pmconf2023登壇【プロダクトマネジメントで高速PDCA】アウトカムが激増したLIFULL HOME’Sのグロース事例
※この記事は 2023/11/29 に行われたpmconf2023で水野が登壇した「【プロダクトマネジメントで高速PDCA】アウトカムが激増したLIFULL HOME’Sのグロース事例」の講演内容を再編集したものです。
講演内容
LIFULLについて
みなさん、はじめまして。
LIFULLの水野です。
日本最大級の不動産・住宅サイト「LIFULL HOME’S賃貸」のプロダクト責任者と、プロダクトマネージャーをしています。
私たちLIFULL は、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げ、「LIFULL HOME’S」以外にも介護や地方創生など、さまざまなサービスを展開しています。
「LIFULL HOME’S賃貸」では、特許取得で他のポータルサイトにはない機能、例えば間取り図を3Dに起こして部屋をウォークスルーできたり、通常ですと「必須」しか設定できない条件の絞り込みが、「できれば」というあいまいな条件でも絞り込みできるといった、希望の物件に出会いやすくなる機能もあります。
ユーザーにとって使いやすいプロダクトになるよう、日々開発をしています。
本日はこの3つのアジェンダでお話します。
LIFULLが取り組むプロダクトマネジメント
まず、「LIFULLが取り組むプロダクトマネジメント」です。
LIFULLでは、プロダクトマネジメント導入後、アウトプットとアウトカムが激増しました。
こちらの数字は、同程度のチーム規模における、プロダクトマネジメント導入前後半年で比較したものです。
市場学習回数、仮説検証した数は1.5倍
施策成功率、ABテストをして勝った割合は、2.8倍
創出コンバージョン数は10倍
になりました。
これはやってみた私たちにとっても、驚きの結果でした。
なぜこういうことが起きたのか、どんな取組をしたのか、を今からお話していきます。
プロダクトマネジメント導入以前は、プロダクト開発におけるこのような「あるある」がLIFULLにもありました。
ちょっとした機能開発にものすごい時間がかかったり
チャレンジできず守りの状態になってしまったり
裁量を感じられずプロダクトチームの意欲が低下したり
トップダウンで何かがとんできたりと
そんな課題が発生していました。
この課題を解決するため、私たちは、
「顧客に価値を提供し、ビジネスとして利益を出す」という組織になるために、プロダクトマネジメントに取り組む、と決めました。
「INSPIRED」という書籍を教科書として定め、大きくこのように変えました。
開発プロセスでは、
従来ですとウォーターフォール開発のような役割分担をしていたのが、サービス企画、エンジニア、デザイナーが上流から三位一体で連携していくようになり、
プロダクトチームへの権限移譲としては、
以前は施策ごとに、組織のマネージャーが承認し、開発メンバーを都度アサインしていたのが、最初にチームミッションと目標となるアウトカムを定めた上で小さなチームを結成し、どの施策をやるかや、アサインもチームに権限移譲しました。
また、プロダクト開発として重視するものとしては、
従来はリリース、アウトプットを重視していたのが、アウトカムを重視することに決めました。
今日のセッション名にも入っている「高速PDCA」についても触れさせてください。
私たち独自の視点で取り組んでいることとして、「市場学習回数の最大化」があります。「市場学習」とは、言い換えるとPDCAをまわすとか実験をすることです。
ネットフリックスやAmazon、Google社等は年間で数千回や数万回、実験をしているというデータがあります。
それぞれの実験を高速化すると、1%未満のリフトであっても、複利の考え方でたとえば 毎日1%近く成長していたら、1年後は37倍近くなる、という考え方があります。
この考えにしたがって、いかに回数を増やせるかに取り組んでおり、まず年1000回を目指しています。
また、「リリース数」や「PDCA数」ではなく、「市場学習回数」とあえて名付けているのには意味があります。
それは、ユーザーとの対話が必要だと考えているから、「市場」という言葉を使い、たとえABテストをして負けたとしても、それは失敗ではなくすべては学びにつながるので、「学習」という言葉を使っています。
アウトカムが激増した、
「課題発見からアウトカム創出までの5つのステップ
次は、アウトカムが激増した、
「課題発見からアウトカム創出までの5つのステップ」についてです。
LIFULLでは、プロダクトマネジメント導入に合わせて、ユーザーの行動をより理解するために「アナリティクスの刷新」も行っており、プロダクトアナリティクスツールを導入しました。
