人生で一番気持ちの良い買い物をした話【奥山メリヤス】
4月5日(金)9:24東京発の東北新幹線に乗り込み、エンドウダイキとぼくは山形に向かった。
いつの間にか、新幹線は7分ほど遅れていて、乗り換え予定だった左沢線に乗れるか怪しくなった。(あてらざわ線と読みます。)
遅れを詫びるアナウンスが流れ、山形駅に到着。一つホームを挟んだ先に止まっている左沢線を見つけ、若干焦りながら、小走りで改札を抜ける。
左沢線左沢行き、通称フルーツライン(業nariwaiの山下さんがそう呼んでいた)はぼくたちの乗っていた、遅れた新幹線のことをしっかり待ってくれていて、無事、乗車することができた。
そこから、30分ほど揺られ、寒河江駅に到着。
バスもあるそうだが、歩いて目的地へ。
20分ほど歩き、途中、若干道を間違えつつも、到着。(そんな難しい道のりではありません)
そう、ぼくたちが今回訪れたのは山形の老舗ニットメーカー、奥山メリヤスの工場。
ぼくがこのnoteで書いた、モノの生産工場をめぐるツアーの企画が一歩進んだのだ。
もともと、モノ(服など、ファッションに関わるモノ)の生産工場を見学して、どうやってモノが作られているのかだとか、どのような機械が使われているのだとか、どんな人たちが作っているのかなどを知りたくて、感じたくて、自分の目で見たくて。
そしてそれを自分たちの中で終わらせるのではなくて、多くの人とツアーという形で共有できたら、モノに携わる多くの、そしていろいろな人たちが幸せになれるんじゃないかと思い始まったこの企画。
ツアーとして企画実行する前に、まずは自分たちの目で見てこよう、感じてこよう、知ろう、ということで、今回、奥山メリヤスの工場見学をさせていただきに、山形、寒河江まで来た。
ある方を通じてコンタクトを取らせていただき、お忙しい中ぼくらの工場見学を快諾してくれた奥山幸平さん。
奥山さんは、奥山メリヤスの三代目工場長であり、2013年にファクトリーブランド「BATONER」を立ち上げた方。
ご挨拶含め、まずはぼくたちの活動の簡単な紹介。
そして工場内を見学させていただく前に、奥山メリヤスのことについて色々とお話を聞かせていただいた。
そして、話を聞いていく中で、奥山さんの口からこんな言葉が出た。
「生産工場を取り巻く環境、現状は非常に厳しいです。」
この事実は、なんとなく、知ってはいた。たぶんぼく以外の多くの人も認識しているんじゃないかと思う。たとえば、人件費の安い東南アジアでの生産が増えて、日本での生産量が減っている、作り手の高齢化が進んで受け継ぐ人がいない、など、こういった情報がテレビや、ネットなど、何かしらの媒体から流れてぼくらのもとへ届き、頭の中にはその事実は事実としてだけ、認識されていた。
そしてだからなんだと言わんばかりに、結局いままでは、店頭できれいに陳列されている商品(モノ)をかっこいいな、良いな、と思い手に取り、身に纏う。それが当たり前だった。というかそれ以上のものがあるなんて知らなかった。
だけど、この日ぼくが奥山メリヤスに滞在した2時間半はそんなぼくのモノへの認識を変えることとなった。
奥山さんは続けて色々と話してくれた。
「生産現場は、原料の価格の高騰、生産数量の減少という板挟みの状態。原料の価格は高騰するけれど、ブランド側に卸す値段は変えられないんです。例えば昔は1000枚など、大きいロットでの注文を受けることができていたけれども、今では極論、50枚ずつの注文などという小ロットでの注文が多い。一枚のニットの型を起こすのにかかるコストは高くて、1000枚のニット1型作るのと、50枚のニットを20型作るのとでは同じ枚数でも、かかる費用は大きく変わります。だけれども、卸す値段は変えられないという現状があります。」
「自分たちがいいと思っているものを作りたい。けれども、OEMでの生産では必ずしもニットについて熟知している人たちから注文をいただくわけではないんです。そういう方からの注文だと最終的にいいアウトプットにはならないし、また、自分たちが良いと思えるものをこちらかは提案できないというもどかしさがあります。また、昔はニットについて詳しい方々がいて、そういう人材を育てる環境もお金も時間もあったんですが、多くの方が現役を退いてしまっていたり、そのような人材を育てる環境もないんです。」
