【朝パル】少女を虐待地獄から救ったのは、1人の空き巣『ひとくず』感想&舞台挨拶
皆さんは児童虐待の実態について知っているだろうか?私はどのようなことがされているのか、詳しくは知らなかった。でもとある映画を観てから、考え方が変わった。その映画は『ひとくず』。今作は全て関西で撮影され、世界の映画祭で複数の賞を受賞している。
新開地の名画座・パルシネマしんこうえんさんで実施されているモーニングショー『朝パル』。そのラインナップに入っていたことから鑑賞。恥ずかしながらパルで観るまでは知らなかったのだが、一人でも多くの人にこの映画を観てほしい。それが観終わった後、思ったことだった。多くの人に伝えるために、まだ観ていない人への簡単なイントロダクションも感想の前に付け加えておく。
2021年8月10日(火)には、監督/脚本/編集/主演/プロデューサーの上西雄大さん、鞠の母親役の古川藍さん、カネマサの母親役の徳竹未夏さんをお招きした舞台挨拶がパルシネマで行われた。快く写真とお話された内容の掲載許可を頂いたので、それも併せてご覧いただきたい。
■『ひとくず』を観ていない人へ
【ネタバレなし】の導入
食事も与えられず、電気も止まった真っ暗な部屋に置き去りにされた少女・鞠。日常的に母親の恋人から虐待を受けていた。手には煙草の、胸にはアイロンの火傷の跡が残っていた。彼女が1人で家にいる時、泥棒が入る。そのことで彼女の生活は変わろうとしていた…。
《監督&キャストの舞台挨拶》
『ひとくず』にかける熱い思いを話す、監督/脚本/編集/主演/プロデューサーの上西雄大さん(写真・中央)、鞠の母親・北村凛役の古川藍さん(写真・左)、カネマサの母親・金田佳代役の徳竹未夏さん(写真・右)
※以下の内容は上西監督のお話をまとめたもの
■コロナとバッティングした公開
2020年3月から公開が始まった今作は、新型コロナウイルス感染症の流行とバッティングしてしまいました。半年公開を遅らせてでも、たくさんの人たちに観てもらいたい!劇場で上映するまで走り切る!という強い気持ちで作りました。
■『ひとくず』製作について
▷一晩で書き上げた脚本
児童虐待の専門家の話を聞いて、脚本を一晩で書き上げました。エチュードのように「鞠の台詞は鞠の気持ちで書く」のが私なりの書き方です。脚本を書いているときは、虐待をする人たちへの「怒り」が込み上げてきましたが、映画を作っていくうちに「虐待されている児童を救いたい」と思うようになりました。今作から、力を持った正しい親が、子どもを正しく社会へ導いていくことが大事だということを学びました。
▷児童虐待をエンタメに落とし込む
『子宮に沈める』のような映画を作っても、重すぎて距離を置かれるかもしれない。児童虐待を描きつつも、家族の温かさや愛情を大きなテーマにしました。そうすることで、考えさせられることはたくさんあるけれど、温かい気持ちで映画館から帰ることができる作品にすることができたと思います。
▷ディレクターズ・カット版
この映画には、カットしたシーンがあります。今年の秋にでもディレクターズ・カット版が上映できたらと考えています。
▷映画『ひとくず』と共に…
『ひとくず』に一生向き合いたいと思っています。リメイクしたり、舞台にしたり、低予算で妥協したところを進化させていくことも考えています。
■”カネマサ”という”ひとくず”
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
カネマサは幼少期に虐待を受けていた過去を持っています。そして彼の中には「怯え」という感情がずっとあります。自己防衛のために暴言を吐いたり、暴力をふるったりしています。母親を恨むしか「怯え」を乗り越えられないのです。そんなカネマサも鞠を救うことができ、ラストシーンではアイスを持った母親・佳代と再会し、彼女を許します。この瞬間にカネマサは救われたのです。虐待を受けていた子供が親になると、愛情の注ぎ方が分からず、虐待をしてしまう。その負の連鎖を止めることが何よりも大事なことです。たとえ虐待をしていたとしても、子供への愛がゼロということはないと思います。自分を許し、自己肯定感を高め、虐待をした親を許すことが必要です。
■撮影小話
▷アイスクリーム
「アイスを食べたら嫌なこと全部忘れられる」と鞠に話すカネマサ。彼は少年時代、母親の恋人から暴力を受けた後、母親からアイスを与えてもらっていたというバックボーンを持っている。これは父親が怒った時、母親にアイスを買いに行かされたという上西監督のエピソードがもとになっている。劇中で使われたアイスクリームは「Haagen-Dazs」ではなく「Happy Days」にラベルが変えられている。カップラーメンも同様。
▷ラストシーン
全編は冬に撮影されていたが、ラストの出所後のカネマサが鞠と凛につれられた母親・佳代に会うシーンは春。青空につなげるために、唯一ドローンで撮影がされている。撮影された場所は上西監督の実家の近くで、実家にはコンビニのようにアイスが完備されているのだとか。
■『ひとくず』をご覧になった方へ
一人でも多くの人に『ひとくず』を観て頂きたいと思っています。そのために友人や知り合いに勧めたり、SNSで拡散したりしてもらえたら嬉しいです。
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《『ひとくず』の感想》
※ここからは私の感想!【ネタバレあり】
■朝からすごいものを観た!