導入後の一番大きな変化として、「課題発見の方法」が変わりました。
以前はアクセス解析ツールを使用していたのですが、このツールは、施策出しの観点が、「最終コンバージョンを上げる施策」になります。
そうなると、問合せフォームや問合せボタン等、コンバージョンに近い課題をやりがちで、施策の幅がなかなか広がりませんでした。
また、ユーザーがどのような行動を何回すると重要指標が上がるかという、いわゆる「マジックナンバー」に関しても見つけづらかったです。
そして、ある施策をやってうまくいかなかったら、次の課題解決にうつってしまい、施策が単発になりがちでした。
それが現在、プロダクトアナリティクスを導入したことで、施策の観点は「最終コンバージョンに圧倒的に貢献している手前の行動を上げる」に変わりました。
手前の行動はたくさんあり、施策の幅が広がりますし、「この行動をしているユーザーの体験を向上させるには」といった視点で案出しをするのがとても考えやすいです。
もし「手前の行動」が期待通り動かなかったとしても、プロダクトアナリティクスでその行動周辺の分析がすぐにできるので、知見を得られ次の仮説を立てやすいということも特徴的でした。
みんなもう、「過去には戻れない、戻りたくない」と言っているくらい、劇的な変化です。
このプロダクトアナリティクスを活用した、課題発見からアウトカム創出までには、こちらの5つのステップがあります。
具体的に見ていきます。
最終コンバージョンに圧倒的に貢献している「手前の行動」を特定するには、私たちが使っているプロダクトアナリティクスツールですと、エンゲージメントメトリックスという機能を使って簡単に導き出すことができます。
この図のように、コンバージョンした人がその前にしていた行動がたくさん表示され、MAUと平均実行回数がわかるようになっています。
この中で、ユーザー行動と結びつけながら、取り組む行動を決めます。たとえば、「問合せフォーム閲覧」という行動がこのメトリックスの中にあったら、「これは当然だよね」で検討から外したり、「この行動はユーザーテストでもよく見るし、確かにこの行動が増えたらユーザーは希望物件が見つけやすくなるかも」なんて会話をします。
今日は具体的な事例でお話したいのですが、実際の行動名をお話しするのは社内情報の取り扱い上難しいため、特定した行動名を「行動A」と名付けて、説明をしていきます。
次のステップが、各種調査・分析です。
伸びしろの確認としては、
行動Aをするとしないとで、最終コンバージョンへのCVRがどれくらい違うのかを調べると、「5倍も違う」ことがわかったり、
今行動Aをしている人の割合を調べると、「3%しかない、少ないな」ということは、伸びしろがとてもある行動、とわかります。
また、ユーザー理解を深めるために、行動Aはどのページでよく発生しているのかを確認し、「4箇所くらいあるけど、ボリュームがあるのはページCとDだな」を把握します。
行動Aをしている、過去のUXリサーチ結果を探しに行き、ユーザーの観察をします。「このあたりで迷っているのか」「このタイミングでよく行動Aをしているんだな」を定性的にも確認します。
最後、過去の社内施策を探しに行き、「そういえば、以前も似たような施策をしたはずだけど、結果はどうだったのかな」「前回は行動Aの数は増えたのに、最終コンバージョンは減ったのか、どうしてだろう?」と深掘りしていきます。
次は、3職種で仮説立てをします。
得られたデータ・分析を元に、こんな会話をしていきます。
「前回最終コンバージョンが減ったのは、行動を促すタイミングが悪かったからかも、だから今回はこういうタイミングでやってみよう」
「このページでは他にも重要な行動があるから、その行動を阻害しないようにするにはどうしたらいいか」
また、話しているうちに、「ここの数字はどうなっているんだっけ?」といった疑問も出てくるので、その場でさっと求めたりもします。
このような形で、エンジニア、デザイナー、サービス企画、それぞれの職能観点でアイディア出しをワイワイとしていきます。
ここで冒頭お話したプロダクトマネジメントが生きてくるのですが、3職種で上流から会話をしているので、アイディアの幅も広がりますし、その後の動きがとても早いです。
例えば、デザイナーが「さっき話していたのは、こんなイメージで合ってる?」とデザインをすぐ作ってくれたり、エンジニアが「仮実装してみたけど、動きのイメージはこれでいいかな?」とスピード感ある進め方ができます。
上流から、同じ課題を定量・定性的に共有できているからだと思います。
この後、ABテストを実施します。
ここからは、ABテスト完了後の行動です。
最終コンバージョン
狙っていた、手前の行動
その他関連指標
を確認します。
この施策は、手前の行動Aは+10ポイント、最終コンバージョンも+2ポイントアップし、ヒット施策になりました。
このときに、どんな深堀をしたかというと
