【エッセイ】男女平等に向けたスナックの世界
(1920文字)
男女平等が叫ばれる世の中。
先日、コンビニの雑誌売り場に並ぶ水着グラビアについて書いた。
子供でも受動的に見えてしまう場所にある性的なものが許されている謎。
性的な程度の問題なのか、見逃されているのか。
で、男女の違いを考えると夜の店。
といっても、キャバクラとかホストクラブという風営法のラインではなく、その手前。
つまり、スナックですね。
最近は、昭和レトロブームやらで、若い女性客も増えているというスナック。
昔から男性が女性を連れていくことはあったけど、今は女性だけで行ったりするそうですよ。
実家感が良いとか、そういう意見もあるようで。
さらには、日本の文化として外国人の観光客のスナックツアーもあるらしい。
とはいえ、やっぱりスナックの基本客は男性。
ママやお店の女の子と話をしにいく場所。
お店の女性がみんなオバさんだとしても、というか、その場合が多いけど、やはりカウンターを挟んででも男女が話をする、それを楽しみに行く場所。
ふと思ったんだけど、このスナックという業態、男女が逆では成り立たないのかな?
つまり、ママじゃなくてパパ。まぁ、マスターかな。
で、お客さんは女性が主体でマスターと話をしに行く場所。
キャバクラに対して、ちょっと違うけどホストクラブがあるなら、スナックに対する店があっても良いのではないかと。
マスターと話をしに行く場所としては、個人経営の飲み屋とかバーもあるけど、そこは基本的に料理や酒を楽しみに行く場所。
そうではなく、スナックのように話をして、カラオケをしたりして、女性たちが日々のストレスを解消する場所。
まぁ、違いはあやふやだけど。
「マスター、聞いてよ」
「どうしたの?」
「ホラ、この前話した上司なんだけどさ、マキちゃんは結婚しないの?とか聞いてくるワケ。セクハラよね。もう、ムカつくのよ」
そう言うと、マキはハイボールを一気に飲み干して、少々怒りを顕わにグラスをカウンターにドンと置いた。
マスターは黙ってそのグラスを受け取り、次のハイボールを作る。今日は悪酔いしそうだから薄めの方が良いかもしれない。
「その上司、結婚してるの?」
「してないの。43歳独身」
「じゃ、狙ってるんじゃない?マキちゃんのこと」
そう言ってマスターが差し出したグラスを受け取りながら、マキの目が大きく開いた。
「え!マジかー!それはキツいわー。ムリムリ」
マキは29歳未婚。昨年の末に長く付き合っていた男と結婚寸前で別れた。
それ以来、店に来る頻度が増えている。
「ねぇ、マスター」
「ん?」
「いっそのこと、マスターが結婚してよ。バツイチ独身でしょ?」
冗談のように笑って言っているが、3割くらいは本気だろうなとマスターは感じた。
「俺がもう少し若けりゃね。マキちゃんみたいな可愛い子、放っておかないよ。でもほら、親子でもおかしくない歳の差だよ?」
マキの目の前の、小さなナッツの皿が空になったので、黙ってそれを下げ、代わりに用意していたマキが好きなチーズを黙って出した。
「良いよ、歳の差なんて。っていうか、むしろ良い。私さぁ、末っ子じゃない?やっぱ甘えたいのよ。ユウタと付き合ってつくづく思ったわ」
こりゃ、3割どころか7割くらい本気か?
マスターは黙ってカラオケのリモコンに番号を打ち込む。すると、マキがいつも歌う曲のイントロが流れ出した。
「ほら、マキちゃん、いつもの聴かせてよ。俺、マキちゃんが歌うこの曲が好きなんだよね」
「ホント〜?もう、口がうまいんだから」
マキは少し笑ってマスターが差し出すマイクを受け取った。
とかなんとか。
セクハラを嫌がっている女性客がある意味、セクハラをしにくるというか。
なんと言うか、この男女の機微も含まれた会話を楽しむというか。
もちろん、主婦のお客さんもアリ。
こうやって書いていて改めて思ったけど、スナックってそういう部分を満たす役割があるんだよね。
カウンターを挟んで男女として向かい合う。決してそういう関係にはならないワケだけど、少しそういう欲求を満たすというか。
女性でも、子育てが終わった年になっても、女性として扱われると嬉しい人は少なくないと思う。
それを求めてホストクラブにハマってしまうくらいなら、これくらいの危険がないところで少し気持ちを満たした方が良い。
そういう場所が社会的に認められれば、これもまた男女平等な気がするなぁ。
というわけで、需要はないのかな?
ただね、マスターはかなりの手腕が必要だろうな。
スナックのママも、冷静に見るとやっぱり客の楽ませ方、あしらいが上手い。
みんなプロなんだよね。
さらにお客さんが女性の方が難しそう。
そう考えるとマスター養成学校があっても良いな。
とかなんとか止まらなくなってきたので、この辺で。