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「深夜にラブレターを書くな」と先生は言ったよね

「みんな、これだけは気をつけるように」

いつも含み笑いをしたような顔のその人は、授業中であることを忘れたかのように、唐突に関係のない話をし始めた。

「深夜にラブレターを書いちゃいかん。なぜなら相手は、そのラブレターを朝読むのだから」

要するに、深夜の異様に盛り上がったテンションで書いたラブレターは、日中に読むには暑苦しすぎるということらしい。

学校の帰り際に渡せば夜読んでもらえるんじゃないの?と思ったけど口にせず、そのまま話を聞いていた。

「僕はね、夜中にラブレターを書いて朝読み返したことがあったんだけど、あまりにこっぱずかしくなって破り捨てたことがあるんだよ」

教室中がドッと湧いた。「しめた」と思ったのか、その先生はにんまりと笑い、ざわつく男子をよそ目に授業を再開した。

 * * *

高専時代(私は高専という少し変わった五年制の学校に通っていた)の担任の先生は、私たちの担任になるまで企業に勤めていたらしい。名前を聞いてみると、思っていたより大きな会社だった。

しかしその先生の授業は、あまり評判がいいものではなかった。まったく関係のない話を唐突にしたり、笑えないギャグを大真面目な顔で言ったりするものだから、学生からひんしゅくを買っていたのだ。

おおらかでよく笑っている人だったが、ときどき本気で怒ることもあって、あぁ先生も人間なんだなぁなんて呑気なことを考えた。

その人が担任の先生だったのは三年間。その間に聞いた話のほとんどはもう忘れてしまったけれど、ラブレターの話だけは今でも鮮明に覚えている。

まだ10代だった私でも、妙に納得したのだ。そしてこう心に誓ったのだった。

「決して深夜のテンションで書いたラブレターを渡さない」

 * * *

もう、ラブレターの文化は途絶えてしまったかもしれない。今はみんな、どんな方法で告白するんだろうか。電話?LINE?DM?

手段は変わっても、「夜は一人で勝手に盛り上がってしまうから気をつけるべし」という教訓は生きるだろう。

LINEだって、夜中に送って朝読まれてしまったらアウト。(あ、いまは取り消し機能があるんだっけ)

これは大人になっても犯してしまう過ちのひとつだと思う。盛り上がってしまったテンションを抑えたまま朝を迎えることができず玉砕した経験、ないですか?

どんな時間にどんな状態で読まれるか分からない場合、フラットな温度感で書くのがいい。もし夜に読んでもらえるのなら、少し情熱的でもいい。

とにかくテンションの差は、温度が低い方をさらに冷めさせてしまう。どれだけ相手の温度を想像できるかが大切だ。

 * * *

“いい大人”と言われる歳になってもまだ、相手の温度感を掴めずに失敗ばかりしている私を、先生は笑うだろうか。

「ほぉら、言った通りだろう?夜にラブレターを書いちゃいかんのだ。せめて朝、読み返した方がいい」

なんて、重低音の効いた声で少し的外れなアドバイスをするのだろうか。

人間関係で上手くいかないことがあるたび、私は学生時代にもらったこの奇妙なアドバイスを思い出す。

「深夜にラブレターを書くな」

いつもズレたことばかり言ってるなぁ、と失礼ながら思っていた先生のアドバイス。今、大人になった私にじわじわと効いていますよ。

まだ、ちゃんと活用できていないけれど。


written by. ユキガオ

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