
里奈「今の私たちの問題はなんですか」
結冬「はい!」
里奈「はい、結冬くん」
結冬「冬の曲がありません」
里奈「正解!」
そう、私たち二人とも冬の曲を作ったことがなかった。
イベントは12月。
どのバンドも絶対に冬曲を持っている。
結冬「と言っても今まで思いつかなかったから持ってないわけで.....」
里奈「そうなんだよね〜...ん〜...どうしたもんか.....」
結冬「思うようにはならないですね.....」
里奈「なんか悔しいね...冬の曲くらい書けそうなのに.....」
結冬「僕なんて名前に入ってるくせに書けないですからね笑」
里奈「あ!そっか!笑 たしかに笑」
結冬「全然笑い事じゃない!ピンチです!笑」
里奈「やだぁ〜...誰か書いて〜.....」
??「あら、奇遇ね」
聞き覚えのある声の方を向くとそこには.....
里奈「鈴木さん!?」
鈴木「元気だった?」
里奈「めちゃくちゃ元気です!」
結冬「えっ...と.....」
鈴木「君が沢村結冬くんね」
結冬「え?」
里奈「この人は鈴木光留さん、Find recordのマネージャーさん」
鈴木「兼プロデューサーよ」
そう言いながら鈴木さんは結冬くんに名刺を渡す。
社会人っていつでも名刺持ってるのかな.....。
鈴木「何か困ってるような話し声が聞こえてきたけど?」
コーヒーと一緒に私の横に座る。
里奈「大したことじゃないんですけど.....」
鈴木「嘘よ、冬の曲が作れないんでしょう?」
結冬「聞こえてたんですね.....笑」
鈴木「えぇ、でも冬の曲をわざわざ作る必要はないわ」
里奈「え?」
鈴木「埋もれるわよ」
そうだ...私たちはまだ無名も無名.....。
そんな人達の冬の曲なんて埋もれるに決まってる。
鈴木「だから別のジャンルで勝負しなさい」
結冬「別のジャンル.....」
鈴木「尚且つまだ挑戦した事ないものが良いわね」
里奈「挑戦したことない.....」
鈴木「それを考えるのはあなたたちよ。じゃあ頑張ってね」
里奈「.....ありがとうございます!」
大人ないい匂いを残して、鈴木さんはお店を出ていった。
私達もカフェを出て里奈の家に向かう。
結冬「とは言ったもののそう簡単に出来る訳でもないですしねぇ.....」
里奈「う〜ん.....」
結冬「里奈さんが持ってる曲って全部明るい系ですか?」
里奈「そうだね」
結冬「僕もそんな感じなので.....」
里奈「じゃあ暗い系?」
結冬「.....そもそもバンドの方向性ですよね」
里奈「言われてみれば確かに.....」
結冬「里奈さんはどういう思いで活動してきたんですか?」
里奈「ん〜.....」
そういえばちゃんと考えたことは無かった。
確かに周りの人を楽しませたいってのはあるけど、理由としては薄い気がする。
里奈「第一は色んな人に笑顔になってもらいたい」
結冬「そうですか.....」
里奈「でも...それだけじゃダメなんだよねぇ.....」
結冬「どうしてですか?」
里奈「だってアーティストってみんなそうじゃない?」
結冬「たしかに.....」
里奈「もっとこうさ...なんて言うんだろう...人間らしさというか...そういう身近な人でありたい」
結冬「なんかいいですね.....」
里奈「結冬くんは?そういえばどうして私と一緒に活動しようと思ってくれたの?」
結冬「ん〜.....正直今は分からないです」
里奈「うん?」
結冬「楽しませたいかと言われたらそれもなんだか違う気がするし、チヤホヤされたい訳でもないんです」
里奈「そっかぁ.....」
結冬「なんだろう.....元気づけたいとか?」
結冬くんの表情はまるで誰かを思い浮かべているようだった。
里奈「元気づけたい人がいるの?」
結冬「え?」
里奈「あの2人のどっちか?」
前にバイト先で会った凪紗ちゃんと美羽ちゃん。
結冬「いや...そういう訳じゃ.....」
里奈「図星じゃん笑」
結冬「その...なんて言うか...ずっと笑ってて欲しくて.....」
里奈「好きなの?」
結冬「違いますよ笑 そういうのじゃないです笑」
里奈「ほんとに〜?笑」
結冬「.....2人とも大切な友達です」
里奈「そっかぁ.....」
結冬「あ!そうだ!」
里奈「え!なんか思いついた?」
結冬「そうですよ!応援歌です!」
里奈「応援歌?」
結冬「応援歌と言ってもただ応援するんじゃなくて寄り添うんです!」
里奈「寄り添う!」
結冬「僕らの今までの歌って、どこか第三者からの視点ばかりなんです」
里奈「たしかに...頑張ってるけど成果が出ないとか私、沢山あるから書けそう!」
結冬「曲調も僕らを崩さずにあえて明るくいけば、重たくもならなそうですしね」
里奈「決まりだ!」
そこから私たちはどうにか自分たちの想いを乗せた曲を作り始めた。
私が作詞で、結冬くんが作曲。
里奈「ここの音、もうちょっと上げても...あー...あー...うん、出せる」
結冬「あ、じゃあこここっちでいきますね」
里奈「逆にここの歌詞さ、そっちに合わせて語尾変えてもいいよね」
結冬「めっちゃありです」
気が付いたら20時。
♪〜
里奈「.....」
結冬「.....」
里奈「.....え、いいんじゃない?」
結冬「.....いいかもです」
里奈「できたーー!!!」
結冬「おぶっ」
やっと.....!!
結冬「り、里奈さん.....」
里奈「ん?.....あ」
思わず目の前の結冬くんに抱きついてしまった。
里奈「ご、ごめん!笑」
結冬「いや...全然.....笑」
里奈「あ、あとは練習だね!」
結冬「はい!明日から練習しましょ!」
ライブまであと2ヶ月。