「ローゲージのニットと、ハイゲージのニットではローゲージのニットの方が値段が高いですよね。それは使われている糸の量がローゲージのニットの方が多いからなんです。けれども、実際の作業工程では、ハイゲージのニットの方が作るのは大変で、その実際の作業者の労力というのは価格には反映されないんです。そのモノの、物資、モノとしての価値にしかスポットライトは当たらないというのが現状です。」
「BATONAERの立ち上げには多くの方に反対されました。こんな大変な時に何言ってんだって。だけどやらなきゃいけないと思ったんです。自分たちがいいと思うものを世の中に発信していなかないと、このニットはそのうち作れなくなってしまう。ぼくたちだけじゃない、このニットに携わる人たちの想いを、技術を届けていかなきゃいけないって。」
「もともとこの辺一帯にはニットの生産工場だけで200ほどありましたが、今では10に満たないんです。」
「このままだと本当に良いものをつくることができる現場がなくなってしまいます。」
「ぼくらは生き残っていかなきゃいけないんです。」
奥山さんの口からは、ぼくがまったく知らないことから、知っているけれどもわかってはいないことまで、多くを語ってくれた。
これらの奥山さんが言った、工場が抱える問題や、ファッション業界の課題は、なにも奥山メリヤス、BATONERに限った話ではない。近くの関係する紡績工場や、ほかのニットの生産工場も含めての話だ。
そして、生き残っていくというのは、ほかの工場に打ち勝つ、というわけではなくて、良いものを作ることができる文化を、技術を、環境を、人を生き残らせていくこと。
自分たちが良いと思うものを残す、世に出していくことへの熱量。
奥山さんは淡々とした口調ながら多くの想いを話してくれた。
そして、
「今日はそんな状況の、生々しいニットの生産工場、現場を見ていただきます。」
実際の現場へぼくらは足を踏み入れた。
工場内の見学は撮影も含めて約1時間ほど。すべての工程を見学させていただくことができた。
各工程の説明に関しては、このnoteではしない。
その代わりに、nariwaiの山下さんのこのブログを読んでほしい。すべての工程については触れてはいないけれど、わかりやすく丁寧にいくつかの工程について触れてくれている。(ちなみにこの山下さんのブログは奥山メリヤス工場見学の企画のきっかけのひとつだ)
写真を見ていただくとわかるが、最終的に素晴らしいアウトプットになり、袋に包まれるまで、多くの人の手が関わっている。
そして、恐ろしいほどの枚数のニットをとてつもない集中力で(作っているニットは自社ブランドのBATONERだけじゃなく、OEMで作っているものもある。)、熟練の手つきで、多くの人の手で、地道に、それでいて精巧に、完成に向かって作られている。
その作業がすごいんです!大変なんです!
ということをこのnoteで書きたいわけじゃない。
これだけの人の手が、この場所で、この人たちによって、こういう作業が行われて、素晴らしい一枚のニットができるということがまず事実としてあること。
そしてその事実をこのぼくのnote、あなたのスマホから知るだけじゃなく、その場所で、同じ空気の中、体感する、ということは、自分の消費への意識を変えるかもしれない、ただ、そのモノを買うだけじゃなくなるかもしれないということ。
つまり、この場所に来て、一緒に見て、聞いて、知って、体感してほしい。
といってもぼくは正直まだこの工場見学を終えたばかりの時は、非常に濃密な時間を過ごさせてもらい、多くの情報、想い、考えが頭の中を駆け巡り、なんだかふわふわしている状態だった。
だけど、この後行った場所でぼくは、「この場所に来て、一緒に体感してほしい。」と思った。
奥山メリヤスの工場見学を終え、奥山さんに車で寒河江駅まで送ってもらった。(お忙しい中本当にありがとうございます。)
車の中でも、オフレコで話せないことなどを話していただいたり、BATONERの立ち上げの話を話してくれたり、最後の最後まで貴重な時間だった。
送ってくれた奥山さんを見送り、ぼくらは寒河江駅から山形駅まで行き、そこから高速バスで仙台へ向かった。
バスを降り、向かった場所は、
仙台駅から歩いて15分ほどの場所に位置する「業nariwai」
店主の山下さんが笑顔で迎えてくれた。
