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小説「ムメイの花」 #12恋の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。



向かい側の家のチャーリーが
玄関から顔を出し
僕に手招きをしている。

「おはよう、アルファ!
 パパと一緒に実験をするから
 みんな集まったらボクの家に来てよ!」

しばらくすると、
本を抱えたブラボーが走ってきた。
「おーい、アルファ、おはよう」
いつものように石につまずいて本を落とす。

デルタは気が付いたら僕の左側にいた。
カメラを首から下げ、
まっすぐ僕と同じ方向を向いていた。

「おはよう、デルタ」
「チャーリーの家で何か実験するのぉ?
 あ、おはよぉ」

どこで聞いていたのかはわからないけど、
説明を省くことができたから良しとしよう。


3人が揃い、チャーリーの家の扉を叩く。
チャーリーは早く、早く!と急かし、
僕たちを家に招き入れた。

案内された部屋には大きな机が設置され、
実験器具と実験で使うのか、花も
準備されていた。
そこには先生の姿も見えた。

僕たちが「先生」と呼ぶのは
チャーリーのパパ。
学校の先生なんだ。

「おはよう、みんな。
 今日は学校では教えてくれないことをするぞ」

「パパがね、今朝咲いたばかりの花で
 花から油をとる実験をさせてくれるって言うんだ!
 花の油ってボクたちの星では
 何に使われているか知ってる?」

先生とチャーリーに向き合うように
デルタ、僕、ブラボーの順で机を囲む。

ブラボーは答えた。
「そりゃ知ってるさ。この星の人なら
 知っていて当然だよ!
 これはアルファが答えるべきだ!」

「権利を譲ってくれて感謝するよ。
 花から取れる油はこの星のロケットの燃料だ」

チャーリーはテキパキと助手を務める。
「正解!じゃあ作業にとりかかるよ!
 それぞれ用意されている入れ物に、
 1本、花を細かくちぎって入れてね。
 終わったら、それを火で温めたらどうなるか?
 試してみよう!」


最近は花ばかり見ていて
こういう実験は久しぶりだ。

僕は右手の花を机の上に置いた。



作業をしていると時々、デルタの方から
ちぎられた花が飛んできた。

デルタは単純作業が得意な方かと思えば、
だいぶ不器用だった。

ちぎられた花は所々、
完全に切り離されずに連なっている。
入れ物に入れるときは、外に散らす。

安心して見ていられない状況だった。


「これを火にかけるんだったね?」
ブラボーは花をちぎることもせず
そのまま火を付け始めた。

こっちも安心して見ていられない。


唖然として火が灯された花を見ていると
灰になるときの「あの香り」がした。
えぐみと青臭さのある、あの香り。

更に香りに乗って
謎のオトコに似た声が聞こえてきた。

「ハナ ハ ソコニ アル」



そこにある……
僕は瞬時に嫌な予感がした。

「ブラボー、それ僕の……」

ブラボーが火をつけた花は
僕の右手に戻るはずのものだった。


「綺麗ぃ。周りが暗かったら、
 もっと綺麗なんだろうなぁ。
 ねぇアルファ、私に近くで見せてぇ」


言葉の出ない僕を差し置いて、
デルタは言った。

僕は言われるがままに
目の前にある実験用の花に火をつける。



すると、そこには僕も初めて見る花の姿が。

初めて「見惚れる」という感覚も知った。


デルタの瞳に映る、火をまとった花は
誰も知らない神秘の泉に燃える生命の強さと
火が朧げで、消えないように守りたいと思い
確かに綺麗だった。

僕は例え右手の花がなくなっても良い。

右手の花を見る1日は何も変わらないけど、
デルタの瞳を見ると1日が変わって見えるから……



僕は瞬きをして左右に首を振った。

僕が何を言っている。
実験に集中だ。


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