【エッセイ】柔道はJUDOでChristmasはクリスマス
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数日前のオリンピック男子柔道100キロ超級の準決勝で、乱闘寸前の騒ぎがあった。
その後、金メダルを獲得したフランスのリネール選手とジョージアのトゥシシビリ選手(詳しく知りたい方は検索してみてね)。
手というか、足を出したトゥシシビリ選手は失格となり敗者復活戦の出場権も失った。
リネール選手が一本を取った後も押さえつけていたからだという意見もあり、リネール選手の方も処分をされなかったことに不満がある人も多いようだ。
しかし、ボクが気になったのは、その後のリネール選手の様子。
勝利をアピールするガッツポーズはまぁ良いとして、畳を降りて退場する間に、憮然とした表情で、会場を煽るように両手を下から上へと何度も動かした。自分に非がないことや、勝ったことを誇示するように。会場はそれに反応して一際大きな歓声をあげた。
そこには相手に対する敬意はなく、柔道選手であっても、武道家ではないということが感じられた。
国際大会で行われている柔道はJUDOであって柔道ではない。
これは日本人の間で言われ続けていること。
今大会は指導の数では勝敗が決まらないが、以前は指導の数で優位に立つと組ませずに、逃げ切る外国人選手も少なくなかった。
このリネール選手も以前はそれで批判を受けた。
それを苦々しく思っている柔道関係者やファンは多いと思う。
ボクもそう思う。
ただね、世界に出してしまった以上、仕方ないとも思うんですよ。
ほとんどの日本人が理解できる「武道」という文化を、すぐに理解できる外国人はいないだろうし、理解しようと思っても簡単なことではないと思う。
ほとんどの日本人だって完璧に理解しているわけではない。ただ、なんとなくこういうものだろうという理解はできていて、大筋で間違ってはいないはず。
逆に、日本人が西洋文化を理解しようというのも難しいものがあり、多くの場合、形だけが輸入され、日本独自の進化を遂げる。
最近ではハロウィンでしょうね。
そもそも仮装して集まって騒ぐイベントじゃないし。
バレンタインデーだって、女性から男性への告白の日でもないし、義理でチョコレートを配らなければならない日でもない。
それはスポーツじゃないんだから話は別だろうと言いたい人もいると思う。
確かにそうなんだけど、異文化を理解せずに形だけを取り入れ、自分たちなりに進化させていくということでは大差ないと思う。
その最たるイベントがクリスマスだろうな。
ボクが二十歳の頃、世はバブル景気真っ只中で、クリスマスは高級なディナー、そして夜景の見える高級ホテルで夜を過ごして、貯金を叩いて買ったプレゼントを渡す、そのことにまるで命をかけているような人種も多かった。
男はどうにかして本命の彼女に約束を取り付けたい、女は何人かキープしつつ、大本命の男からの誘いを待つなどの話を、ボクは別世界のことのように聞いていた。
とはいえ、ボクもクリスマスの夜は付き合っている彼女と過ごしたいと思った。
しかし当時フリーターだったボクには金もないし、ビシッとスーツで決めて高級ホテルなんて別世界の話。したくもなかったし。
とりあえず車で彼女を迎えに行き、食事をして、予約していたケーキを店で受け取る。
どこに行くかといえば国道122号線の浦和周辺。
埼玉県民の諸兄ならピンときた人もいるでしょう。
そう、ラブホテル街道です。
東北自動車道を挟むように上下線が分かれ、その道沿いにはラブホテルが何軒も並んでいるわけですよ。それのどこかで一晩を過ごそうと。
しかしクリスマスの夜ともなれば、どこも「満室」の赤いランプが点っている。
二往復くらいしてその付近は諦め、北上して岩槻に向かう。
なぜかといえば、東北自動車道岩槻インターの隣には大ラブホテル街が広がっているんですよ。
そういえば高速道路のインター脇って、必ずラブホテルがありますよね。あれはなんでですかね?
「運転で疲れたから一休みしようか」
ということですかね?もっと疲れることになるのに。
そんなわけで、岩槻に行けばどこかに入れるんじゃないかと彼女と話し、車はラブホテル街に突入。
すると、二車線の道路はヘッドライトとテールライトに照らされて光が蜃気楼のように揺れていた。
大渋滞。
車はピクリとも動かない。
周りのホテルには「満室」の赤ランプ。
みんな考えることは同じというわけか。
やがてどこかのホテルから一台が出てくると、そのホテルの前にいたラッキーな車が入っていく。出てきた車は渋滞で外に出られない。
こりゃダメだ。
ボクは路地を曲がってホテル街を脱出した。
その後、国道122号線を何往復かして、日付が変わる前になんとか空室のランプを見つけて入ることができたと思うが、詳しくは覚えていない。
それが日本のクリスマス。もちろんみんなじゃないけどさ。
もし上空からその様子をキリストさんが眺めていたらどう思いますかね。
まぁ、教えを伝えた預言者ですからね、偉い人だから、それも仕方ないかと許してくれていると思うけど。
まぁ、そんなわけでね、柔道はJUDOで仕方ないだろうなと思う。
ポイントで逃げ切ろうと思っても、一本を取らなければ取られる可能性もあるわけで、より勝つ確率が高い戦略が残っていくのかな。
畳の外でも、武道家ではなくスポーツ選手としての考え方、立ち居振る舞いで仕方ない。前述のリネール選手はスポーツマンシップという点でもどうかと思うけど。
相撲は日本国内だけでやっているから、外国人力士が増えても、日本のしきたりを重んじることを求めることができる。
格闘技ではあるけど、神事であり興行でもある今のスタイルを続けて欲しい。
なんて思っていたら、日本の相撲とはまるで関係ないけど、「US SUMO」という競技があるらしい。
見てみてびっくり。
ここまでくると別物なので笑って見ていられるなぁ。