「今回は、行動Aについて、0回→1回目の行動、初回行動を動かせたから10ポイントも上がったんだな」
「他のエンゲージメントの高い行動も併せてアップしてるね」
ということがわかりました。
なお、今ご紹介したのはうまくいった例ですが、逆に「手前の行動」は上がるが、最終コンバージョンは下がってしまうことは、とてもよくあります。
この場合も、深堀りすると、見えてくることがあります。たとえば、セグメント別に見ると、特定のユーザーには悪影響だったから、全体数字も悪くなってしまったんだ、といったことがわかり、「次はこれらのユーザーにとって良い体験になる施策を考えよう」というように取り組んでいます。
最後に、3職種で次につなげる動きです。
実は、ABテスト中も、プロダクトアナリティクスのレポートを作って、Slackでワイワイしています。
「狙った行動が伸びているかどうか」だけでなく、「この数字も見たいね」といった話が他の職種から出てきたら、「出してみたよ、ここも変化してた!」等のやりとりがあったりします。
皆が集まる場として「クロージングミーティング」と呼ばれる会議を設けており、得られたデータや考察をサービス企画から共有し、3職種でワイワイします。
このときは、今回は上手くいったので、
「この行動もっと増やすにはどうしようか」
「次、こういうアプローチを試してみたいね」
といった会話をし、次の施策が生まれました。
以上が具体的な流れになります。
再掲になりますが、プロダクトアナリティクスを導入し、素早く必要なデータを導き出せるようになりユーザーの解像度が上がったこと、3職種上流から協力して施策を生み出すプロダクトマネジメントにより、このような劇的な変化が生まれました。
ナレッジシェアの取り組み~グロース施策分析~
次に、「ナレッジシェアの取り組み」についてお話します。
市場学習回数が増えると、知見がたまりやすくなります。たとえば、マクロの視点で、こんな比較もできるようになります。
過去と比較です。
同程度リソース・チーム数という前提で半年ごとに比較すると、市場学習回数がアップしていることがわかりました。
先ほどお話しした1.5倍ですね。
どういうプロセスを変えたからなのかを振り返り、今後もKEEPしようとなります。このときは、プロダクトマネジメントとプロダクトアナリティクスの導入が要因でした。
また、同時期のチーム同士で比較することもあります。例えば、チームAと比べて、チームBの方が施策の成功率が高いというデータが出たことがありました。この要因を振り返って、他チームにも横展開します。
こういったマクロの視点で振り返りをすることによる気づきとしては、定点観測することで、日々の健康診断ができ、特徴的な動きの検知ができることがあげられます。
自分達のチームが「月に何本市場学習回数をしていて、成功率が何%くらい」というベースができると、そこを維持できていたら、私たちの活動はうまくいっている、と判断できますし、ベースを上回っていたら、成長を実感し、モチベーションにつながる、ということもわかりました。
ただし、気を付けなければいけないこととして、市場学習回数以外は結果指標であり、成功率や創出CV数自体を伸ばそうとはしない、ということです。
というのは、例えば成功率を上げることに固執してしまうと、確率が高そうな施策しかやらなかったり、必要以上に時間を使ってFACTを集め確率を高めようとしたりと、市場学習回数が少なくなるためです。
あくまでも、コントロールすべきは、市場学習回数であり、打席に多く立って知見を貯めること、つまり「施策を世の中に出してユーザーと多く対話をすること」をプロダクトチーム全体で重視しています。
ここで、「同時期のチーム同士で比較」したときの事例をお話します。「おかわり施策」の成功率は高い、というものです。
「おかわり施策」とはLIFULLの造語で、過去施策の結果を受けてリトライすることです。
うまくいかなかったときは、得られた知見を元に再チャレンジしたり
うまくいった場合は、もっと上げるにはを考えたり
横展開として、他のデバイスでもやろう
というものを「おかわり施策」と呼んでいます。
新規施策とおかわり施策では、施策成功率が1.2倍違いました。
前回の知見を活かして次の施策を考えているので当然と言えば当然なのですが、こうやって数字で出てくると安心につながりました。
みなさんも、ABテストをするとき、ドキドキしませんか?「負けちゃったらどうしよう」とか。
そのとき、「初回だから負けても当たり前、もう一度やったら確率が上がる」というデータがあることで心の余裕もできますし、むしろ「1回だけでこの施策を終わらせたらもったいない」という気持ちにもなってきます。
ちなみに、先ほどお話した、チームBの施策成功率が高かったのは、おかわり施策をちょうどたくさんやっていた時期だったからでした。逆に、チームAは新規施策が多めの時期だったから、というのもわかりました。