朝パルで観た『ひとくず』。朝からとんでもないものを観た。根性焼きのシーンなど、辛すぎて思わず目を背けてしまったシーンもあったが、ストーリーが素敵なので良い気持ちで帰ることができた。児童虐待を描きながらも、重すぎない。このバランスの良い脚本の構成が好きだった。
■カネマサ
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
▷自分の過去と重ねて…
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
鞠の家に空き巣に入った時、状況を見てカネマサは虐待の事実を悟る。そして食事を与えられないことやたばこを押し付けられた火傷など、過去に自分が受けていた虐待がフラッシュバックする。カネマサはしっかりとタバコを押し付けられたり、何度も殴られたりする場面がある。鞠の虐待シーンは描かれない。アイロンやタバコによる火傷や傷跡のみ。だからカネマサの視点で鞠を観ることができ、私たちも「救ってあげたい!」と思うようになる。
▷鞠を救ってあげたい…
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
鞠に食事を与え、カギを壊し、部屋を片付け、銭湯へ連れて行ったカネマサ。空き巣をしているのだから経済的に裕福ではないはず。しかし鞠の服一式買うときも惜しまずにお金を払っていた。鞠のリクエストでラーメンを食べに行き、一緒に観覧車にも乗った。自分が親に「して欲しかったけどしてもらえなかったこと」を、鞠に「してあげている」のだろうなと思うと素敵。
▷本当の≪家族≫へ
カネマサが鞠と鞠の母親・凛を連れて焼肉を食べに行く場面で、カネマサが泣き出してしまう。焼肉屋を経営している上西監督が「家族で食べる焼肉屋が一番温かいひと時で、その温かさに触れたらカネマサは泣き出してしまうのではないか」と考え、追加されたシーン。鞠役の希良梨さんは初めて見たカネマサの涙を見てリアルに反応、演技している(パンフレットより)。このシーンは皆が家族らしくて、カネマサからもらい泣きしてしまった。凛は鞠に向き合うようになり、やっと≪家族≫のようになっていく。鞠に笑顔が増えてきて、良かったと思いながら観ていた。しかし鞠の父親になろうとしていたら、逮捕。しかも鞠の誕生日の日に。凛の恋人を殺めた罪なのだが、これは鞠を守るためにやったこと。鞠にとっては「やっと父親ができる!」と思っていた矢先の出来事。悲しむのはいつも子供なのが辛い。面会はずっと断っていたのがカネマサらしい。
■虐待を受けている少女・鞠
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
▷演技が凄い!
鞠を演じたのは小南希良梨さん。彼女の演技力は10歳とは思えない。上西監督が彼女の選考理由に「一番お芝居が上手かった」と挙げるほど。『ひとくず(英題:KANEMASA)』では、第2回熱海国際映画祭で最優秀主演俳優賞受賞、第5回賢島映画祭最優秀主演女優賞受賞、第6回ミラノ国際映画祭で主演女優賞ノミネートと、国際的に評価されている。個人的に今後の活躍が楽しみな女優さんのひとり。
▷虐待をされても、ママはママ
電気の止まった食べ物もないに閉じ込められ、連れてきた恋人にアイロンを押し当てられたり、暴行を受けたりと愛情を注がれずに育てられた鞠。しかし彼女は、母親を愛していた。誰かが凛を殴ろうとすると「やめて!!」と言ったり、凛の言うことは聞いたり…。どんな人であっても、どんなことをされても、母親はこの世でたった一人。だから凛がこれまでのことを鞠に謝罪し、「母親になろう」と決心したところで安心した。鞠がやっと救われた。
■深みのある脇役たち
木下ほうかさん、工藤俊作さん、堀田眞三さん…。豪華キャストが脇役を演じている今作。その中でも特に好きだった2人のキャラクターを紹介。
▷カネマサを追ってる昭和の刑事《デカ》
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
カネマサのことを昔から知っている桑島刑事。手口を見てカネマサだ!と分かり、競馬場ではすぐに彼を発見。事情を知ると就職先まで手配してくれた。カネマサが逮捕される時も、鞠へのプレゼントだけは渡してあげるという情けまで。上西監督は「映画でこういう人情派の刑事が出てくると救われるような気分になるし、出演させたいし、僕も演じたい」と話す(パンフレットより)。カネマサの理解者である桑島刑事の演技には痺れた。
▷前科持ちの社長さん
画像引用元: 『ひとくず』公式サイト
(https://hitokuzu.com/trailer/)
桑島刑事の紹介でカネマサが就職した運送業者の社長。彼には誰にも言えない前科≪マエ≫があり、カネマサのことを歓迎する。役所広司さん主演の『素晴らしき世界』では、前科のある人が就職時に採用されにくく、社会復帰しづらい現実を見た。だからこういう温かい雰囲気がとても好きだった。
■主題歌「HITOKUZU」
吉村ビゾーさんが歌う主題歌『hitokuzu』。作詞は監督/脚本/編集/主演/プロデューサーの上西雄大さんが手がけた。エンドロールでこの曲が流れると、余韻に浸りながら、色々考えさせられた。映画を観た後なら歌詞が刺さる。曲だけでストーリー思い出して泣いてしまいそうだ。
■舞台挨拶後…
舞台挨拶終了後、パンフレットにサイン、なんと写真まで!このパンフは宝物。聞きそびれた質問にも快く答えて下さった。映画の役とは異なり、気さくに話しかけて下さった。キャストの方々とお話するのは初めてで貴重な体験だった。お話を聞いた今、もう一度見返すとまた違った見え方がするのだろうな。朝パルで上映がなければ出会わなかったかもしれない『ひとくず』。パルシネマさんに本当に感謝!
『ひとくず』は今年観た映画のベストに確実に入る!それくらい良かった。少しでも気になった方は、是非ご覧いただきたい。「観て良かった!」と思い、誰かに勧めたくなるはず。
『ひとくず』が一人でも多くの人たちに届きますように…!
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