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上司に「お前はシェパードかポメラニアンと結婚する」と言われて

22〜23歳の頃、上司との評価面談でこう言われたことがある。

「お前が結婚するのは、シェパードかポメラニアンかどっちかだな。柴犬はありえない」と。

いや、オフィシャルな面談の場で一体何言ってんだと今考えるとツッコミどころ満載ではあるセリフだが、当時まだ幼気な私は「そうかぁ!どっちなんだろう!」と著名な占い師に見てもらった後のような根拠のない高揚感に胸を昂らせた。

いや、証明できないがある程度の根拠を感じ取っていたのかもしれない。その上司は、社内でも「人を見る目に長けている」と評判だったからだ。
人生経験も豊富で、何よりこんな大企業でそんな評価を受けている人物が言うのだからきっとそうなのだろう。当時私は素直にそう思った。

とはいえ、文脈を知らない人には「シェパード?ポメラニアン??」と相変わらず意味不明だろう。

上司の話のニュアンスを翻訳すると、

シェパード=誰もが羨むようなバリキャリ俺様タイプ
ポメラニアン=愛くるしいキャラだがキャリア志向はないタイプ

ということで、つまり私はバリバリ稼いで起業とかしちゃって、年収ウン千万でというシェパードタイプか、出世なんかには興味はないよ〜でも料理もできるし皆に好かれるよ〜みたいな主夫タイプと結婚するのだということだった。全てにおいて平均値、凡庸な柴犬はありえないと。
(実際のシェパードやポメラニアンの性格とは全然違う気もするし、柴犬に失礼な話ではある)

さらに補足すると、ポメとの結婚は私が経済的にも精神的にも家庭の主導権を握り、まさに「大黒柱」として生きていく…という見解だった。

すごい未来予想と私への評価である。仕事に対しての評価は一切覚えていないのに、このくだりは15年経った今でも鮮明に覚えている。

強烈な印象として脳裏に描かれながらも、大して結婚願望もなかった私は、「この人とは結婚するかも」「次に付き合う人は結婚前提!」なんてことを結局一度も考えずに、ひょんなことで出会った今の夫とゆるりと付き合いだし、そしていつの間にか結婚した。

振り返ってみると、20代の頃、夫と付き合う前にできた彼氏や好きな人は、往々にして「シェパードより」なタイプだった。
育ちのいいおぼっちゃまではなく、自分の力で成り上がってきたぜ!というギラつきの見える成金タイプが大好きで「仕事と女?仕事の方が大事に決まってるだろ!」と答えてくれる人ではないと嫌だった。

私の優先順位も常にそこだったからだ。
とにかく仕事が一番。邪魔してきたり、キャリアの成長の阻害要因になる男なんて問題外。「結婚するなら仕事やめてくれ」なんて言われたことはないけれど、言われていたら語尾被せるくらいのスピードで別れ話を持ち出していただろう。

未だに、ビジネスパーソンとして尊敬している人は多いし、あの人たちと結婚していたらどんな生活だったかな?今頃タワマンから東京タワーを見下げて、晩酌でもしてたかな。とたまに妄想に耽らないでもない。
だが、私の人生最大の功績は「今の夫と結婚したこと!」としつこく何度も言っているように、心から彼との結婚を決めた自分Good Job!と毎年思い続け、当時の自分の判断力を褒め称えながら生きているほどに、私は夫が好きだ。

さて、では結局彼はシェパードなのか?ポメラニアンなのか?はたまた上司の予想は外れ柴犬だったのか?という点である。

たわごと前提で聞いてほしいのだが、彼はそもそも犬ではなかった、というのが私の見解である。
いやいや、犬で例えてるんだから犬の中で考えろよ。そもそもがレトリックでしょうよぉぉ!というツッコミは真っ当だが、やっぱりどう考えても彼は犬種の中で1つを抜き出して例えられるようなタイプではない。

逆に、これが猫で例えられていたならば「いや猫じゃなくて犬かも」と言った可能性はある。
つまり何が言いたいかと言うと、彼は恋愛市場で語られるステレオタイプの概念を超えた存在だったということだ。

彼を知っている人からすると「どちらかというとポメ?」みたいな感想を持つのではないかと思う。
仕事はきちんとやっているが、身を粉にして働くより人生楽しく生きようぜ〜!ワークライフバランスぅ〜!みたいなタイプなので、シェパード的な気の強さや、貪欲さは皆無である。

誰からも愛されるキャラで、家事も育児も完璧。
自分より稼ぐ妻(私)に対してのコンプレックスなんてゼロで、下手なプライドが競い合いそうな男同士の会話でも「うちの奥さんバリバリだから!僕より稼いでるから!すごいっしょ!」と平然と言ってのける。
彼はそんな人だ。

