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「ケンカするほど仲がいい」なんて、信じてないけどね。

「あぁ、頭が割れそうだ…」

このまま内側から脳みそが飛び出して、私の頭蓋骨をつきやぶって出てくるんじゃないか?そしたら私はそのまま死ぬんだろうか…

偏頭痛持ち特有の、突き刺すような頭の痛みで目が覚めた。眠りたいのに、痛くて痛くて体を横たえることすらできない。

そうだ、薬だ。いつもの頭痛薬を飲まなくちゃ…

頭では分かっていても、もう体が動かせない。「いっそこのまま脳みそが破裂してくれればいいのに」と自分の持病を呪いながら、ベッドでうずくまったまま痛みをこらえていた。

 * * *

仕事の都合で数ヶ月だけ実家に戻ることになった。慣れない職場で慣れない仕事。人間関係は悪くなかったけれど、ストレスであることに変わりはなかった。

実家で生活するのも6年ぶりだった。6年も家を離れれば、当然私がいた形跡はほとんど残っていない。

それでも母は、かつての私の部屋を用意しておいてくれた。勉強机は、私が20歳まで使っていたものがそのまま置かれている。

ただ、壁に貼られたポスターや机に並んだ漫画は、もう私のものではない。私が家を離れてからは、弟がその部屋を使っていた。

自分の匂いがしなくなった家で、私はしばしの実家暮らしに戻った。

 * * *

弟とは年が二つ離れている。いや、「二つしか離れていない」と言った方がいいかもしれない。

気の強い姉と、やんちゃな弟。一緒に家にいると、ケンカが絶えなかった。小学生くらいまでは、殴り合いのケンカもしていた。今思えば私もたいがい、やんちゃだ。

弟が高校生になると、もうほとんど話すこともなくなっていた。ケンカにすらならない。

「小学生の頃はあんなに丸々と肥えて、可愛らしかったのになぁ」

と懐かしむくらいには、弟も変わっていた。すっかり痩せて、顔にはニキビ跡と細く剃られた眉。耳には大きなピアスの穴が開いていた。

もし他人だったらその見た目に怯んだかもしれないが、弟に対して「怖い」という感情を抱くことは一切なかった。

話すことは少なくなっても、動物が好きで母親が好きで、そして姉のことが好きな心優しい子であることに変わりはなかったから。

 * * *

「どがんしたと?」

夜中に目が覚めベッドでうずくまっていた私に、気づいたらしい。弟が部屋の前にやってきて、そう尋ねた。

「頭痛い…」

なんとか声を絞り出して、自分の状態を伝える。弟が来たところで頭痛が治まるわけではないが、誰かがこの辛さを知ってくれるだけで心強い。

「大丈夫?」

「いや…」

私の声を聞いた弟は、そのまますたすたと去っていった。

なんだ、違和感の正体が分かったから安心したというのか。姉が「大丈夫じゃない」と言ってるのに、それはあんまりに冷たい対応じゃないか。

そんなことが頭に浮かんでは消えていた。そのとき、

「はい、これ」

再び弟が戻ってきた。手に持ってきたのは、いつもの頭痛薬とコップ一杯の水。

あぁ、そうか…これを取りにキッチンに戻ったのか…!

ぎりぎりと痛む頭でも、弟の考えたことはすぐに分かった。驚いた私は、小さな声で礼を言う。弟はまたすぐに戻っていった。

コップに口をつけ、冷たい水を一口含む。そのまま頭痛薬と一緒に流し込んだ。

「すぐに部屋から出ていってくれてよかった…」

嬉しさと安堵からぽろぽろと涙をこぼす情けない姉の姿は、弟には見せたくなかった。


written by. ユキガオ


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