この世は幻想。
「あれは夢だった…?」
目を覚ました瞬間、さっきまで自分が身を置いていたはずの現実が夢だったことに気づく。
数ヶ月に一度、そんな朝がやってくる。あぁ、もうちょっと夢の中にいたかったなぁと、現実世界で無い物ねだり。
そんな風にして一瞬で手の中から消えてしまうのは、夢だけじゃない。
いま、LINEで他愛もないメッセージを送りあっている彼女も、明日には突然「サヨナラ」と離れていってしまうかもしれない。
いま、隣で気持ち良さそうに眠っている彼も、今夜バイバイした途端「もう会わない」と別れを告げられるかもしれない。
いま、自分の手の中にあると思っていたものが、ほろほろと崩れて手からこぼれ落ちてしまうかもしれない。
いま、なんて、なかったかのように。
ずっと続くものなんて、ない。
「永遠に」とか「これからも絶対に」なんて言葉に、意味はない。
いつかは変わるのだ。手のひらをパッと開いて見てみたら、あるはずだったものが姿を消すのだ。
人の気持ちも、モノのかたちも、色も、味も、命だって。
どんなものも、この一瞬だけがリアルであとは全て幻想だ。リアルだと思っていたその一瞬さえ、過去になった瞬間に幻想となる。
目の前で舞う花びらも、乾いた喉を通り過ぎた水も、頬を伝うひとすじの涙も。
真実だと信じ込まされたフェイクだったりしないんだろうか?
嘘偽りのないものなんて、かたく信じられるものなんて、存在するんだろうか?
いつまでもこの手のひらに残り続けるものなんて、ない。そう思うのはいけないことなんだろうか?
思わず笑ってしまうほどの寒さも、首に巻いたストールのやわらかさも、繋いだ手の温もりも、確かに感じたのに。
「あれは夢だった…?」
そんな風に目が醒める瞬間が必ず訪れる。
だから私は今日も幻想に微笑みかける。
「今日も夢を見せてくれてありがとう、またいつか会える日まで」と。
* * *
「刹那」という言葉があって、それは「きわめて短い時間、瞬間」という意味を持っている。
この世は「幻想」ではないかもしれない。(幻想かもしれない)
でも、刹那だと思うのだ。
この大きな宇宙の中で私たち人間の生きる時間なんて、ほんの僅かでしかない。まさに「きわめて短い時間」なのだ。
その一瞬に起こることに何を期待するのだろう。
私たちは、死ぬまで生きる。それだけなのに。
刹那を生きる私たちにできることなんて、たかが知れている。人類史に残るような偉業だって、人類史にしか残りえない。
だったら好きなように生きたらいい。自分で自分を幸せにしてあげればいい。
どうせいつかは終わるんだから。
written by. ユキガオ
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