ここにはぼくらが見てきた奥山メリヤスで生産されていたBATONERをはじめとする日本のブランドや、海外で買い付けてきた古着がnariwaiらしい?山下さんらしい?セレクトで置かれている。(nariwaiらしいセレクトとはなにかは山下さんに直接聞いてください。笑)
また、同じフロアの中には睛工堂というヴィンテージアイウェアを取り揃えた眼鏡屋さんがある。
奥に見えるのが睛工堂さん。
ぼくは山下さんとは初対面だったので、初めまして、とご挨拶。いつも読んでいるblogで感じていた印象よりポップで、軽やかな方だなぁと思った。(もちろん素敵な方という意味)
そしてダイキくんが山下さんと話している中、ぼくはいてもたってもいられず、BATONERを探した。
広くて、什器の配置が素敵な店内を歩きまわり、窓際のハンガーにかかったBATONERをみつけた。
実際にぼくらが工場で見て来た工程を経て出来上がったモノがそこにはあった。
いくつかある中で、2種類のニットカーディガンを試着。だいきくんと交代交代でそれぞれを着る。(仲良しか)
二人して唸る。かっこいい。良い。
でもそれだけじゃなかった。
もちろん、そのモノの工場見学をしても、しなくてもそのモノのクオリティ、質としての良さ、というのは変わらない。
けれどもnariwaiでBATONERを手に取り、纏ったときぼくは、
モノだけを纏っている気がしなかった。
「今日見てきたと思うんですけど、あのリンキングという工程はこのニットのここに施されているんです。」
山下さんも奥山メリヤスの工場を見学したことがあるので、ぼくらが見て来たことを話すと、同じ熱量、もしくはそれ以上の熱量で返してくれる。そしてぼくらがしらなかったことまでいろいろと教えてくれる。
BATONER以外のいくつかのアイテムも試着させてもらい、ぼくらは試着を終えた。
エルボーパッチの絶妙な具合、ハイゲージで少しシュッとしたきれいな雰囲気、体に馴染むシルエットのニットカーディガンにも引かれたが、
シルクの着心地、だけど繊細過ぎない雰囲気、少し大きめなシックなボタン、ゆるすぎず、だけどリラックスしたシルエットのニットカーディガンをぼくは買うことにした。
このときの、感覚、感情、想いは、いままでしてきた買い物とは全く違った。
奥山メリヤスについて、奥山さんから直接対面で想いを聞いて、実際に工場内の作業工程、作っている人を見て、その場を体感し、その足でその奥山メリヤスで作られたニットが置かれているお店に行き、店主の山下さんと同じ熱量で一枚のニットについて会話することができ、最高の一枚のニットがぼくの手の中にある。
はじめての感覚だった。
人生で一番気持ちの良い買い物をした。そう思った。
そして、ぼくだけじゃなくて、多くの人にこの体験をしてほしいと思い、
ツアーとして企画することへの想い、熱量もより一層上がった。
もちろんツアーを企画している話も奥山さんにした。あまり多くの人数を連れて行くことはできないかもしれないが、奥山さんとしてもぜひ!ということだったので、今年中に実現できるように今まさに動いている。
このように、モノを買うだけじゃなく、想いを、作られている現場を体感し、同じ熱量で会話ができるお店で最高のモノを買う。
こういう体験をする人を増やしていくことは奥山さんが語った厳しい生産現場が変わる、変えるきっかけを多く作ることができるんじゃないかと思う。一人、二人とこの現場でその想いを体感した人が増えていき、それが伝わって日本の生産工場の現状を知ってるだけじゃなくて、体感している人が少しでも増えたり、何かアクションを起こしたり。
そしてそれだけじゃなくて、本当にそのモノが好きな人が増えていくんじゃないかと思う。ずっと大事に、そして思い出のある一枚のニットを着る。そのブランド、モノを愛する人が増えれば、その技術や、場所や、人が必ず必要になる。
そうやってモノを纏う人が増えていけば、作り手も、売り手も、ぼくたち消費者、モノを纏う者も全員が幸せになっていけるんじゃないかと思っている。
こうやって書くと、なにかすごい覚悟をもってその場所に行かなきゃいけないんじゃないかと思われてしまいそうだけど、結局ぼくが言いたいのは、今回ぼくがした買い物は人生で一番気持ちが良かったよ、ということ。
ということで、
今度は一緒に奥山メリヤスに行きませんか?
p.s. エルボーパッチが付いたニットはだいきくんが買いました。笑