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【山あそび】山に登る

なぜ山に登るのか?

こう問われた登山家ジョージ・マロリーが「そこに山があるから」と答えたのは有名な話。

ボクは山に登ります。
登山歴は6年目だから、まだまだヒヨッコだけど。
50歳を目前にして体力の衰えを強く感じて、ひとりで始めた登山。
山で出会った人、SNSで知り合った人と登る機会も増えた。
それはそれで楽しいけど、ひとりで登るのはまた違った楽しさがある。
いや「楽しさ」という言葉ではなぜかしっくり来ないな。
友達と登る山は楽しいけど、ひとりで登る山は楽しいという表現ではしっくり来ない。

湯殿山

先日、山形県の月山山域、姥ヶ岳から湯殿山を周回した。
この時期は昨シーズンから始めたバックカントリースキー。
目的はふたつ。
雪山登山を始めた時から滑ってみたいと思っていた湯殿山南斜面を滑ること。
もうひとつは、登山道がない姥ヶ岳〜湯殿山の間を自分の軌跡で繋ぐこと。
難易度が高い訳ではない。
もちろん雪山登山は、無雪期に登山道を歩く登山に比べれば何倍も危険が伴うけれど、雪山登山を何年かやってる人なら登れるレベル。

志津温泉の駐車場に車を止め、10分ほど除雪された舗装路を歩く。
旧国道112号線と月山リフトのある姥沢への道の分岐からスキーを履く。
ここからはスキーで登る。
ブナの森は雪に覆われているので道はない。
地図や地形を見ながらルートを探して進む。
1時間半ほどで姥沢に到着。
4/10の月山スキー場オープンに向けて、除雪が進んでいる。

姥ヶ岳の大斜面

姥ヶ岳山頂へ向けて尾根に乗る。
わずかに木が残る場所を過ぎると広大な雪原。
斜度が上がっていくこの雪原を淡々と登る。
息が上らないように気をつけながら、右足、左足とゆっくり繰り出す。
それでも時々立ち止まって息を整える。
そしてまたゆっくりスキーを前に押し出すように歩き出す。

話す人もいないひとりの登山は哲学の時間。
様々な思いが巡る。

あの時、どうしてあんなことを言ってしまったのか。

なぜ、こうした方が良いと思っていることができなかったのか。

苦しんでいるあの人にできることはなかったのか。

良い、悪いではなく、できる限り正直になって、自分の心に問いかける。
難しいことだけど、白一色のシンプルな空間で淡々と交互に足を出していると、頭の中もシンプルになっていく気がする。

姥ヶ岳の山頂はもう雪がなく木道が剥き出しになっていた。
例年なら5月頃の雰囲気。
今年は雪が少ない。
北側の斜面でシールを剥がす。
湯殿山とのコル、装束場に向かって滑り出す。
風が当たる上の方はやや凍ってガリガリ。
しかし次第に雪が緩んできて、スキー場でいえば中級レベルの斜面を快適に滑走。

姥ヶ岳から滑走した斜面

コルから湯殿山北東尾根を眺める。
思ったより急登だ。
スキーをザックに括り付ける、いわゆるシートラで、ブーツにはアイゼンを装着。
一歩一歩、確実に雪面を蹴り込み、アイゼンの歯を食い込ませて登る。
時々、立ち止まり、後ろを振り返る。
だいぶ登ってきたと、確実に進んでいることを確認する。


コルから標高差150m。
湯殿山頂上とほぼ同じ高さのピークに立つ。
360度の展望。
素晴らしい。
名もないこのピークから眺める月山、姥ヶ岳、湯殿山。
この風景を誰かと楽しむのも良いけど、ひとりで味わう時間もまた良い。
それから約15分、登って降ってをいくつか繰り返して湯殿山頂上に到着。

湯殿山頂上
湯殿山から眺める月山

頂上はバックカントリースキーヤーやボーダーが10人ほど。
滑走の準備が整ったパーティから、各々のコースへ滑り出していく。
ボクは南斜面。
上から覗き込む。30度は超えている、スキー場なら上級者コース。
先に2パーティが順番待ちをしながら滑って行く。
みんな上手い。
雪の状況はいわゆるザラメ。制動が効きやすい。
これならボクでも行けそうだ。
思い切って斜面に飛び込む。
先行者のシュプールを横切りながら、自分のシュプールを描く。
気持ち良い。
あっという間に標高差400mを滑り降りた。
振り返って自分のシュプールを目で辿る。
バックカントリー2年目、目標としていた斜面を滑ることができた。

滑走した湯殿山南斜面

もっと難易度の高いことごできる人はたくさんいる。
彼らから見れば大したことないのかもしれない。
しかし、自分で決めた目標、計画、そしてそれを達成することは「楽しかった」という言葉とは少し違う満足感がある。
心が、魂が喜んでいる、そんな感覚。

なぜ山に登るのか。
その答えは十人いれば十通りあると思う。
ボクが山に登るのは、魂が喜ぶことがしたいからなんだと思う。
体力作りから始めて、紆余曲折を経てここに辿り着いた。
山登りを始める理由も人それぞれだろう。
そして皆、いくつもの山に登り、様々な体験をして、方向性が定まっていく。
その全てが正解で間違いはない。
もし自分を知りたいなら、山に踏み出してみるのもひとつの方法かもしれない。

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