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イタズラがくれた反省。

ある日突然、ボールペンの芯が入れ替わっていた。

赤と青と緑と黒とシャーペンが一本になったボールペン。会社の机の、ペン立てに立てているペンだ。赤を使おうとしたら、青いインクが出てきた。

一瞬、自分の目を疑った。脳みそがフリーズした。カボチャだと思って食べたら実はアボカドだった、みたいな感覚だ。

芯を替えることのできるタイプとはいえ、勝手に芯が入れ替わるなんて、あるはずがない。もちろん自分で入れ替えた覚えもない。

ではなぜ、赤と青の芯は入れ替わったのか?思いつく答えはひとつだった。

「誰かが意図的に入れ替えた」

だとしたら、私にこんな嫌がらせをしようと思った人が職場に存在する、ということになる。中学生のイジメじゃあるまいし、いい大人がこんなことするなんて、それなりの恨みに違いない。

そう考えた瞬間、ある出来事を思い出した。怒ったことだ。私が、同じ職場の人に対して。きっかけは些細なことだった。「それはマナー違反では?」と思うことを、その人が立て続けにやったのだ。何度かぐるぐる考えてみた結果、「指摘すべき」と結論づけた私は、その人に注意した。

しかし、ただ注意しただけならまだいい。問題は、私が感情的になってしまったことだ。基本的に会社では感情的にならないよう気をつけてきた。それなのに、その時ばかりは私も頭にきていた。その人のマナー違反は、私にとって「迷惑」だと感じていたからだ。

ああ、あの人はそれを恨んでこんな嫌がらせをしたんだな、と納得した。嫌がらせ自体は悲しかったけれど、自分でまいた種だな、と。

それから私は「会社では二度と感情的にならない」「怒っても表には出さない」ということを徹底するよう心に決めた。

* * *

その深い反省をした数日後、隣の席の先輩が思い出したように「そういえば、ボールペンの芯が入れ替わってなかった?」と聞いてきた。

自分のあの反省を見透かされた気がした私は「え、何で知ってるんですか?」と、うろたえながら聞き返した。そんな私を見て面白そうに先輩は言った。

「それね、○○がこないだやってたんだよ」

職場で割と仲のいい後輩の名前が出てきた。その後輩は、年の近い私をからかって遊ぶのが好きで、よく冗談ばかり言ってくる。根は真面目でいいやつだと分かっているから、お互い気を許している関係だ。

私は愕然とした。なんだ、いつものイタズラだったのか…。悪意の嫌がらせなんかじゃなかった。別に恨まれてなんか、なかった。(いや、いつか刺される可能性はあるかもしれないけれど)

深く深く反省した私の時間を返してくれ、と言いたくなった。だけど、このイタズラがなければ私はあの出来事を反省することもなかった。

可愛い後輩のイタズラが、私に反省の機会をくれたんだ。そう思うことにしよう。

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