気づきとしては、こういった成功パターンを頭に入れておきながら、施策を組み立てていくことは有用であること、ただし、おかわり施策だけでなく、新しい施策・仮説検証をやっていく必要もあるので、バランスだな、ということです。
LIFULLでは、賃貸プロダクトチームだけではなく、アウトカムを全社へ広げる動きもしています。
各プロダクトチームの施策から生まれるアウトカムをピックアップした「アウトカム通信」や
プロダクト部門の総会で、成功・失敗事例の共有をしたり、
部署横断でグロースチーム間の知見共有会を定期的に開催しています。
また、過去施策を検索しやすいよう、施策データベースもあります。
こういったアウトカム事例が社内にあふれてくると、他マーケットやデバイスで横展開がなされるようになり、好循環サイクルが生まれます。
まとめ
最後、まとめとして、私が2年間、プロダクトマネジメントに向き合ってわかったことをお話させてください。
今日はすべてまとめて話をしたのですが、実は2年程度かかっています。
先ほどお話しした、「アウトカム創出までの5つのステップ」という型ができるまでには1年ほどかかっていますし、UXリサーチをうまく取り入れられている実感があるのは、直近半年の話です。
本当に試行錯誤の連続で、最初は混乱しました。
でも、アウトカムが出てくるとこのやり方でいいんだ、と肯定できてきて、そこからは加速した実感があります。
私は、プロダクトチームやメンバーに、この「打席に多く立つ」というメッセージを2年間言い続けました。
その結果、いつの間にかメンバーひとりひとりが、自分の言葉で同じことを言ってくれていることに気づきました。
「打席に多く立つにはどういう工夫をしたらいいかな」とか「ABテストで負けても学びなんだから、次に活かせばいい」とかそういう言葉です。組織にしっかりと浸透している実感があり、とても嬉しいです。
なぜ私たちは、この2年間をうまく走り抜けられたのか?
そこには覚悟があったからです。
「顧客に価値を届けたい、その結果として事業を成長させたい。だからプロダクトマネジメントをやるんだ」
というあるべき姿は疑いようもなく、ちょっとやそっとのうまくいかないことがあったからって、じゃあ止めようとは思わない、そんな覚悟がありました。
その覚悟を支えるものとして、
ユーザーに価値を届けたい、という強い思いや
守るだけでは現状維持すらできない、変わらなければ、という健全な危機感と
ものを作る楽しさ、これは「遠くへ行きたければみんなで行け」に通じるような共に創る楽しさですね
この3つがありました。
私が2年間取り組んでわかったことは、
あるべき姿を定めたら、覚悟を持って進んだらよいということです。
やってみてうまくいかなかったら、状況に合わせてやり方を変えればよいですし、小さくてもよいので良い芽が出てきたら、そこをしっかりと伸ばし、周囲に伝え、成功の輪を広げて行ったらよいと思います。
覚悟を持って仲間と取り組めば、必ず次のステージにいけます。
そして、私たちはこれで完成とは全く思っていなくて、これからも常に進化していきたい、そう考えています。
説明は以上になるのですが、最後にお知らせです。
LIFULLのプロダクトチームに関するnoteがあります。今日お話しした内容の詳細を、メンバーが語ってくれています。ぜひご覧ください。
そして、LIFULLでは一緒に働いてくれる仲間を募集中です。興味を持たれた方はぜひこちらのページにもアクセスしてみてください。
☛サービス企画採用はこちら (カジュアル面談はこちら)
☛エンジニア採用はこちら
☛デザイナー採用はこちら
以上になります。
ありがとうございました!
登壇してみて
私がpmconfに出会ったのは、2018年の「愛されるプロダクトを創ろう」のときです。LIFULLの仲間と現地に足を運び、講演内容に聞き入ったのを覚えています。そのときは、5年後にまさか自分に登壇の機会をいただけるとは思ってもみませんでした。
発表時の「まとめ」にも触れましたが、この数年の私たちは「ユーザーに価値を届け、事業を成長させる」ためプロダクトマネジメントをやると決め、迷いながらも悩みながらも、ひたすらに実行してきました。
少しずつ成果が出はじめて、型と呼べるものもでき、その結果として今回の登壇に至ったのは、まさに点と点がつながったのだと感慨深いです。
(私はスティーブ・ジョブスのconneting the dotsの話が大好きです)
そして、この点があるのは、LIFULLのみんなが職種またいで一丸となって推進し成果が出てきたおかげであり、それを私は代表して発表したにすぎず、みんなに感謝しかないです。
今後のpmconfでも、プロダクトマネージャーの皆さんの参考になるような良い事例をまたLIFULLのメンバーから発信できたらと願っています!