「僕は手伝わない」の先にあるもの
扇動的なタイトルに思わず反応させられる、クレラップの動画が話題になっている。
△NEWクレラップ「僕は手伝わない」篇
大方の予想通り、タイトルは友好的な「釣り」であり、家事や育児は僕(男性)が「人ごとのように手伝う」のではなく「主体的にやる」ものなんだという種明かしが、序盤で早々に回収される作りとなっている。
「家族のカタチも仕事のカタチも変わったのだから、僕たちのカタチも変われるはず」というメッセージは共働き世帯が6割を超えるこの世の中で、様々な人の心に刺さったのだと思う。
完璧には程遠いが、確実に変わり始めたこの時代において、日々を懸命に生きる人たちの支えになりたいという「クレラップ」の宣言。
なかなか秀逸な広告である。
さて、そんな動画を見たまさに今日。
私は客先で育児について担当者Aさんと話していた。
人生の大先輩であるAさんは中2男子と小5女子のふたりのお子さんの父親なのだが、まさにその育児に向き合う姿は「元祖イクメン」と呼ぶにふさわしい眩しさに満ちている。
閑職でもなく、仕事もバリバリやりながら…という状態で長男誕生の時から育児にかなり積極的に取り組んできたらしい。
地域のパパたちに、育児セミナーなんかを主催したりしたこともあるそうだ。
イクメンという言葉さえ死語感の強い、この令和の時代ならまだしも、時は14年前なのである。
この時代にそんなことをやっていた父親は果たしてどれくらいいるのだろう。
そんなAさんの育児の話を私は4年前、自身の子どもを出産する前にも聞いていた。
そして我が子を身篭り、育児生活が始まった時、まさに件の動画のように「一緒に子育て・家事」をしてくれる夫を見ながら、Aさんの言葉をよく思い出していた。
「産まれたてのこの一番大変なときに、父親としてしっかりやっておかないと一生嫁に恨まれますからね!(笑)」
そう冗談まじりに放たれたAさんの一言だったが、自分が産んでみて、その言葉の共感度の高さにおののいた。
本当に一言一句その通りである。
睡眠不足でフラフラで、自分の食事もままならない状態の日々で夫が主体的に動いてくれなかったら…間違いなく私なら一生恨む。
幸いなことに夫は授乳以外の全てをやってくれたし(もちろんミルクはあげてくれた)、家事だって子どもが産まれる前から私以上にやってくれている。
まだまだ物理的に手のかかる年齢のため、私と夫の体力と気力は日々ギリギリだが、それでも病むことなく楽しくやっていけてるのは、この支え合いの構図が成り立っているからだと心底思う。
さて、Aさんの息子さんだが、思春期真っ只中ということで「でもそんな息子さんも今や反抗期ですか?」と聞いてみたのだが、ところがどっこい。
全く反抗期がないのだという。
「未だに一緒にお風呂入ってますからねー
僕の帰りを毎日待っててくれるんですよね」
と。これまた衝撃であった。
中2ってそんなんだっけ!?
もっと尖ったナイフみたいな感じじゃないの?
腫れ物に触る感じで接するもんじゃないんだっけ?
少なくとも親と会話するのとか、だりーうぜーってお年頃じゃないんだっけ!?
お風呂?帰りを待つ!?うっそー
反抗期がないことがいいことだとか、あることが悪いことだとかそんな話ではないのだが、私はこの息子さんの「父親ラブ」はやはり、Aさんの息子さんへの向き合い方の結果なのだろうなと感じた。
それをストレートに感想として伝えると、Aさんは誇張するでも、自慢するでもなく、いつもの調子で淡々と、でもキッパリと「まぁ一生懸命ずーっとやってきましたからね」と答えた。
カッコいい…
名ばかりイクメンではない、この何十年も本当にやってきた人だからこそ言える言葉の重み。
ひたすらカッコいい。
そして我が家の未来の希望を見た気がした。
実際反抗期に悩まされる日が来るかもしれないけれど、これだけ夫が父親として息子たちに向き合っていれば、やはりどんなことがあっても嫌いにはならないのではないか。
もちろん、嫌いではないんだけど接点がなさすぎて今更どう接していいかわからない…というこじらせ系の思春期を迎えることも想像できない。
尊敬するAさんという実例を目の前にして、私は今の我が家のスタイルに自信を持った。
「うるせぇババア!部屋に入ってくんなよ!」と叫ばれる日を想定しながら生きていたが、そんな積み木くずしな日々は避けられるかもしれない(いや来るかもしれないけど)
来たとして。
来たとして、きっと解決できる。
いつか分かり合える。そんな根拠のない自信を持ってしまった。
安直すぎるだろうか。
「イクメン」なんて言葉が時代遅れになるほど、育児や家事は手伝うものではなく、当たり前の義務としてやるものだという意識が根付いてきた。
それでも、まだまだ周りを見渡すとそれが「理想論」だと言わざるを得ない現実を目の当たりにする。
さて、5年後は。
10年後はどうなっているだろう。
へー、クレラップがそんな広告してたの!
わざわざ言うことでもないような話なのにね〜
近い未来、そんな風にこの広告が時代錯誤な遺物として認識される日が来ると良い。
クレラップとしてもきっと本望だろう。