【山あそび】栗駒山で世界が広がる
(1949文字)
前日の夕方にMさんから電話があった。
明日はスキーで行くのかと。
翌日、ボクはMさんを栗駒山に連れていく約束をしていた。
雪の栗駒山に登るのは難しいと思い込んでいるMさんに、天気さえ良ければ簡単だと教えようと思い、風のない日を選んでいた。
ボクはバックカントリースキーで、Mさんはワカン(アルミのかんじき)の予定だったが、行きつけの登山用品店に行ったらサイズの合うバックカントリーの中古ブーツが格安で出ているという。
スキーはボクが以前使っていたものがある。ブーツさえあればMさんもスキーで行ける。Mさんはゲレンデスキーなら初〜中級程度だが、バックカントリーは未経験。
電話を登山用品店の店長に代わってもらい、いろいろと問題がないか話をする。
前日に栗駒に登ったお客さんの情報をもらい、それじゃ、このルートで行けば問題ないんじゃないか、いわかがみ平からの林間の急斜面が大変かもしれないけどなんとかなるだろう、などなど。
そしてMさんはブーツを購入し、スキーで行くことになった。
当日の天気は薄曇りだけど頂上はよく見えていた。風はない。
雪山は風が強くなると厳しいし、低い雲やガスがかかってホワイトアウトになるのも大敵。すっきり青空とはいかないけど、そうならない天気の日を選んだ。
駐車場で知り合い夫婦に会って挨拶をして、数日前に登った時の話を聞く。
今年は雪が少ないので、冬季ルートの一部分がもう藪になっているようだとのこと。それでは途中から登山道に合流した方が良さそうなどと話す。
準備を整えて、知り合い夫婦に15分ほど遅れてスタート。
Mさんはスキーで山に登るという感覚が不思議なようだったが、次第に慣れて、最初の急斜面を休み休み上り切った。
あとは緩やかに淡々と登っていくだけだ。
ほとんど除雪が終わっている、いわかがみ平の駐車場で少し休憩して、ゆっくりと山頂を目指す。
先に出発した知り合い夫婦のトレースを参考にしながら、疲れないペースで登っていく。
やがて、薄曇りの下に栗駒山の頂上が見えてきた。
それと同時にやや風が吹き出す。しかし問題ない程度。
冬季ルートから登山道に合流し、寒くなってきたのでハードシェルを着込む。
藪がすっかり埋まった最後の登りを凌ぐと頂上。少し遅れてMさんも無事登頂。
先に到着していた知り合い夫婦とその友人と登頂を喜ぶ。
山頂からの眺めは、焼石連峰、禿岳、虎毛山くらいまで。
晴れていれば見える鳥海山などは見えなかった。
そして問題の滑走。
急斜面は山頂直下の標高差100m程度。スキー場の中級者コースくらいだけど、スキー場のように圧雪されていない斜面なので、初めての人には滑りづらい。
それでもMさんはなんとか止まりながらも滑り切った。
あとはルートを選びながら、緩斜面を滑っていくだけ。
約40分でいわかがみ平に戻ってきた。ここから登りで2時間くらいかかっているのでスキーは速い。上手い人なら15分くらいで帰ってこられるはず。
無風で暖かいので、ここで昼食休憩。
あとは林間の急斜面をMさんもなんとか転倒せずに滑り切ってゴール。
初めてのバックカントリーは大変でもあったけど楽しめたようだ。
物事には巡り合わせやタイミングがある。
Mさんが前日にいきつけの登山用品店に行ったのは、中古のスノーシューが入ったという話を聞いたから。ワカンより浮力のあるスノーシューが欲しいと思ったようだ。
ところが、店にいたベテランのお客さんに「そんなの買うな」と言われたらしい。
雪山を楽しむには、主にワカン、スノーシュー、スキーがあるが、それぞれ目的や使い勝手が違う。詳しく書くと長くなるので割愛するけど、スノーシューを買うならスキーの方が良いと、そのお客さんは言いたかったらしい。
そこにたまたまMさんの足のサイズに合うブーツがあった。
スキー板はボクのお古がある。
Mさんは不安ながらもスキーをやってみることに決めた。
断ろうと思えば、断る理由はいくらでもある。
まだ雪山登山自体始めたばかりだし、スキーも上手いわけではない。初めてで栗駒山なんて不安、怖い、とかなんとか。
おそらく、ほとんどの人がそうやって先送りにするか、諦めるのではないだろうか。
しかしMさんは、たまたま訪れたこのチャンスに、不安ながらも乗ってみたわけだ。
たまたまボクに栗駒山に連れて行ってもらうことになっていて、たまたまスノーシューを買いに行ったら、たまたま店にいたお客さんに買うなと言われ、たまたまサイズの合う中古のスキーブーツがあり(これがかなり奇跡)、店長とボクが話をして、大丈夫じゃないかということになり、やってみようとなったわけだ。
そうした流れ前にすると、ほとんどの人寸前で躊躇する。
だけど、飛び込んでみると世界が広がるということを、今回のMさんを見ていて改めて思った。