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住んでいるだけでもらえる? オーストリアの“Klimabonus”とは


”Klimabonus”って?

概要

”Klimabonus”は、温室効果ガスの削減を目的として導入されたカーボンプライシングによる生活コストの上昇を補填するために、年に一度オーストリアの住民に支給される”ボーナス”で、住民は居住エリアに応じて決められた金額を受け取ることができるようになっています。
(“Klima”とはドイツ語で気候(=Climate)を意味する単語)

つまり、生活費のうちカーボンプライシングとして上乗せして支払った金額の一部を、Klimabonusとして取り戻すことができるシステムです。

気になるKlimabonusの受給対象者ですが、オーストリアを主要な居住地とし6カ月以上経過した人は誰でも、年齢、出身地、国籍にかかわらずKlimabonusを受け取ることができます。

導入の背景

Klimabonusは2022年10月に「エコ・ソーシャル 税制改革(Eco-social Tax Reform)」の一環としてカーボンプライシングが始まったことをきっかけに、導入されました。

<補足:Eco-social Tax Reformとは>
オーストリアの「エコ・ソーシャル 税制改革」(Eco-social Tax Reform)は、気候変動に対処し、持続可能な経済を推進するために導入された税制改革です。
環境保護と社会的公正の両方を目的としており、特にCO₂排出量の削減を中心に様々な施策が展開されています。

具体的には以下のような取り組みが挙げられます:
炭素税の導入:化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーへの転換を促すことを目的とした、CO₂排出量に応じた課税

所得税の軽減:環境に負荷をかけない行動の支援としての所得税の軽減(炭素排出の多い活動への税負担のシフト)

社会的公正の確保:環境対策が低所得層に不利に働かないようにするための社会的な不平等の緩和措置(補助金や税控除の提供など)

オーストリアは、「2040年までにカーボンニュートラルを達成する」という目標を掲げており(日本含む世界の主要国の達成目標期限は2050年)、Klimabonus含め、エコ・ソーシャル 税制改革は目標達成に向けた重要な政策として推進されています。

”Klimabonus”の仕組み

Klimabonusとして支給される金額は以下の2つの要素で構成されています。

  1. 固定額:すべての受給資格者に対して支給される最低額。住居や消費に関するカーボンプライシングによる生活コストの上昇を補うことを目的としたもの。

  2. 地域手当:受給資格者の居住エリアに応じて支給される金額であり、移動コストの上昇を補うためのもの。(イメージ:公共交通が不十分な地域の住民は移動コストが高いため、より高いKlimabonusを受け取ることが可能)

また、「2.地域手当」のインフラ条件は以下のような点が考慮されており、地域手当の段階はカテゴリ1~4に区分されています。

  • インフラ条件

    • 最寄りの教育機関までの距離

    • 近隣に公共機関があるか

    • 最寄りの病院の場所

    • 公共交通機関の充実度(公共交通の有無や質、運行頻度)


  • 地域手当の4カテゴリと2024年の受給額

    • カテゴリー1: 非常に良好な公共交通サービスがある都市中心部(固定額145€)

    • カテゴリー2: 良好な公共交通サービスがある都市中心部(固定額145€+地域手当50€=195 €)

    • カテゴリー3: 地域の中心地や、その周辺にある十分な公共交通サービスがある地域コミュニティ(固定額145€+地域手当100€=245 €)

    • カテゴリー4: 基本的な公共交通サービスしかない農村地域やコミュニティ(固定額145€+地域手当145€=290 €)

オーストリア国内のカテゴリ区分

生活者の意識を変える取り組みとしての意義

このKlimabonusの取り組みですが、住民が環境負荷の少ない行動を選択をするように促すことも目的となっています。

居住エリアのインフラ状況のために環境負荷の低い代替手段を利用できず、より高いカーボンプライシングを負担している人にとっては生活費の金銭的支援としての意味合いが強くなりますが、「日ごろから意識的に環境への負荷が少ない行動をとることにより、手元により多くのKlimabonusを残すことができる」というように、人々の意識変容を促すことも視野に入れた取り組みになっています。

オーストリア人は平均的に日本よりも気候・環境問題への意識が高いように見受けられますが、このような国を挙げての取り組みが、少しずつ生活の中で人々の意識の中に「より環境負荷の少ない行動をしよう」という気持ちを芽生えさせるのではないかと感じました。

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