我が家は家賃や生活費などはずっと折半というルールを結婚前から貫いてきたため、経済的に私が彼を支えているということはない。あくまでもそこはフェアである。
また、精神的にも実は支えられているのは私だと感じるし、優しいだけじゃなく、何てこの人は頼りになるんだろう!と感動することの方が多い。

無理やり動物で例えるなら(この話もうしつこいですか。笑)
馬…!
かもしれない、と思う。

それも毛並みが整い訓練された競走馬ではなく、ワイルドに草原を駆け抜ける、誰にも飼いならされない野生馬である。優しさと強さ、そしてしなやかさを備えつけている人なのだ(ベタ褒め)

今までシェパードと付き合ってきた私は、彼と出会ってから度肝を抜かれまくった。まさか30歳を超えて、こんなに価値観が変わるとは思っていなかった。

言っても好みはあるしね〜いつ結婚するかはわかんないし、ストライクのタイプじゃなくてもまあ許容範囲はあるでしょ〜とぼんやり考えて、駆け寄ってくる犬を待っていた私だが、実際出会ったのは鞍もつけられていない馬だったのだ。

いや、私犬は飼ったことあるけど、馬は飼ったことないし!
乗馬だってろくにしたことないし!

そんなのどうやって乗りこなせば!?
当時の私は少なからずそう戸惑っていた。そんな私の既成概念を彼は気持ちよくぶっ壊していった。

え?乗る必要なんてなくない?一緒に走ればいいじゃん!気持ちいいよ!」と。

恐るおそる芝生に脚をおろし走ってみると、確かに今まで感じたことのないような爽快感があった。

あれ?今まで何でそうしなかったんだろう?
私は何でこういうパートナーシップのあり方を考えなかったんだろう?
それがものすごく不思議に思えるくらいに。

私たちは、1円単位まで月の生活費を割り勘にする。
どちらかに養われているという状態を作らないためだ。
家事や育児は得意分野で分ける。
私が苦手な家具の組み立てや、配線や力仕事は夫が担当する。
皿洗いも嫌いなので、夫がやる割合の方が多い。
一方彼が苦手なアイロンやお金の計算は全て私がやる。

食事は自分が食べたいものを自分で作る。
相手に作ってもらう前提がないので、献立が少ないとか、味付けが濃いとかそんな話になり得るはずもない。

シェパードと結婚していたらどうだったろう。
はたまたポメとなら。
私は今の価値観に出会わずに生きていたのだろうか。
一緒に草原を走り抜ける爽快さを知らなかったのだろうか。

身につけるものにこだわって、服や靴に給料を全部注ぎ込んでいた私が、今やTシャツとデニムしか着ないのも彼の影響である。
同じく時計や靴や車にこだわるシェパードがかっこいいと思っていたし、素敵な外車に乗せてもらいドライブに連れて行ってもらう自分に酔っていた。
でも、夫とママチャリにのって一緒にスーパーへ行ったりする楽しさには何だか勝てない。

元がイケメンなので、オシャレな服も着こなせる夫に以前「このブランドとか着ないの?もっとカッコよくなるんじゃない?」ときいたことがあった。すると彼は「10倍高い物を着たって、10倍かっこよくなるわけじゃない。僕はユニクロを着る今の自分で十分イケてる」と言った。

鼻につくナルシシズムがあったわけじゃない。冷静に、客観的に、でも絶対の自信を持って彼はそう言った。
同じように私がおしゃれをしていたら、それはそれで褒めてくれるが、Tシャツにデニムでも、シミが増えてもシワができても、「君は綺麗だ」と言い続けてくれる。

だから私も、重たい鎧を脱ぐことができた。
そして脱いでみたら、これまた爽快の極みだった。裸馬で走ることの気持ち良さを知ってしまったら、もう元に戻れない。

これは、何タイプと結婚すればいいとか言う話ではない。
だから馬と結婚するのがベストよ!何て偉そうに言う気もない。
そもそも結婚することが正解でもない。
ただ、ある意味シェパードか?ポメか?という呪縛にとらわれていた私が気持ちよく運命に裏切られたというこの事実が、何だかとても愉快なのである。

未来予想は楽しい。
堅実なものであっても、夢のようなものであっても未来に目を向けて想像や創造や妄想をすることは楽しい。

だけど、それを裏切られたときはもっと楽しいのだ。

だから人生って面白い。
私、結局「馬」と結婚しました。
今度上司に会ったらそう言ってみよう。

それもお前らしいな。
きっとそう言って笑ってくれる気がする。





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